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12月29日のお話

12月29日のお話

車窓から、まっすぐ正面に満月が見えました。
眼下には町の明かりが、地味に、控えめに広がっています。

新宿発の特急電車。
カイネが乗るのは右側の窓際の席です。
駅で買ったコーヒーを口に運びながら、彼女は地図を頭に浮かべながら考えます。

『冬やから、お月さんの昇る位置は東からすこしだけ北。
それが真横に見えるから、あぁ、この列車は北北西に向かっているんやわ。』

目的地の方向から、電車は最初、西側

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1月27日のお話*

1月27日のお話*

「もう別れよう。これ以上、待てないや。」
マリエからそんなLINEが来たのが3日前。既読をつけてしまったけれど、返信を打つ気になれず、かと言って彼女のアカウントを削除することもできず、放置したまま4日目が終わろうとしている。
いつもの彼女なら、「既読スルー?」と怒りのLINEを送ってくるところだが、そういうメッセージもないところを見ると、既にブロックでもされているのかもしれない。それなら今更僕が何

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6月2日のお話*

6月2日のお話*

1921年6月2日。東京府。

この日、銀座のある場所に、突然現れた花屋が、大変香りの良い花を売っていると評判になりました。春の沈丁花、秋の金木犀にも勝るという初夏の白い花です。

「懐かしかぁ。」
「あら、東に下ってから初めて見た。」
「東京にもあるんやな!」
「故郷を思い出すわぁ」

そう言うのは、西のなまりがある大人ばかりで、江戸弁を操る地元の人々は、その強く甘い香りに目を瞬かせます。

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6月1日のお話*

6月1日のお話*

「おじいさんは、ある日、神様の使いの白い鳥が出てくる夢を見た。ハッと目が覚めてなんとなく外に出て散歩していたら、立派な松の木に夢に出てきたのと同じ白い鳥がいるのを発見。」

夕方。
帰宅ラッシュを避けてまだ陽の高いうちに地元の駅まで帰ってきた私は、筑土八幡神社の境内を通り過ぎようとしていました。普段は時間も遅いので人に会うことのない場所でしたが、今日はまだ子供たちが遊んでいる時間だからでしょう、一

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5月31日のお話*

2021年5月31日

最近は、暑くもなく、寒くもない。一年のうちにこんなに快適な日が存在していたことを、私はずいぶん忘れていました。思い返せば、学生時代などは、妙に散歩に出掛けたくなる陽気の日が確かにあって、授業と授業の合間に芝生に寝転んだり、窓をいっぱいに開けて風を感じながら読書をしていました。

それが、大人になってからすっかりと感じることがなくなっていたようです。理由は明確で、オフィスで仕

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12月4日のお話

12月4日のお話

東京の冬は晴れが多い。

どうしてこうも毎日晴れるのだろう、と、クルミは早朝のベランダで空を見上げました。12月にもなると、晴れていてもこの時間は冷えます。パン屋に勤めるクルミの朝は、夜明け直後のこの時間から始まります。

ベランダには東の空から真っ直ぐに太陽の光が降り注ぎます。洗濯物を持つ手がかじかむのも強い日差しがあればいくらかマシ。晴れる日は嫌いではありませんが、こうも毎日晴れると、クルミは

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11月30日のお話

11月30日のお話

「ねえ、マルラッテ。」

壁一面に魔法書が並べられた本棚のある地下室の中央には、オレンジ色のランプに照らされた机と半球の水晶、分厚い書物といくつかの実験道具。そして傍に立つのは魔法の国の大賢者ククです。彼女は歳を重ねても美しい銀髪をかきあげながら、眉間にシワを寄せ頭を抱えるようにしながら、侍女の名前を呼びました。

「マルラッテ、やっぱり私、失敗してしまっているみたい。」

もうずいぶん長い間大賢

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11月26日のお話

好きになって結婚したはずの二人が「もうダメかもしれない」と思うまでの過程には段階があるといいます。2012年の冬。高志は「前いりで出張なの」と言いながら日曜日の夜からスーツに身を包み出かけ、今日も帰らない妻とのことを思い、一人、夜の神田川沿いを歩いていました。

結婚と同時にこの街に引っ越してきて、2年半。

まだこの街に来たばかりの頃は、二人とも、大阪から東京に出てきて日の浅かったこともあり、こ

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11月25日のお話

11月25日のお話

あなたにとって、この時期、年の暮れ12月が近いことを一番に感じるものは、なんですか。街のクリスマスイルミネーション、おせち料理の予約、忘年会の誘い。人それぞれいろいろありますが、和歌山県の田舎の郵便局員である中村にとってはいずれも関係のない代物でした。

彼にとって、年末を感じるもの。それは喪中葉書です。

11月になってから郵便物の中に増え始め、この11月末が一番多くなります。今日もダイレクトメ

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11月24日のお話

11月24日のお話

味噌。

まさか、真木との関係が「味噌」で深まることになるとは、刈野は全く予想していませんでした。彼のことを異性として刈野が意識し始めたのはほんの2週間前のことです。その時は、ちょっと良いかな、程度の感触しかなかったのですが、翌週に何人かと一緒に昼食を食べに行った小料理屋で小鉢に「ぬた」が出たことで急に距離が近くなったのです。

ぬた、つまり酢と味噌の合わせ調味料で和えた料理です。日替わり定食の小

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11月23日のお話

11月23日のお話

道を歩いていて、ふと視界に入った脇道に視線を送ると、そこにとても素敵な扉が待ち構えていることがあります。狭い路地のどん詰まりに、その扉を潜る目的の人しか通らないような裏路地の合間に、そういう扉は存在しています。

そういう扉に吸い寄せられる性質の人と、そうではない人がいますが、木戸山コンノは少なくない確率で、まるで何かに呼ばれるように、そういう扉を見つけ、足をそちらに向けてしまうのです。

今日も

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11月22日のお話

11月22日のお話

「結婚しよう。」

沖縄でサーフィン教室を営むセージが、彼女のミキにそう気持ちを伝えたのは、一年前の今日でした。「ベタだけど、良い夫婦の日にプロポーズをするっていうのは、記念日を忘れない意味でも良いよ。」そんな風にアドバイスをくれた地元の飲み仲間に従ったわけではありませんが、タイミング的にも、このくらいだろうと彼は思ったのです。

ミキとは、当時、彼女の仕事の転勤の都合で、遠距離恋愛になって半年、

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11月7日のお話

11月7日のお話

「願い」は口に出すことで叶う、という言葉をよく耳にします。それは願いを周囲の人が把握することにより、それを叶えるための協力者が現れる可能性が高まるからという理由があります。

しかし、こと恋愛、想いの絡む願いについては、口に出さなくても強く願う心が、物事を動かしてしまうことも少なくありません。逆に口に出すことで叶う可能性を閉ざすことさえあります。

御伽噺をしましょう。

ある村に、美しい娘と、誠

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11月6日のお話

11月6日のお話

「うち、来ますか?」

この歳になって、終電を逃すなんていうシチュエーションは確信犯だろう。目があった時、おそらくお互いに同じことを思ったのでしょう。

彼女の方が、先にそう切り出しました。

「うちの方が、近いですし。タクシーで。」

さて。そう言われたときの男性の回答の正解はなんでしょうか。彼は脳内で一瞬で数多くの回答候補を参照し、こう答えます。

「あ、いえ。僕は適当に、その辺で始発待ちます

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