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名無しの島

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フリーのルポライター、水落圭介はある出版社から、 ある島に取材に行ったきり、 行方不明になった記者を見つけてほしいという依頼を受ける。その記者は古い友人でもあった圭介は、 その依…
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#ホラー小説

名無しの島 第21章 感染

名無しの島 第21章 感染

 扉を開くと、そこは居住区に入る前と同じような、

狭い部屋だった。

対角線上に鉄扉があるのも同じだ。床もクリーム色のリノリウム。

後戻りしたのかと錯覚するほど、同じだった。

ただ少し違うのは、部屋の隅に長さ1メートル強、

直径3センチほどの鉄パイプが、数本立てかけられていることだった。

厚みは2ミリくらいある。丈夫そうだ。

水落圭介はその中の、比較的錆のすくないものを選んで、

杖代

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名無しの島 第22章 脱出まで38時間

名無しの島 第22章 脱出まで38時間

「彼女たちには、黙っておきましょう。

動揺させるだけですから・・・」

 小手川浩は部屋の隅で寝ている、

有田真由美と斐伊川紗枝の二人を見やった。

 そしてまた咳き込むが、音を立てまいと、

自らの両手で自分の口を塞いだ。

「あの二人も感染してるってこともあるのか?」

 水落圭介は訊いた。

「わかりません。経口摂取による感染なのか、

 接触による感染なのか、

 それとも空気感染なの

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名無しの島 第23章 揺らめくもの

名無しの島 第23章 揺らめくもの

 それからの30分の間、小手川浩も水落圭介も無言だった。

だが、互いの気持ちは似たようなものだった。

次第に化け物になりつつあるかもしれない、二人とも・・・。

 彼女たちは大丈夫だろうか。

圭介はまだ寝ている彼女たちを見やった。

特に有田真由美は化け物の爪に足を掴まれている。

それも食い込み鮮血を流すほどに。

有田真由美も感染しているかもしれない。

斐伊川紗枝は感染してはいないのだ

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名無しの島 第24章 桜井章一郎

名無しの島 第24章 桜井章一郎

「桜井・・・桜井章一郎なのか?」

水落圭介は、その何者かに訊いた。声は震えている。

それは桜井章一郎が生き残っていた・・・驚きのせいなのか、

それとも、言い知れぬ悪い予感が生ずる恐怖からなのか。

10メートルぐらい距離があっても、

桜井章一郎の姿が変貌していることは、見て取れた。

だが、その顔形には、以前の見知った桜井章一郎の面影が残っている。

 肌は灰色がかっており、顔はかつての面

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名無しの島 第25章 歪むリノリウムの床

名無しの島 第25章 歪むリノリウムの床

 研究室に続く下り階段は、これまでと違い、

コンクリート製の頑丈なものだった。

ところどころ、シミ見たいなものが浮き上がっていたが、

崩れる様子はまったくなかった。

研究室はどれだけの広さがあるのか、検討もつかなかった。

すべてが闇に閉ざされていて、何も見えない。

ただ、巨大な空間が広がっているのは、感覚でわかる。

 4人は慎重に階段を降りていった。一歩一歩確実に。

そこで、ふいに

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名無しの島 第26章 灰色の手

名無しの島 第26章 灰色の手

「あのドアかしら?」

 有田真由美は、部屋の右端にある扉を指差した。

ノブは通常のものだ。少し錆付いている所を除けば。

有田真由美が、ノブに手をかけてひねるが、びくともしない。

よく見ると、ノブの下に鍵穴がある。

その様子に気づいた小手川浩が、部屋中を探し出した。

すると、配電盤の横の壁にある、小さなフックにキーを見つけた。

小手川浩は、その鍵束を手に取った。その鍵束に視線を落とす。

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名無しの島 第27章 ワクチン

名無しの島 第27章 ワクチン

「感染?何の話なの?」

 小手川浩の言葉を聞いた斐伊川紗枝の声には、

驚きと怯えの入り混じっていた。

「紗枝ちゃん、これにはわけが・・・」

 有田真由美が斐伊川紗枝をなだめようとするが、

