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老いても答えが出ないことはなんですか?(藤村公洋)


なんといっても薪割りの上手さでしょ


今回の映画メシで取りあげた濱口竜介監督最新作『悪は存在しない』の素晴らしさ、その大きな要因が主人公たくみ役の大美賀均さんの顔や語り口を含む存在感であるのは間違いないでしょうな。彼が冒頭で画面に登場してから数分のあいだワンカットで映される薪割りがね、スコーンスコーンと気持ちいいのですよ。役者のそれには見えない。
かつて『ハッピーアワー』で職業俳優でない女性を主人公に据えた濱口作品を観ていたこともあって「ああ、今回もそれだな。現地で実際に暮らす人なのかも」と考えるのが自然なほどの巧みさ。役名もたくみだしね。巧みな匠。結果的にいえば僕の想像は半分当たって半分は考えすぎでしたねー。
大美賀さんは映画制作の裏方の人であって俳優ではない。そこは正解。でも現地で日常的に薪割りする人ではない。だったらどうしてあんなに上手いのかしら。僕はぜんぜんアウトドアな人間ではないしマッチョな考えを持たない男ではありますが、ああいった野生的な技術には単純に憧れますな。かっこいい。割った薪をネコ(工事現場などで使う一輪の手押し車)に乗せて薪貯め場所まで運び終えてタバコを一服。そこまでがワンシーンワンカットなのよ。タバコがまた美味そうでね。昔のマルボロとかキャメルのCMのよう。
確かに小原くんの言うように薪に細工してあったのかもしれない。とはいえワンカットであの量をこなすのは大変ですぞ。身のこなしの音だってよかったですしね。
話は逸れますが、料理人の技量はその人がたてる音にも現れるものなのですよ。つまりデキる料理人の包丁さばきや鍋さばきは心地いい音がするの。リズムがいいだけでなく物語性のあるメロディを奏でますしね。そんな音から生まれる料理はたいてい旨い。
だから薪割りも料理も同じでしょうな。まずはアクションと音。それがいちばん大事(©︎大事マンブラザーズバンド)
といったわけで、「写っているモノや聞こえてくる音が良い、それだけでもう素敵な作品」派のワタクシがお送りする『渋谷のラジオの惑星』編集後記4月号、はじまりはじまり〜。

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