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サイモン・ラトルが緊急アピール「クラシック音楽は存亡の危機にある」

イギリスの指揮者、サー・サイモン・ラトルが4月23日、ロンドン・フィルとのコンサート前に行った緊急スピーチが話題になっている。

クラシック音楽界は存亡をかけた長期戦に突入した、というアピールだ。(「A long-term fight for existence」とはウクライナ戦争にひっかけたのか)

‘A long-term fight for existence’ –Simon Rattle speech on the crisis facing UK classical music


少し前に、私は世界のオーケストラの危機について書いたばかりだ。


イギリスも、相当追い込まれている感じですね。

日本も他人事ではないと思うので、以下、緊急でラトルの演説をラフに訳してみました。


(大意)

この国のクラシック音楽の現状について、私はみなさんに言いたいことがあります。

でも、殴りかかるわけではないので、怖がらないでくださいね。これから音楽でみなさんと交流をさせていただきますが、その前に5分だけ時間をください。


40年前、グラインドボーンオペラの監督、ピーター・ホールと昼食時にこんな会話をしました。サッチャー政権のときです。

「毎月のように政府は予算のことであなたに文句を言ってくるよね。生意気なことを聞くようだけど、どんな気持ちなの?」

ピーターはチャーミングな笑顔で答えました。

「そりゃ、いい気分じゃないけど、誰かがこの役をやらなきゃいけない。いずれ君も同じ目に遭うさ」

ピーターがこの場にいれば、私よりうまく話してくれると思いますが、仕方ありません。


この数カ月、私たちは攻撃を受けています。

11月、アートカウンシルが、私たち全員の生活を脅かす予算削減を発表したと思ったら、今度はBBCが、BBC合唱団閉鎖を含む経費削減を言い出しています。

英国クラシック音楽の最大の庇護者であったこの2つの団体が、文化の破壊行為に出ています。これは容易ならざることです。私たちは明らかに、存亡をかけた長期戦に突入しました。非常に重要な多くの音楽団体が解体されるのを黙って見ているわけにはいきません。


演奏家を含めてここにいる人たちで、現在の世界が大きな変化を迎えていることを認識しない者はいないでしょうし、この国で生活のために苦労していない人もいないでしょう。

しかし、クラシック音楽の危機は避けがたいものではありません。それは結局のところ政治的決定です。私たちは今、希望をもって、どんな国に生きたいのか、自らに問うべきなのです。

私は、クラシック音楽はこの国でもっと繁栄してほしいと思っています。しかし事態は切迫し、経費が今後も削減されつづけ、交渉の余地はなくなり、組織が没落し始めようとしています。政治的決定は学校の音楽教育や音楽大学にも影響し、音楽業界の大切な「パイプライン」が枯渇していくでしょう。


私たちは、現在は緊縮の時期であり、変化が必要なことは理解しています。もし相談してくれるなら、脆弱なクラシック業界に致命傷を与えないような変化のあり方を考えることもできます。政治的決定がデタラメに行われていると言いたいわけではありません。政府も苦労しているのはわかります。

しかし、何か不誠実な要素を、政治的決定の中に感じます。まるで裏腹の意味を持ったオーウェルの小説に出てくる仮想言語のように。

オーケストラとは何かを知っている人なら、その人員を20パーセント削減されれば機能しなくなることを知っています。年間を通じた練習も無駄になる。当たり前のことでしょう。

国内でちゃんとしたオペラが見たいなら、補助金をカットするなんて馬鹿げている。そして、オーケストラも合唱団もなければ、そもそもオペラはできない。ちょっとイケアで買って間に合わせる、というわけにいかないのです。当たり前のことでしょう。


つまりは、問題は芸術に対する政治の無知に起因するのですが、困ったことに、彼らは無知を正そうとしていません。

私たちは今、戦いの中にいます。クラシック音楽が、この国と文化の核心の一部なのだと、私たちはここで確認しておく必要があるのです。

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