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短編小説:「ある収集家達の夜」後編

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回で最後の〝収集家〟です。
基本は子供の頃に観た短編映画を元に書いたのですが、これを書きたくなったそもそもの要因が「この短編映画のオチが凄く好き!」というところにあります。僕は基本、結構捻くれた性格なのですが。
その性格に間違いなく起因した物語の一つでもあります。
とりあえず、ちょっとでも楽しんでくれると幸いです。


【ある収集家達の夜】後編

作:カナモノユウキ


最後の展示室へ続く廊下は真っ暗で、その先すら全く見えない。
世雲外がどこからか出したランプで足元を照らしながら先導するが、ランプの明かりも弱く薄暗いまま。
すると、廊下の途中から下り階段があるようで「手すりにおつかまり下さい。」と促される。
こんな暗闇で、しかも下へ向かうと言うのか……先ほど感じた不安がどんどん膨れ上がる。
やはり、強がらずに断って帰ればよかったのではないだろうか……。
だが私は、そんなことを考えても遅いところまで、来てしまったのだろう……。
そんなことを考えていたら、暗闇の中に薄く光るガラス扉が現れた。
「さぁ到着ですよ、ここが特別なエリア。未確認生物のはく製エリアです。」
「え ? ……今、何と言いました?」
私の質問には答えず、何だか満足げな世雲外は先ほどのリモコンを取り出してボタンを押すと扉が開いた。
待っていたのは、先ほどの恐竜とは違い……見たことも無い生物の数々。
……こんなものは、もうはく製のコレクションと呼べるのだろうか。
「……こ、この生物は一体。」
「先ほど申し上げた通り、未確認生物のはく製です。あちらには〈ビッグフット〉、別名は〈サスカッチ〉ですな。その横には〈チュパカブラ〉と〈ナイトクローラー〉、あぁ天井に吊るしてあるのは〈スカイフィッシュ〉ですな。」
……他のエリアとは全く違う、まるでエイリアンの実験場だ。
先ほどの研究所で見た透明なガラスの筒の中に、テレビの特番で見たことがある程度の謎の生物が入って居る。
自慢げにこんな訳の分からない動物を見せびらかす神経は、一体どういうことなんだろうか。
確かに興味はあった、こんな場所ではく製を集める人物のコレクションはいったいどんなものなのか。
だがここまでは想像していないし、求めていない。もう興味と言うより……ただの恐怖だ。
「こ、これも貴方が作ったのですか ? 」
「はい、大変でしたよ。この生物たちは細かい目撃例はあれど生態も生息地も曖昧でしたからね。
 探し出すのに5年も掛かった個体もいますよ。」
「よくもまぁ……ご自分で見つけ出したのですか ? 」
「勿論ですとも、私ははく製の為ならばどんな場所のどんな生物も手に入れます。それが人知を超える生物でもね。」
「…収集家であり、博士でもあり、冒険家でもあるのですね世雲外さんは。」
「ハハハ ! そうかもしれませんな。…本当に、この地球と言う星は生命で満ち溢れておりますからな。このような不思議な生物達も居るんですから、はく製にする生物に事欠かない素晴らしい星でございますね澤枝様。」
「……そこまでして、自分だけのコレクションが欲しかったのですね。」
「澤枝様なら分かってくださるでしょう ? その手中に、自分だけの世界を収める意味を。」
「……いわゆる〝神様〟になったような、あの気分ですね。そこは理解できますとも。生きて居た動物が死して尚その雄姿を自分の前で見せてくれるあの感覚は形容しがたい多幸感がある……。」
だが、コレはやりすぎだ。コレクションはあくまでも〝人の理解が及ぶ物〟に限るのではないだろうか。
人の理解の範疇を超えたコレクションは、恥部をさらけ出すだけの醜いものだろう。
