メディアは平和主義者をいつ「損切り」するか
1 平和主義から人権主義へ
細谷雄一・慶大教授が最近、日本の「平和主義」が時代遅れになった理由を、ツイッターできわめて簡潔に示してくれていた。
ウクライナ危機を契機に、日本でも時代遅れの「平和主義」から、欧州の「人権主義」へ、世論が動くことが考えられる。
2 左派メディアが護憲を捨てられない事情
この細谷教授のツイッターを読んで、思い出したことがある。
私は10年ほど前、ある左派メディアに勤めていた。
ちょうど、アフガニスタンやパキスタンで、イスラム原理主義者が学校を襲い、子供たちを大量殺害する事件が連発していた。(マララさんがノーベル平和賞をとる前のことだ。今も悲しいことに、こういう事件は起こっているが)
その話題から、私が、
「こういうひどい人権蹂躙を止めるためにこそ軍隊が必要だ」
というようなことを言って、憲法9条の議論になったのだ。
左派は、何かと言うと「国家」を目の敵にするが、国家権力こそが人権を保障するものだ。それが政治哲学、法哲学の常識のはずだ。
その具体的な手段が、警察であり、軍隊だ。軍隊は、その最終的な手段だから、憲法に正式に位置付けて、民主的に統制しないといけない。だから9条は改正されなければならない。
そう私は主張した。(井上達夫氏の立憲的改憲論だ)
すると、左派メディアの幹部が言った。
「君の言うこともわかるが、憲法9条を改正して、正式な軍隊が必要だ、なんてウチのメディアが言ったら、ウチの読者がいなくなっちゃうよ」
その言葉が忘れられない。
それで、議論は幕となった。
左派メディアは、確固たる「平和主義」思想があるわけではない。
平和主義が受けるから、読者が増えるから、それを売り物にしてきた。
結局のところは商売だ。
日本の平和主義はおかしい、世界の流れから遅れている、と気づいている者は、左派メディアの中にも多い。
しかし、上層部が、読者を失うことへの恐れから、論調を転換できないでいる。結果、現場の左翼活動家のやりたい放題を許している。
3 参院選後が転換のタイミングとなるか
世論が動き始めているのは、左派メディア幹部も気づいている。
若い世代は、日本の平和主義が時代遅れになったのに気づいている。
護憲の中核は、共産党支持者を中心とした高齢層だ。
そして、その層はいまだ分厚く、左派メディアを支えている。だが、いずれは死んでいく。時間の問題であるのは、左派メディアもわかっている。
そこに、今回のウクライナ危機が起こり、高齢層でも平和主義に疑いを持つ者が増えたかもしれない。
夏の参院選が試金石になるだろう。
参院選で、立憲民主党、共産党、社民党などの護憲勢力が壊滅的に敗北すれば、左派メディアもいよいよダイ・ハードな「平和主義」の読者を損切りして、改憲に舵を切り、若い新しい読者を得ようとするかもしれない。
もちろん、これらの護憲勢力は猛然と反発してくるだろう。メディアを「われわれを裏切るのか」と攻撃してくるだろう。だが、メディアも生き残りに必死だ。いつまでもこうした「脅し」に屈するとは思えない。
9条改憲が、右翼的な反自由主義ではなく、リベラルな人権主義に基づくものになれば、日本は、自由で民主的な世界と調和した明るい未来を描ける。
私が生きている間に、日本初の国民投票が実現するか、疑わしいと思っていたが、もしかしたら早めに実現するかもしれない。と期待している。
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