#掌編小説
春風美神アンビバレンス(掌編・春)
僕に言わせれば、あなたは美神に愛されたのよ、ということだ。だけどあなたはすこしもその美しさを利用しようともしないで、それどころかその美しさを見逃さない他人に指摘されるばかりの人生に困惑している――ボクの顔に何があるというのかわからないけど、どうかボクの中身を認めてほしいんだけどな。ま、いっか――さらにはこんな具合に思考が謙虚で純朴であるせいで人格まで完璧になるっていう見事さだ。本気でそんなことを
もっとみるガラス戸、歪んで眩暈、それから虚脱(掌編・別離)
イノダコーヒーではなく、イノダコーヒ、なのだ。
伏せられた伝票に印字されたコラムを見て、ぼんやりと思う。
冬の快晴は白っぽく、目を刺してくる。ガラス戸は厚さが均等ではないのか、光が歪んでいる。視線を動かすと眩暈がした。
彼がカップに指をかけた。ソーサーが密かな音を立てた。白い磁器の濡れたような艶を見て、この席の贅沢さにちいさな感謝が湧く。光があたらない奥の席も落ち着いて良いのだが、この光量