第3のデジタルフロンティア | Mirror WorldとSpatial Computingの時代
PC・スマホによるイノベーションが数年前から落ち着き、多くの人がテクノロジーにおける次のフロンティアはどこなのかを探している。
個人的にも数年前は毎日新しくリリースされるアプリやWEBサービスにワクワクさせられていたが、最近は驚くようなサービスに出会う機会はめっきり減ってしまった。
結論から言ってしまうと、PC・スマホの次としてのデジタル・フロンティアは、プラットフォームとしてのMirror World、インターフェイスとしてのSpacial Computingだ。(※1)
Mirror Worldの詳しい解説はここでは省くが、簡単に説明すると、
ミラーワールドとは現実世界のすべてが1対1でデジタル化された世界のことで、それにより物理世界に対応したデジタル情報を閲覧したり、検索などの操作をできるようになる世界のことを指す。
そしてそのミラーワールドを操作するインターフェイスは、空間的な情報操作・閲覧を可能にするAR・MRグラスなどのSpatial Computingだ。
いままでの私達のデジタルとの関わり方の変遷、言い換えるとデジタル・フロンティアの変遷をざっくりまとめると下記のようになる。
まず第一の波は、Hyperlinkによってページ間を行き来したり、最適なページを検索できるようになり、それらを主にPCというインターフェイスで享受してきた。
そして第二の波として、Social Graphで人と人のつながりがデジタルで記述されるようになり、Social Graphの上に成り立ったSNSサービスを主にスマートフォンというインターフェイスで享受してきた。
そして次の波では、現実世界が完全なデジタルツインを持った状態(Mirror World)で、ARデバイス越しに空間的に情報を取得したり操作するSpatial Computingのインターフェイスが主流となる。
上記一連の流れでMirror Worldが次のプラットフォームになるというのは、WIRED創刊編集長のKevin Kerryがしきりに言っていることなので、興味がある方は是非WIREDのミラーワールド特集の号を読むことをオススメします。
プラットフォームとしてのMirror World、インターフェイスとしてのSpatial Computingは対の概念になるので、本来分けて議論すべきではないのだけど、両者を同時に論じるとかなりのボリュームになってしまうので、今回はSpatial Computingについてメインで書きたいと思う。
Spatial Computingについて語ることは対になるMirror Worldを語ることにほぼ等しいし、今回は「PC・スマホの次」を探している人に向けて主に書きたいからだ。
Spatial Computingとは ~それがもたらす変化~
「Spatial Computingとは?」を語る上ではSpatial Computingがもたらす変化を論じるのが最もわかりやすい。
Spatial Computingによって変化することの一例を下記にまとめた。
(このあたりはSuper VenturesのOri Inbar氏の話がベースになっている)
・メディアがテキスト / 画像 / 動画から「空間」へ
いままで無理やりフラットに扱っていた情報を、人間にとってより自然な立体的・空間的な形で処理するようになる
・平面インタラクションから「空間インタラクション」へ
デバイスの制約上平面的だった操作が、立体的・空間的に操作してより直感的に情報を操作できるようになる
・手動インプットから「コンテキストベースのインプット」へ
メインの情報入力手法が、手でタイプすることから、見ているもの・いる場所・発話内容などのコンテキスト(文脈)を自動的にインプットとして使用して最適な情報を提示されるようになる
・Hyper Linkから「Hyper Space」へ
ページとページをリンクしたりサーフする世界から、空間をリンクしサーフする世界になる
・レスポンシブウェブから「レスポンシブスペース」へ
デバイスに合わせてページレイアウトが最適化されていた世界から、デバイス・見ている環境などに応じて表示する「空間」が最適な形に変化して表示される
なぜ今Spatial Computingなのか
ではなぜ今になってSpatial Computingが次のインターフェイスとして注目されているのか?
