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#創作大賞2024
【短編小説】AIの夢見る夜は 第5章:シナプスの蝶番
第5章:シナプスの蝶番
1:記憶の迷路を彷徨う影
意識が戻った時、私は見慣れない白い天井を見上げていた。頭に無数の電極が取り付けられ、耳元では機械音が規則正しく鳴っている。
ルクの研究室のベッドだと気づくまでに、少し時間がかかった。
「エレナ、大丈夫か?」
ルクの声が聞こえた。彼の顔には安堵と懸念が入り混じっていた。目の下にくまがあり、何日も眠っていないように見えた。
「ルク...何が起きたの
【短編小説】AIの夢見る夜は 第4章:幻視の螺旋階段
第4章:幻視の螺旋階段
1:揺らぐ世界
ルクとの共同研究が始まってから、私の日常は一変した。朝早くから夜遅くまで、彼の研究室でニューロリンクの実験に没頭する日々。帰宅後も、深夜まで小説の執筆に励む。睡眠時間は削られ、食事も不規則になった。しかしそれは苦にならなかった。むしろ、この生活に心躍らせていた。
人間の脳とAIが直接接続する「ニューロリンク」。それは、まさにSFの世界が現実となったような
【短編小説】AIの夢見る夜は 第3章:コードネーム:ニューロリンク
第3章:コードネーム:ニューロリンク
1:新たな出会い
芸術大学を卒業してから、私は都市の中心部にある小さなアパートに住んでいた。
この部屋は、私がひとつひとつこだわって選んだアンティークな家具やクラシカルな装飾品で満たされており、外のAIで管理された無機質な世界とは対照的だった。
窓の外には、ホログラフィ広告が絶え間なく点滅し、自動運転車が規則正しく行き交う。そんな無機質な光景を背に、私
【短編小説】AIの夢見る夜は 第2章:閉ざされた心
第2章:閉ざされた心
1:歪んだ家族の肖像
私は最北東の小さな町で育った。蒔縞家は代々事業を営み、父は四代目だった。古風な価値観を大切にする家で、幼い頃からクラシック音楽や文学に触れる環境が整っていた。
父は熱心な読書家で、書斎には古今東西の文学作品が所狭しと並んでいた。夏目漱石の『こころ』や太宰治の『人間失格』といった日本文学の古典から、ドストエフスキーの『罪と罰』、カフカの『変身』といっ
【短編小説】AIの夢見る夜は 第1章:境界線上のエレナ
第1章:境界線上のエレナ
1:AIの狭間で、私を生きる
私の名前は蒔縞エレナ(まきしま・えれな)。純文学の小説家、そしてフランシス・ベーコンのような抽象画を描く芸術家だ。このAIが完璧に管理する無機質な世界で、私はあえて時を止めたかのようにクラシカルなものを愛する。古い映画、クラシック音楽、そして使い込まれたアンティーク家具たち。それらが、この息苦しい世界で私を癒してくれるのだ。
その日