彼女のパニックは収まりをみせなかった。

「前から変だと思ってた。水落さんは顔色悪くなってるし、

 小手川さんは左目、銀色に・・・

 あの化け物みたいになってるし・・・」

 斐伊川紗枝の両目から、

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名無しの島 第28章 巨大水槽

名無しの島 第28章 巨大水槽

 その水槽は長さ10メートル、

幅4メートル、高さ3メートルあった。

中には緑色の液体で満たされていたが、4人が目を見張ったのは、

その液体の中に入っている異形のものだった。

それは今までの化け物とは、形態がまるで違っていた。

水落圭介たち4人は、その巨大な水槽の周囲を回りながら、

その異形のものを見ていった。誰もが無言だった。

 元は人間だったものを、両腕を残し、

首と下半身が切

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名無しの島 第29章 小手川浩の献身

名無しの島 第29章 小手川浩の献身

 保存庫の中には他にもあった。

B5サイズくらいの茶封筒を見つけ小手川浩は手に取った。

その袋を慎重に開けてみる。

中には6本の細くて小さい注射器が入っていた。

それは保存状態も良く、

70年以上も前のものとは思えないくらい、真新しい。

「・・・でどうするの?ジャンケンで決める?」

 有田真由美は、おどけた素振りで言った。

「命のかけてのジャンケンか・・・」

 水落圭介もほくそ笑

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名無しの島 第30章 犠牲者

名無しの島 第30章 犠牲者

 化け物を沈めていた水槽に、

クモの巣状に大きな亀裂が入っていく。

亀裂はさらに稲妻のように広がって、今にも破壊されそうだ。

水槽内の人体ムカデは暴れ狂っていた。

人体ムカデは巨大な体躯をうねるようにくねらせ、

20本以上ある腕で、水槽を内側から所かまわず殴りつけている。

二つの上半身の二つの頭は銀色の目を見開き、

裂けたような口を大きく開け、無音の叫びを上げている。

そして、今は

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名無しの島 第31章 銀色の目

名無しの島 第31章 銀色の目

 人体ムカデが、凶悪な形相で迫ってきた。

もう3メートルも離れていない。

だが、水落圭介は鉄扉を押さえている両手を離せなかった。

というより、恐怖で体が膠着して、身動きできないでいた。

有田真由美の凄惨な殺され方を目の当たりにして、

金縛りにあったように、体がいうことをきかない。

意識では早く逃げねばと思いながらも、

どうにもならないでいた。

まるで両手が鉄扉に接着されたかのようだ

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名無しの島 第32章 地響き

名無しの島 第32章 地響き

 その轟音は地鳴りのように響いて、部屋全体を震動させた。

天井からコンクリートの破片が、時雨のように落ちてくる。

間違いない。隣の部屋にいる、

人体ムカデが壁に体当たりをしているのだ。

しかし、壁も厚さは1メートルもあるのだ。大丈夫だ。

水落圭介はそう思いたかった。

斐伊川紗枝は不安そうに、脱出ハッチに足から入っていった。

まだ、ハッチの縁を両手で掴んでいる。

まだ降りる決心がつか

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名無しの島 第33章 爆発

名無しの島 第33章 爆発

「水落さん、早く逃げてッ!」

 遠くで小手川浩の叫ぶ声がした。

圭介は反射的に、脱出ハッチに足から飛び込む。

それでもなお、人体ムカデは追ってきた。

脱出ハッチに入ろうとするが、あまりの巨体で入って来れない。

しかし、化け物は諦めていない。無理やりにでも、

体をねじ込もうとしている。

水落圭介は、そんな化け物を見上げながら、

外へと続くパイプの中を滑り落ちて行った。

小手川浩は、

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名無しの島 第34章 船影

名無しの島 第34章 船影

 水落圭介は、よろめきながら、

あちこちが痛む体に渾身の力を込めて、なんとか立ち上がった。

ふたりとも全身ずぶ濡れな上、着ている服は泥と煤にまみれ、

あちこちが破れている。

斐伊川紗枝も上半身を起こした。

彼女の視線は怯えきった視線を辺りに走らせている。

「水落ちさん、左腕が動かない・・・」

 斐伊川紗枝が、圭介に向かって訴えかけるような、

それでいて力のこもらない声で言った。

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