コレを見て、私はそれを強く感じたぞ……この世雲外は改めてヤバい奴だと認識しなければ。
「その感覚を知る方が私以外にも居るならば、やはり貴方だと思っておりましたよ。澤枝修二郎様。」
「それは光栄です……ここについての聞きたいことは山ほどありますが……。そろそろ最後にして今日の本題、〝世界にひとつのはく製〟を見せて頂きませんか ? 」
「……フフ、では参りましょうか。最後のはく製へ。」
私はこのエリアで心に決めたことがある、それはこの申し出を断ろうという事だ。
正直に言うと、もう譲り受けるはく製などはどうでもいいほどに、この世雲外一睡に恐怖を覚えてしまったからだ。
私は確かに富裕層ではあるし、娯楽としてはく製を愛でるという趣味がある。
だが私は、あくまでも趣味なのだ。
こんな〝海を切り出す技術〟や〝恐竜を引っ張り出してはく製にする〟こともそうだ。
〝未確認生物を見つけ出してはく製にする〟といった常軌を逸した行動は取らない。
こんな行動をとる輩は大概が〝異常者〟だ、私は基本的に異常者を好まない。
こういう金を持て余した異常な奴は、とびっきりの厄ネタを持っていることが大体だ。
……今回のケースだと、やはり〝人間のはく製〟だろうか……。
確かに昔から人間のはく製の様なものは世界中にある、〈ミイラ〉がその一例だが。
あれはまた違うものだな、乾燥させたただの死体と言っていいだろう。
…過去に人間のはく製を作ろうとした者が居るというのを聞いたことはあるが。
どう考えても倫理観としておかしい、間違っている。
この〝はく製〟と言うのはあくまで〝人間以外〟で無くてはならない !
はく製は即ち、【人間こそが神、神こそが人間】という理を体現した物体に他ならない !
名立たる種類の動物が死して尚、人間の観賞用の娯楽となり果てる、そこに意味がある !
名家である澤枝家は代々そうして、帝王学を学ばせてきた。
はく製を愛でることは即ち、神に等しい行い。つまりは神でないと出来ない所業だ。
私は別に人間の死体を受け取りたくない訳ではない。
そんなものを愛でる趣味も無ければ、そんなものを我が澤枝修二郎のコレクションに加えたくも無いのだ。
あくまではく製は人間以外の動物、特に大型の肉食動物などが分類される哺乳類に限る !
……世雲外の言う内容には〝世界でひとつの哺乳類のはく製〟とあったが…………いや、まさかな。
フッ……ハハハ ! 少しネガティブな考えにとらわれ過ぎてしまったかもしれない。
これはあくまで私の予想じゃないか、もしかしたら全然違うかもしれないし…すこし飛躍した考えだったかな。
ただコイツが異常者なのは間違いない、最後のはく製を拝んで申し出は断り、さっさとここから帰ろう。
それにしても、先ほどの未確認生物エリアからだいぶ歩いたように感じたが、まだ着かないのか ?
奥に進めば進むほど暗いし、もうここが廊下なのか部屋なのかすらも見当がつかないぞ。
……私は、一体どこに案内されているんだ。
「暗い中を長々と歩かせてしまい、大変申し訳ありません澤枝様。」
「…いやいや、お気になさらず。にしても本当に大きなお屋敷ですね。
私の友人にもこんな広大な屋敷を持っている人は居ませんよ、……まだ、はく製には辿り着かないのですか ? 」
「もう少しでございますので、どうかお付き合いください。」
「……あの差し出がましかも知れないのですが、明かりをつけて頂けませんか ? 少しばかり暗闇が苦手なもので。」
「これも演出の一つですので、どうかもう少し我慢をお願いいたします。」
「……分かりました。」
〝演出〟とは一体何なんだ……まさか相当に大きな哺乳類のはく製なのか !?
海洋生物のはく製に〈ザトウクジラ〉があったしな。
未確認生物エリアでは見かけなかったが、この世雲外なら〈ネッシー〉もはく製として所有しているのではないか。
