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歴史、心理学、哲学、宗教、、、 好きなものをごった煮にして 小説を書きます。 お気に召…

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歴史、心理学、哲学、宗教、、、 好きなものをごった煮にして 小説を書きます。 お気に召しますと幸いです。 みなさまの想い、夢も細やかながら応援します。

最近の記事

簡雍さんは考えた。(短編の12)

簡雍は畏怖した。 張飛を凌駕する暴の匂い、 関羽に比肩するほどの風格、 これがあの、呂布奉先か。 しかし、これは恐い。 この男の近くにはいたくない。 ただただそう感じた。 まるで本能が拒絶しているようだった。 徐州牧になったとはいえ、 劉備には休まる時は無かった。 乱世だな。 改めて簡雍はため息をついた。 陳登、糜竺、趙雲をはじめ 麾下の士人は増え、彼らの尽力のおかげで、 劉備の治世はうまく進んでいた。 寒門から立志した劉備には、 曹操などとは違い、財力も地盤も無かった。

    • 簡雍さんは考えた。(短編の1)

       簡雍は考えた。 図々しいにも程がある。 無頓着も甚だしい。 更には、不作法極まりない。 なのに目が離せない。 次の言葉が聞いてみたい。 我が従兄弟ながら、こんな男は初めてだ。 叔父が逝った。 褒められた人では無かったが 幼い頃からよく遊んでもらったから、 眼前に横たわり、白くなった彼が もう起きてこないことに実感が湧かなかった。 周りの大人や、遠くから集まった親族は 声も憚らず泣いている。 一様に白装束に身を包み、 床に伏せ、腿を叩き、故人の名前を喚ぶ。 いかにも大袈裟に

      • 簡雍さんは考えた。(短編の11)

        簡雍は考えた。 風評のちからとは、こんなにも強いのか。 しかして、こんなにも脆く感じるものか。 このちからは、果たして、 使うべきか使わざるべきか。 目の前の青年たちの息巻く視線を受けながら、ぐいと杯を干すのだった。 劉備は為政者となった。 徐州牧を陶謙より譲り受け、 名士である、糜竺、陳登らを幕下に加え、 彼らをよく用いた。 糜竺は徐州屈指の富豪であるし、 土地の風習にも明るい。 公正な判断でどんな争議も上手く収めた。 陳登(字を元龍)は思慮深く、 胆力もある人物だった。

        • 簡雍さんは考えた。(短編の10)

          簡雍は悄然とした。 田豫(字を国譲)が劉備のもとを去った。 あの明朗で快活な青年が、 聡明で有望な将士が、 劉備と袂を分かった。 「ああ。」 この男が自分の決意を曲げないことは、 簡雍がよく知っている。 ただ声を漏らすしか無かった。 徐州への曹操の侵攻は壮絶を極めた。 州牧の陶謙は、大敗し、 公孫瓚からの援軍である 劉備を前線に据えて交戦するも、苦戦。 結局は兵糧不足と自領地での騒動で 曹軍は撤退するのだが、 徐州には大きな傷跡と、不安だけが残った。 きっと曹操はまた攻めて

        簡雍さんは考えた。(短編の12)

          簡雍さんは考えた。(短編の9)

          簡雍は考えた。 この軍の違いは何だ。 いや、軍というのはかくあるべきか。 我々のやっていたことは、乱闘騒ぎの延長に過ぎないのでは無いか。 それほどの士気の差、練度の差、理解の差、 であった。 徐州が揺らいでいた。 東を海に面し、青州、兗州、豫州、揚州 と接するこの地は海路、陸路共に 交通の要所である。 また近隣の州から戦禍を避けて 多くの民が流入し、 人口が増えている地でもあった。 州牧である陶謙は、群雄と言うより あくまで統治者としての性質が強く、 軍事での拡大を望まなか

          簡雍さんは考えた。(短編の9)

          簡雍さんは考えた。(短編の8)

          簡雍は考えた。 主君の思考とは、こうも影響するものか。 劉備はどうだろう。 自分はそれを正確に測れているだろうか。 劉備一党は今、公孫瓚のもとにいた。 督郵を殴打した件はやはり責を問われた。 職を辞して、逃げるように幽州を転々とした後、かつての縁から旧友を頼ったのだった。 とはいえ、相手は名門公孫氏、 今や幽州を押さえ、青州、冀州、兗州にまで 手を伸ばす一大勢力である。 歓迎はされたが、重用はされなかった。 すぐさま青州に送り込まれた。 この地には刺史として田楷という武将が

