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「役者は一日にしてならず」綿引勝彦編

春日太一さんの著書「役者は一日にしてならず」の読書感想文を書いています。

最初の1ページ目で泣かせられるとは思ってもみなかった。私にとっての綿引勝彦氏は、ほぼ鬼平の「大滝の五郎蔵」くらいだったので…とはいえ、もちろんあちこちでお見かけしていて凄い俳優さんだとはわかっていたけれども。どちらかといえば樫山文枝さんの旦那さんですよね?というイメージだった。

小中高と全力で打ち込んでいたスポーツを体の故障で諦めざるをえなかった時に観た舞台の主役が仲代達矢だったと。それで役者を目指した。
…ここまでなら、ある意味、裾野は広いかもしれない。
そういう動機で俳優を目指していた人はこの世に少なくないかもしれない。しかし、その憧れていた相手と肩を並べて同じ画面に映る事のできた人はどれだけいるだろうか。

私が憧れている人がいるとすればそれは、池田昌子さんであり加賀美幸子さんであり、佐野元春であり、小田和正であり…しかし、肩を並べられるくらい頑張ってもいないし(それが肩を並べていない最たる原因だ)、どれだけ頑張ったところで共演する可能性なんて宇宙レベルでとんでもない奇跡が起きなければ有り得ないと思う。
 
それを綿引勝彦氏は叶えている。
純粋に凄い。
そこはスポーツで培った努力と忍耐と実行力の成果だろうか。強運でもある。

劇団民藝での、若い頃の話は、なんとなくその時代だったからこそ有り得た、厳しいけど楽しいという混沌とした時代の空気を感じた。
令和の現状は、みんなある程度無理なく生きるためのインフラが整備されていて清潔で綺麗で平等で…でも人間の心の温度が冷めてきている気がして。

劇団が旅をするんですね、そこに付いている役者さんは、スタッフ仕事も兼ねている。
芝居を勉強しつつ、旅に出てない時の生活は銀座のクラブでギター弾き語りのバイト。ギターを習ったのは友達のミュージシャンで、たった2ヶ月の稽古のあとステージに立ってたなんて。どれだけ器用な方なんだろうか?驚きました。
結局は、実行した者だけが何かを掴めるんだなぁ…などと、ここでもやっぱり、実行する人だけが道を拓いてゆくように思いました。

「役者だけで喰えるようになったのは、40の手前になってからでした。役者を辞めようと思ったことは何度もあります。」

テレビの仕事がもらえるようになってからも、悪役ばかりやっていた。前出の蟹江敬三氏のインタビューでも、今回も、悪役を演じる時の気持ちの部分を語って下さっていて興味深い。

インタビュー記事の中に、成田三樹夫を始め、名前を読むとスッと顔が目に浮かぶ人物の名前がたくさん出てきて輝いている。
いい役者さんて、その名前の活字を目にするだけで嬉しくなるから凄い。紙面が輝く。

そして鬼平犯科帳へ出演することになった嬉しさが文章からジワジワ伝わってくるし、原作池波正太郎の本にとても興味が湧きました。

「演劇の世界には『感情は後払い』という言葉があります。下手な役者がやると興奮した芝居ばかりやってしまいますよね。そうじゃなくて、感情というのは、いつも後ろになくてはいけないんですよ。誰だって、怒りたくても実際には怒らずに我慢するでしょう。いろんな言葉を選びながら、感情を抑える。それは演劇も同じなんですよ。喋るっていう行為には必ず裏に感情があって、今言っている言葉が必ずしも正しいとは限らない。それが演劇の基本なんです。」

ホームドラマ「天までとどけ」の話題が出てきて、あっ!そうだ、あのお父さんだ!と思い出しました。
あの頃、ホームドラマが流行っていたのもあって、いろんな良いドラマがあったよな.…と思いながら、そのドラマも何年も何年も毎年撮影していたエピソードが温かくて。

「金欲しさでやると、ロクなことがないんです。いちばん失敗しちゃうのは、台本がない状況で受けてしまうこと。やはり台本を読んでOKを出さないと。」

なるほど...…!!!!!
私もつい、忙しさもあり、そして何か新しい挑戦をしたいという意欲に駆られて台本の決まっていないボイスドラマ企画に編集で参加してみたりもしているのだけれど、そう言われてみれば、すんなりとは行かなかった事を思い出しました。(その企画の第二弾にも参加することにしてしまったけれど.…こんどはどうなる事やら。これも試練ですな。)

二足の草鞋を履いてでも続けてきた役者という仕事。
仕事というよりも
役者をやるという選択をしている人生
と言うんでしょうか。
それで喰べていけるようになったのは、やっぱり凄いことですよね。

私は、文章の音声化で喰べてはいない。
でも、普段の仕事をやりながら、この文章の音声化はこれからも可能な限り続けて行く気持ちがある。
お金はもらってなくても二足の草鞋だ。
むしろ、お金ももらえないのにこんなに一生懸命やってるって、「文章の音声化」って、舞台、演劇、映画やテレビと同じくらい素晴らしい芸術なんじゃないだろうか。
これからも私は文章の音声化を続けて行きたい。
これが私の選んできた道なんだ、
と。教えてもらうことの出来たのは、綿引勝彦さんのインタビューを読んだおかげ。


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