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『子ども白書2022』ができました(4/5)先行公開 特集にあたって② 「子どもたちに、『子どもの権利条約第17条』を!」(成田弘子・子ども白書編集委員(メディア))

 1964年の創刊以来、今年で58冊目を迎えた『子ども白書』(日本子どもを守る会編)。児童憲章の精神に基づき、子どもたちが安心して暮らし、豊かに育ち合っていける社会の実現をめざして刊行を続けています。今年の特集は「オンラインで変わる子ども世界 コロナ禍からの問いかけ」。かもがわ出版のnoteで内容を一部公開していきます。今回は、特集にあたって②です。

特集にあたって②「子どもたちに、『子どもの権利条約第17条』を!」(成田弘子・子ども白書編集委員(メディア))

急ピッチで進むオンライン教育

 全国公立小中学校の児童生徒に1 人1 台の情報端末を整備し、GIGA スクール構想を推進するオンライン教育は、2022 年4 月で開始から1 年が経過しました。教育産業のつくったデジタルコンテンツには、授業支援ソフト、プログラミング教材、学習用VR コンテンツ、さらに教師用の児童採点、生徒管理、校務支援システムまで、いろいろ用意されています。こうしたデジタルコンテンツは「デジタル教育の目玉」とされ「誰一人取り残すことなく、公正に最適個別化」「一人一人の習熟度に応じた学習」という聞き心地の良い言葉で飾り立てられています。ところが、本来は職員研修を積み重ね実践するべきところ、コロナ禍による前倒し導入で「とにかく使わせよう」とばかりに文部科学省や自治体教育委員会からの圧力で、現場ではさまざまな問題が出ています。

 さらにこのような状況の中、文部科学省は、2024(令和6)年度から学習者用デジタル教科書の本格的な導入を目指すとしています。

デジタルと紙の教科書をどう使うか?

 この問題について、言語脳科学者で、東京大学大学院の酒井邦嘉教授は「デジタル化のメリットに一定の理解」を示しながらも、考える前に調べるようになってしまうことなどをはじめ、複数の危険性に警鐘をならしています。例えば、液晶画面で読むものは紙の教科書と違い、「空間的な手がかりが掴みにくい」ため記憶に残りにくく、「ネット検索で情報過多になり、考える前にすぐ検索してしまい頭を使わなくなる」というのです。そして「メモをとる能力と字を書く能力、そして内容を咀嚼する能力が落ちてしまう」ことを挙げています。「人間は記憶力を元に新しい思考や創造的発想を生み出してゆくため、記憶力を優位にする『紙に触れ、手で書く』という行為をおろそかにしてはいけない」のです。

 酒井教授は「教科書は時代遅れ。タブレットこそが最先端という考えは、パンデミックをきっかけに急速に広まっているが、時代遅れどころか、紙の本とノートを使うことこそ最先端だ」と言い切っておられます(堤未果「デジタル・ファシズム」NHK出版新書より引用)

 「2021 子ども白書」メディア領域「この1 年」においても、デジタル教科書導入に対して研究者や識者から懸念が表明されていることを紹介しましたが、文科省はそれらの声に耳を傾けようとせず、導入を急ピッチで進めています。

 GIGA スクール構想は文科省だけではなく、内閣官房IT 総合戦略室、総務省、経済産業省が旗振り役となっていることから考えると、経済の利益優先が透けて見えます。しかし、文科省は一番に優先すべき「子どものからだや脳の健康問題」を見て見ぬ振りをして後回しにしていると感じます。

 本来は、おとなと違い成長過程にある子どもの使用はより慎重にするべきところですが、現状は逆の方向に向かっていると思えてなりません。

オンライン教育のゆくえ

 しかし一方で、今回の「特集」では様々な方から「オンラインで変わる子ども世界」論考を頂き、「オンラインの可能性」も示されました。

 今、日本の教育のあり方が大きく変わろうとしていることを感じます。先進諸国に比較して遅れていたオンライン教育は、今回のコロナ禍を奇貨として一気に進んでいます。「何事も一気に進むときには行き過ぎなど試行錯誤がある、やがて軌道修正される」ものという言説がありますが、私は楽観的にはなれないのです。

子どもたちにデメリットの情報を届ける!

 日常に欠かせない存在となったスマホやタブレット。さらにオンライン授業が導入されスクリーンタイムの増加に対して、啓発活動をしている筆者には、保護者から「こんなに長期間使うようになって、子どもや若者に影響はないのでしょうか」という不安や「学校で使わせているのだから仕方ないですね」という半ば諦めの声が届きます。

 子どもと保護者に対して、「デジタル教育の目玉」としてメリットの情報だけを流し続けるのが日本の教育行政の現状で、都合の悪いことを隠しているのは、あまりにも子どもに対して失礼な態度だと私には思えます。その態度と比べると、スウェーデンの教育行政は、誠実にデメリットを就学時の子どもや保護者に知らせ、子どもたちに「運動」を取り入れる対策を実施しています。筆者にはこれこそ、おとなとして子どもに対するマナーを実践している好例として、日本にも推奨したい方法です。

 アンデシュ・ハンセン氏の『スマホ脳』と『最強脳』の訳者でスウェーデン在住の久山葉子さんは、『スマホ脳』の訳者あとがきの中で「親も学校もそのあたりをわからないままIT の革新に流されているのが現状だ」ととらえ、お子さんが通う小学校で「入学式の前にアンデシュ・ハンセンのTED トークのリンクが保護者全員に送られてきていた」ことを紹介しています(アンデシュ・ハンセンTED リンク https://note.com/lei_trjp/n/n5ae44f59cfbd)そして、「大人が自分のために知っておくべきこともたくさん詰まっている」として、子育て中の久山さんにとっても「人生のバイブル」と述べておられます。

  アンデシュ・ハンセン氏の最新刊『最強脳』では、子どもに向けてデメリットと対策をわかりやすく説明してあります。これを読むと「なるほど、そういうことか」と子どもは考え判断する事ができるでしょう。子どもは正しい情報を得れば、自身が考え判断する力があると信じたいと思います。
当事者である子どもたちに、「子どもの権利条約 第17 条」【適切な情報の入手】を。(https://www.unicef.or.jp/kodomo/kenri/syo17-24.html)

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『子ども白書2022』