          簡雍さんは考えた。(短編の8)

          簡雍さんは考えた。(短編の7)

          簡雍は綻んだ。 目の前では、最近編制された部隊が 練兵中である。 兵とは言っても、食うに困って 故郷を飛び出してきた無頼の連中である。 はじめは槍の持ち方すらままならなかった。 それを丁寧に教え、面倒を見るのは 田豫の役目だった。 彼は何故か練兵が上手かった。 一言二言声を掛ければ、 若者たちの目の色が変わる。 簡雍はその様子を肴に 酒を飲むのが好きだった。 劉備の陣営で主だった者と言えば、 まずは関羽、張飛。 常に劉備のそばに侍り、 三兄弟を自負している。 関羽と張飛の仲

          簡雍さんは考えた。(短編の7)

          簡雍さんは考えた。(短編の6)

          簡雍は考えた。 多ければ良いというものでは無いのだな。 あまりにも鈍重で、軽薄に思える。 華々しく召集されたはずの連合軍は、 なぜ敗れたか。 そこにはどんな人が関わり、 どんな心の動きがあったか、 簡雍の興味はひたすらにそこであった。 漢王朝の衰退は極まった。 度重なる災害、不毛な政権争い、 黄巾の大蜂起、 さまざまな事由がまさにこの王朝の 終わりを告げているようであった。 そこに最後に咲いた悪の華が、 董卓(字を仲潁)である。 かつては西涼の異民族から畏怖され、 名将と名

          簡雍さんは考えた。(短編の6)

          簡雍さんは考えた。(短編の5)

          簡雍は考えた。 なぜ劉備はこんな行動を取ったのか。 たしかに元は侠人だから、 面子を気にするきらいはあった。 だがこれほど過度に反応を示したことは、 従兄弟である簡雍が知る限り 初めてではないか。 何が劉備の行動を変えたのか。 これを突き止めなければ、 劉備の人を率いる者としての 先が無い気がしていたし、 それが自分の役割だと 簡雍は思った。 劉備は挙兵した。 義勇軍としても拙くはあったが、 いくらか名声を得ていたこともあり 幽州、冀州を平定する軍に編制された。 しかし、そ

          簡雍さんは考えた。(短編の5)

          簡雍さんは考えた。(短編の4)

          簡雍は関心した。 こんな男がいるのか。 浅黒い肌に、堂々とした体格をした 偉丈夫である。 長く伸ばした艶のある髭が印象的だ。 背筋は立板が差し込まれたように 真っ直ぐ伸び、大きな体をより泰然と 聳えさせていた。 所作にもどこか品格を感じさせる。 何よりも簡雍を驚かせたのは その見識だった。 話してみるとどうやら、 四書五経に通じている。 世の中の事情にも詳しかった。 こんな男が劉玄徳に仕えるのか。 しかしそれは、不思議なことではなかった。 関羽(字を雲長)が現れたのは まだ

          簡雍さんは考えた。(短編の4)

          簡雍さんは考えた。(短編の3)

          簡雍は考えた。 先行きが不安だな。 しかし、そこに自分はあえて乗ろうとしているのだから、我ながら無謀だとも思う。 傍で喚いているのは、 張飛(字を翼徳)という大男である。 隆々とした体躯に針金の様な髭は ただでさえ威圧感を振り撒くようなのに、 この男から割れる様な大声を浴びせられれば 誰でも縮み上がってしまうだろう。 現に今怒鳴られている門番は、 槍を抱くように握りしめて すくみ上がっている。 張飛は丸腰であるにも関わらず。 「お前はこのお方を知らんのか。 あの劉玄徳殿だぞ!

          簡雍さんは考えた。(短編の3)

          簡雍さんは考えた。(短編の2)

          簡雍は考えた。 こうまでもか。 目の前には惨状が広がる。 夥しい数の屍が累々と積み上がっていた。 あまりの臭いに鼻を覆った。 つい先ごろ起きた戦の跡地に 簡雍は来ていた。 今、世の中が蠢くように変わり始める この時を、肌で感じたかった。 鎧や刀剣を纏った正規兵の まるで残骸のような死体に混じって、 黄色い布を頭や肩に巻いた貧相な肢体が そこかしこに転がっていた。 それらは、つい先日まで畑を耕し、肉を売り、我が子らの為に汗を流していたはずであった。 その朴訥な彼らが 何故今こう

          簡雍さんは考えた。(短編の2)