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ワイン知らず、マンガ知らずと休む

 ワイン知らず、マンガ知らずが先日郵送で手元に届いた。この作品は、昨年サウザンブックス社によるクラウドファンディング出版の企画により必要な資金が集まり刊行された。本書は、まずプロジェクトに参加した方に先に届いたのち、一般発売される。一般の発売は7月頃か。 
 サウザンブックス社のクラウドファンディング企画では、これまでもレベティコやティキング・ターンズといった海外漫画が出版され、本作が第三弾、そして第四弾まで出版が決まっている。さらに、第五弾の募集も近日開始するということで目が離せない。

 本作品の基本的なストーリーは、フランス語圏の漫画であるバンド・デシネの描き手であり、本作品の作者であるエティエンヌ・ダヴォドォーが、ワインの作り手であるリシャール・ルロワの1年間の密着取材で、ダヴォドォーはワイン生産者の仕事を学び、ルロワはバンド・デシネの仕事を学ぶというものだ。

 さて、本作の感想だが、「素晴らしい」以外のコメントはない。本作は多面的に楽しむことができる作品だと思うので、以下の記載はあくまで楽しみ方の一例として見ていただきたい。

 まず1つ目に、絵のバランスが良い。書き込みすぎす、簡略化しすぎず。べたっと描いたあると思ったら、精密に描いてあったり、メリハリがあってストレスなく読める。本作品は基本的に単色で描かれているのだが、中でも夜を描いたコマがとても雰囲気があって気に入った。

夜空の情景が目に浮かぶ

 2つ目に、至極の名言が随所に現れるところだ。これは、訳をされた大西先生の高い技術力もあるのかもしれない。漫画なのに思わずメモをしたくなる言葉に溢れているのだ。巻末の対談で触れられているものや、例えば、以下のような言葉だ。

「・・・面白いのは、無知なおまえは、それを嫌いって言えることなんだ」
「知らないってことは自由だということか?・・・・(以下略)」

ワイン知らず、マンガ知らず P141

「本を作る会社だね。本というのは不思議なものだ。思考とか、感情とかがあって…繊細で複雑だ。冷蔵庫や車を作るのとはわけが違う」
「だな。真の注意深さ、人が近くにいる感じがした。面白いな」

ワイン知らず、マンガ知らず P129

3つ目に、ワインの作り手とマンガの作り手の共通点が語られるところだ。例えば、本作の作者であるエティエンヌ・ダヴォドォーが、リシャール・ルロワが出されたワインがどういうものか言い当てる姿を見て、以下のようなやりとりをする。

「どうやっているんだ?」
「記憶の問題だ。きみたちも数千冊もの本が頭の中にあるだろ。おれには数千本のワインがあるんだ」
「でもこっちのほうが肝臓に害がないね」

ワイン知らず、マンガ知らず P126

 このやりとりのように、漫画の作り手(エティエンヌ・ダヴォドォー)とワインの作り手(リシャール・ルロワ)に以外なほど共通点があることが判明していく。こういう発見の過程を追体験できる面白さが本書にはある。

4つ目は、バンド・デシネのいろんな描き手に会えることだ。本作品は、エティエンヌ・ダヴォドォーがリシャール・ルロワを色んなバンド・デシネの作家に会わせる。我々日本人はなかなか、バンド・デシネの描き手がどういう人物で、どういうことを考えている人なのか知る手段が少ない。そういう意味で、本作品はとても興味深い。

マルク=アントワーヌ・マチュー

 また、同様に、ワインの著名な?生産者にエティエンヌ・ダヴォドォーが紹介されているのだが、ワインをお好きな人にとっては、伝説の生産者が、みたいなことになっているのかもしれない。

 これまで縷々書いてきたが、漫画としても、ノンフィクションものとしてもとても面白い作品だ。これだけの情報量のものを日本語以外で読むのは相当大変だと思う。その意味で、本作品が無事刊行されて本当によかったと思う。そして、バンド・デシネと同じくらいワインに興味がわいてきた。
 本作品をワイン好きが読んでバンド・デシネ好きに、バンド・デシネ好きが読んでワイン好きになったら、それはとても素晴らしいことではないかと感じた。

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