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老いても蒼い衝動ありますか?(小原信治)

コロナ禍で救われた「Radio Garden」

 家で仕事をしているときはスペインのラジオ放送を流していることが多い。地球規模のパンデミックで国境が封鎖されたとき本能的に手が伸びていた〈Radio Garden〉というアプリだ。地球儀を回して地図上に無数に存在する緑色のポイントを選ぶとその町のコミュニティFMでリアルタイムに話している人の声や音楽が聞こえてくる。最初の緊急事態宣言のときには同じような喪失感を抱えている遠い国の人たちと繋がれたような救いがあった。

 セビーリャとかマラガなどアンダルシア地方の放送を聴くことが多いのは何度か訪れた土地だからなのだけれど、それ以上に思考を邪魔されないというのが理由でもある。言葉の五分の一も理解できないので日本語の放送と違って情報は音楽のように通り抜けていく。耳に入ってきた情報が思考の網に引っ掛かったのを取り除くたびに「これはなんだろう?」と確かめたり調べたりすることに時間を奪われることがない。フランス語でもロシア語でも同じなのかもしれないけれど、個人的にはスペイン語が耳馴染みが良い。「分かる」と「分からない」のバランスがちょうど良いのかもしれない。何より流しているだけでスペインで仕事をしているような気分になれる。

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