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「戦争と平和」トルストイの2人の玄孫がプーチンのロシアで活躍している

「ロシアはWTO、WHOからの脱退を検討している」とロシアの下院副議長が「息巻いた」、というニュースが先日あった。

その下院副議長の名前が「ピョートル・トルストイ」であったことに「あれ?」と思った人はいるだろう。

そう、「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」の文豪、レフ・トルストイの子孫である。

現在、プーチンの近くに、2人のレフ・トルストイの玄孫(やしゃご。孫の孫。ひ孫の子)がいる。(2人から見て文豪は高祖父だ)

1人は、上の記事にある、下院副議長でTVタレントのピョートル・トルストイ。

もう1人の玄孫、ウラジーミル・トルストイは、ジャーナリストで、かつプーチン大統領の文化政策顧問である。

Two of Leo Tolstoy's great-great-grandsons are Pyotr Tolstoy, a Russian TV presenter and State Duma deputy since 2016 and Vladimir Tolstoy, journalist and adviser to the President of Russia on culture. (wikipedia)


トルストイ家はもともと、ロシアの名門貴族であることは、知っている人が多いだろう。


日露戦争に反対したトルストイ


文豪レフ・トルストイは、人生後半に徹底した平和主義者、非暴力主義者となり、1904年の日露戦争にも反対した。

当時、トルストイの反戦論「悔い改めよ」が、幸徳秋水らの「平民新聞」に掲載され、日本の文人に多大な影響を与えた。

その文章は、仏教徒もキリスト教徒も、殺生を禁じ愛を説くのに、なぜ戦わなければならないのか、という問いかけから始まる。

「見よ、天涯地角数千マイルを隔てし人類、しかもその人類の数十万人(一方は一切殺生禁断を旨とせる仏教徒、一方は四海兄弟を公言せるキリスト教徒)は、今や極めて猛悪なる手段をもって、互いに残害殺戮をたくましくせんがために、陸に海に野獣のごとくあい逐(お)いつつあり、ああこれ何事ぞや、ああこれ夢なるや・・」

(国会図書館のデジタルアーカイブで読むことができる。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871597 )

これを読んで与謝野晶子が「君死にたまふことなかれ」を書いたのは有名だ。

そのトルストイの玄孫たちは、今のウクライナ侵攻をどう考えているのだろう。


日露戦争に協力した仏教界


レフ・トルストイはこの時、日本仏教界の指導者の1人であった釈宗演に、共同して日露戦争批判をできないか、と持ちかけた。

臨済宗の僧である釈宗演は、鈴木大拙の師である。禅を世界に広めた鈴木大拙の初期の仕事は、この釈宗演の演説の英訳だった。

釈は、トルストイの打診に、次のように返答した。

「釈尊はまちがいなく不殺生を説いた。一切衆生は大慈悲心で統一されぬ限り、平和は決して訪れない。それゆえに互いに矛盾する物事を調和させるには、殺戮と戦争が必要になってくる」

「不殺生」という教えにもかかわらず、日本の仏教界は、戦争に全面的に協力していくのである。

明治期に著名だった学僧、井上円了は、「支那朝鮮」は同じ東洋人種で宗教上も同宗同門だが、キリスト教徒のロシア人は「国敵のみならず仏敵である」と言って、日露戦争を正当化した。

(以上、ブライアン・アンドリュー・ヴィクトリア『禅と戦争』を参照)


大逆事件と反戦


トルストイの反戦論に共感した日本人は、木下尚江のような社会主義者や、賀川豊彦のようなキリスト教徒が主だった。

しかし、仏教の僧侶の中にも、政府に反対した例外者がいた。

その代表が、1911(明治44)年の大逆事件(幸徳事件)に連座した3人の僧侶だ。

中でも、死刑になった内山愚童は、釈宗演と同じ禅宗(曹洞宗)の僧だった。内山愚童は「平民新聞」の反戦運動に加わっていた。

(他の2人、真宗関係の高木顕明と、臨済宗関係の峯尾節堂は、終身刑となり、どちらも獄死した)

内山愚童は、兵隊に軍隊からの脱出を勧め、一個の殺人兵器となるな、と説く小冊子「帝国軍人座右之銘」を書いていた。

また、やはり内山愚童が出した「入獄記念無政府共産 革命」を、大逆事件の主任検察人で後の首相、平沼麒一郎は「日本歴史始まって以来の大逆の書」と呼んだ。

そこには、このようなことが書かれていた。

「天子、金もち、大地主。人の血を吸うダニがおる。・・・日本は神国だなどと云うても諸君は少しも、アリガタクないであらう」

「貧困は、仏者の云う前世からの悪法だろうか・・そんな迷信にだまされておっては、末は牛や馬のようにならねばならぬ。・・この不公平は・・我々自身にのみ責任がある」

大逆事件で、秘密裁判により24人が死刑判決となり、その半数が即処刑(半数は恩赦)されたことは国際的な批判を呼び、アメリカのジャック・ロンドンや、イギリスのジョージ・バーナード・ショーなども日本政府を批判した。

トルストイも生きていたら批判声明を出しただろうが、残念ながら前年の1910年に亡くなっていた。


名誉回復


内山愚童が処刑されて80年以上たった1993年、曹洞宗は、

「内山愚童師の著作は、かえって今日の人権尊重の立場から見ると先見の明があった」

「内山愚童師は、当時の国策の犠牲者なのであります」

と、内山愚童の名誉回復を発表した。

そして、こうも言っている。

「今後、宗門は、その時々の政治権力や天皇主権国家に迎合してきた時代を反省し、道元禅師や内山愚童師にみる思想的研究などを踏まえ、今日おかれている教団の社会的立場をしっかりと捉えなくてはならない」(1993年9月の宗報 『禅と戦争』より)

1996年には、真宗大谷派も、獄中で自殺した高木顕明の名誉回復を発表した。

日本政府と司法は現在まで大逆事件の再審を一切拒絶している。

(この辺りのことは、改めてまた書きます)




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