先ほどまで不安がっていたが、〝人間のはく製〟なんてものを出すのにこんな暗闇は必要ないしな。
……きっとそうだ、私に譲りたいと言うはく製は〝巨大哺乳類のはく製〟だ !
…ん ? ……アレ ? 世雲外はどこに行った ? 暗闇で気付かなかったが、世雲外の気配も感じないぞ。
…おっ ? 少し先にライトに照らされてテーブルと椅子がある、……ここで休んでいろと言うことかな ?
周囲は依然として暗いのに、ここだけ明かりが照らされている。
テーブルには水が入ったグラスがある、そう言えばなにも飲まずにここまで来たから喉が渇いたな。
「おーい、世雲外さーん。…ここの水、頂いていいかなー ? 」
………返事がない、まぁこんな豪邸の人間だ。水を飲んだぐらいで何か文句を言うことは無いだろう。
それに今思えば、休憩もせず茶菓子も出さずにはく製を見せ続ける世雲外も大概だしな。
んっ…んっ…んっ……ふう、何だか酸っぱい水だな。今話題のデトックスウォーターってやつか。
歩き疲れたし、椅子で休んでいればそのうち向こうから現れるだろう。
ふぅ……にしても暗いな、何も見えないし目が慣れない……。
ん ? 何か後ろに気配を感じる……世雲外か ?
んん ! ? ! ! ? グウッ ! ! ? ! ! ? ガァッ ! ? ? ! !
く、首になにか妙な物をはめられた !? 冷たい…鉄の…首輪 !?
な、何だか上から何か降りてくる音も聞こえる……、あれは…ガラスの壁か ?
「いやいや、お疲れ様でした澤枝様。」
「おい ! 何だコレは !? 」
「ここが最後のエリアでございますよ。」
「そんなことはさっきの説明で分かっている ! この状況は一体なんだ ! 最後のはく製はどうした ! 」
「最後のはく製は、もうこの部屋にありますよ。」
一気に明かりがついて、部屋の全貌が視界に飛び込んで来た。
研究室と同じような白い壁に、私の正面にある壁だけ……鏡張り ?
周囲に目をやると、私はあの〈ウサギ〉が入った機械の中にいるじゃないか……まさか。
「その顔はお気づきになりましたね、流石は澤枝様。」
「………お前、私を〝はく製〟にするつもりか ? 」
「え ? ハイ。」
……異常者、この男は間違いなく…異常だ。
「その中なんですから、言わなくても分かっていただけると思ておりました。」
「……そんなことをしたらどうなるか分かっていないのか ? 」
「どうなるというんですかな、貴方一人がはく製になったからと言って。」
「どうなるって……、警察や他の者が探しに現れたら…お、お前が捕まって死刑になるぞ ! 」
「死刑ですか……ですがそれは『人間のルール』ですよね ? 」
「……あ、当たり前だろ。」
「それは『人間』ではない存在には、有効なのですか ? 」
「…え ? 」
そう言った世雲外は、着ていたタキシードや下着といった衣類全てを脱ぎ捨てた。
……目の前に不気味な体が露わになる、顔や手足は人間だが……乳首や生殖器が…無い。まるでゴム人間だ。
そして首の後ろ側に手を廻し…まるで着ぐるみを脱ぐかのように、人の皮を……剥いだ。
脱ぎ捨てられて裸のようになった世雲外は、真っ黒い人型で……ぼんやりと顔面に目玉だけがハマっている。
『もう一度お伺いいたしますね、「人間」じゃない者は…罰する対象になりますか ? 』
「…………。」
『…沈黙も、答えと受け止めさせていただきます。』
「…………お前は、誰だ。」
『私は収集家ですよ、貴方と同じ。但し、「規模」が違う収集家ですがね。』
「その、規模って……どういうことだ。」
『私の規模は「宇宙の星々」ですから、貴方のように地球という小さい規模ではないと言うことです。』
「……〝世界でひとつの哺乳類のはく製〟とは、私だったのか。」
『澤枝様、貴方で丁度地球のはく製はコンプリートでございます。遠路はるばるありがとうございました。』
「……どうして、私なんだ。」
『簡単ですよ、私と似ているからです。』