それは鍵となる4つの技術がちょうど2020~2022年頃に立ち上がってきて、それら4つの結節点としてSpatial Computingが本格的に可能になるからです。
・5Gによって通信容量が圧倒的に拡大し、画像・動画などの平面的なメディアだけではなく、3Dデータなどの空間・立体的なメディアもやりとりできるようになる
・イノベーター層が"普段使い"できるレベルのAR・MRグラスが出ることで、情報の立体表示や視界情報のインプット化が可能になる
・現在も発展中のAIが現実世界の意味を性格に読み取り、対応するデジタル世界の情報と紐付けられるようになる
・AR Cloudの実現によって複数人数でのAR体験や、現実世界とデジタルレイヤーの性格な重ね合わせが可能になる
これは個人的な読みを多分に含むが、これら4つが2020~2022の間で実用に足るレベルで実現し始めると考えている。
さらに以下の4つの動きに代表されるように、今この瞬間にもSpatial Computingを実現していこうという機運はかなり高いと言える。(※2)
Spatial Computingにおいて大事なSX Design
では次世代のインターフェイスとしてのSpatial Computingを扱っていくにあたって、企業や個人は何をすべきかのか?もしくは今からどういった準備をしていくべきなのか?
Spatial Computingにおいては、現実空間の設計、音や匂い、手触りなどの5感情報も全て考えた体験設計が必要であり、通常のサービス開発以上に広範囲なスキルのメンバーを揃えて包括的に体験をデザインすることが重要。
したがって、Spatial Computingが普及すると、空間・五感をデジタル・アナログを横断して体験設計を扱うSpatial Experience Design = SX Designがとても重要な概念・スキルセットになると考えている。
ではSX Designに強いチームをどうやって構築していくかというと、ポイントは3つ。
1. SX Designにおけるデザインプロセスやメソッドに精通する
SX Designは通常のWEB・アプリの体験設計とは頭の使い方やプロセスが異なる点が多々あるため、SX Designの作法に精通することが非常に重要。
以下記事で現時点でSX Designにおいて重要な考え方やプロセス、デザインメソッドをまとめたので興味ある方は是非読んでみてください。
2. SX Designerが建築を学ぶ or 建築バックグラウンドを持ったメンバーをチームに入れる
建築は古くからSpatial Experienceを扱ってきた領域であり、建築の知見とアナロジーをしっかりと活かしながら体験をデザインできるかがSX Designにおいて非常に重要になってくると考えている。
そのため個人的にも建築を独学しながら、建築家をサービス開発のチームに巻き込むようにしています。
3. 五感のデザインに長けたメンバーをチームに巻き込む
視覚情報だけでなくサウンドや香り、手触りなどの五感情報もSpatial Experienceにおいては非常に重要です。
MESONで直近作ったサービスでも、ファッションの演出に強いクリエイティブディレクターや、空間的演出ができるサウンドデザイナーなど、様々な五感デザインスキルを持ったクリエイターを巻き込んでサービスを作ってきました。
その中で、やはり満足いくクオリティのサービスにするためにはそうした五感のデザインも対応できるチームを作ることが非常に重要だと改めて感じました。
まとめ
以上、PC・スマホの次としてのデジタル・フロンティアであるMirror WorldとSpatial Computingについての現状の考えをまとめてみました。
MESONは「Spatial Computing時代のユースケースとUXをつくる」をテーマに掲げており、様々なアセットを持つパートナー企業と組んでARサービスを日々考えつくっています。
そうした未来の標準を作る仕事に共感して一緒に働いてくれるメンバー、プロジェクトをご一緒できる会社を募集中なのでぜひ会社サイトかTwitterからご連絡いただければと思います。
注記)
※1 テクノロジーのフロンティアという意味ではバイオテクノロジーやスペーステクノロジーなど他にもあるのだが、PC・スマホのサービスに従事してきた人にとっての次のフロンティアという意味でいうとMirror WorldとSpatial Computingが正統なフロンティアだと考えている。
※2 AppleがARグラス開発チームを解散したというニュースが報じられましたが、その後も特許取得の動きもあったことから、直近の製品リリースは見送ったが、以前ARグラスの開発は積極的に進めているのだろうと考えています。
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