迷える私が氏神様で拾ったもの|第9話
山伏・佐藤さんから、山の神様にご挨拶に行こうと誘われた私(第8話)。
行くと返事ができないまま、1ヶ月ほどが経った。
この頃の私は、沸き起こる様々な気持ちを処理し切れず、不安定な状態に陥っていた。
神様事という、考えてもいなかった道に心惹かれる気持ち。私に何ができるのかと疑う気持ち。
いっそのこと、もっとはっきり霊感がつけば、迷わずに済むのにという気持ち。
一方で、早く仕事を見つけなければと焦る気持ち。家族に心配をかけたくない気持ち。
挙げれば切りがない。
相反するたくさんの気持ちに引き裂かれる感覚。苦しくて、早く自分を何かにあてはめたくなる。
修行するならする。元の世界に戻るなら戻る。どこに向かって走っていくのか、早く目的地を決めてしまいたかった。
そんなある日。その日は実家に行くことになっていた。駅に向かう途中、地元の氏神様と言われる神社に参拝した。
普段あまり行くことはなかったが、その日はなぜか足が向いたのだ。
迷える私は、一体どうしたら良いのかと一心不乱に祈った。その後、実家に向かった。
***
私は隠しごとのない家庭で育った。
両親は、私が小さな時でも子供扱いせず、何でも包み隠さず話す人達だった。自然に私も両親には何でも話すようになった。
だが、さすがに今回は、洗いざらい話す気にはならなかった。
本当は、今回の帰省で、就職をどうするのか両親に知らせるつもりでいた。だが、話せることは何もない。
「4月から就職活動をするつもりでいたが、まだその気持ちになれない」とだけ、何とか伝えた。
心配はしているが、何も言わず見守る両親。それを知りながら、何も話せないことが苦しかった。
その日の夜。私は突然、経験したことのない悪寒に襲われた。
自分が乗っ取られてしまったような感覚。この身体から自分が出て行ってしまう恐怖。
ぶるぶる震えながら、声を上げることもできないまま、一夜を過ごす。夜が明け、身も心も骨抜きにされたような状態になった。
「氏神様で何かに憑かれた」
朦朧とする中で、私はそう確信した。
当時、自宅で火の玉のようなものを頻繁に見るようになっていたことも頭にあった。
***
「このままでは、どうにかなってしまう」
危機感を抱いた私は、何とか東京に戻り、すぐに山伏の佐藤さんに会った。
事情を話すと、「私は霊は視えないから、どうかな」とはじめは言われた。
神様とお話ができることと、霊が視えるのは別物なのだと言う。例えるなら「周波数の違い」のようだ。
だが、しばらくして、小声で何かに向かってつぶやき出した。すると突然、身体が元に戻ったのを感じた。
佐藤さんは多くは語らなかった。
だが、私には、実際に行った神社よりも、別のところに祀られている氏神様の方が良いことを教えてくれた上で、こう言った。
「場合によっては、目に見えないものに憑かれても良いと思っていたでしょう」
「そういう気持ちでいると、変なものに乗っ取られてしまう。良い人間と悪い人間がいるように、あちらの世界も、良いものばかりじゃないのよ」
確かにそうだ。私はそう思った。
いっそのこと迷わずに済むくらいの霊感がつけば良いのに。そんな自暴自棄な気持ちがあった。迷うあまり、自分を見失っていた。
そのことを見透かされたのだ。
私はとうとう観念した。ついに、八海山に登ることを決意したのである。
つづく
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