「……どこが似てるって言うんだ、お前みたいな異常なものと。」
『そっくりでしょ ? 「収集家」で「神様」なところとか。それに、私も貴方も対して違いはないじゃないですか。「神様は自分だ」と、思っていたい所なんて私そっくりですからな。それを愛でたいんです。可愛がりたいんです。まるで自分自身をはく製にしたような、そんな貴方のはく製を…とことん愛したいんですよ。』
黒い顔の目だけが笑っている、異常な存在……これが私なのか。
違う世界の違う場所で生きた自分自身が今……私をはく製にしようとしていると言うことか。
……ここまで来て、「助けてくれ」などと言う気にはもうならない。
いや、なり損ねたと言っていいだろう。
私は所詮、〝人間〟なんだ。
『では、澤枝様。これからよろしくお願いいたしますね。』
「これから、どうなる。」
『もう地球には用はありませんので、別の地でまたはく製づくりを楽しみますよ。』
「……え ? 」
『ですから、地球を離れます。』
「…………嫌だ、それだけは嫌だ。」
『何故です ? 先ほどまで自分の状況をよく理解していたじゃないですか。』
「……私はこれから、お前の〝見世物〟として…ここにいなきゃいけないんだろ ? 」
『そうです。』
「私がはく製になった姿を、お前以外にも見られると言うことだよな ? ……今回みたいに。」
『光栄に思ってくださいませ、この私のコレクションの目玉になりますよ。』
「………………はぁ………………はぁ…………………………………はぁ……もういい。早くやってくれ。」
世雲外がリモコンを使い、白い壁が透明になり始めて外の景色を写し出していく。
なんだか足元も揺れている……飛行機の離陸のように。……そうか、そう言うことだったのか。
……ここは〝宇宙船〟だったのか。
あの屋敷を囲っていた壁の謎も、世雲外の高い技術力も……全て、地球の技術じゃなかったのか。
上昇していく景色を眺めながら、首元の装置が作動した。
鈍い痛みが走り、首輪から伸びる二本の管の内の一本へ自分の血が流れていくのが見える。
もう一本からは、青い液体が昇って来る……アレが内臓凝固剤と言うやつか。
……ゆっくりと意識が遠のく、身体が動かなくなり始めたな。
せめて、情けない姿ではく製になど成りたくなきからな。
……鏡張りの壁を眺めて、自分の最後の姿を決める。
視界の端でとらえた外の景色は、もう宇宙の中だった。
私は……はく製を、貰いに来た……だけなのに……何故こんなことに。


『フフフ、では作品のタイトルは【愚かなる収集家の人間】に……致しますかね。』


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

……と言うことで、子供の頃に観た短編映画を書いてみた訳ですが。
まぁもうほぼ大体オリジナルと言うか、本当に〝こんな感じだった〟と言うニュアンスで出来上がったので…見ていた本物とは全く違いますが悔いはありません。
中編の方でコメントがありまして「ナポレオン狂」と言う作品ではないですか?とご意見いただけて、本編を読めてはいませんがあらすじをお聞きして大体一緒だったのでびっくりしたのですが。
その「ナポレオン狂」といい「注文の多い料理店」といい、〝主人公が得体の知れない相手にどんどん落とし込まれる〟そういうストーリーと言うのは結構世の中に溢れているのかなと感じて。
それならば、僕が観たこの名前も分からない短編映画もどこかでまた出会えるのかなと思ってしまいました。
今回書き上げて、「うん、こんな感じだった!」と強く思えるようになったので、気長にまた探していこうと思います。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


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