猪瀬 楓

短編小説を書いています。

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マガジン

  • 思い出したくない記憶

    思い出したくない記憶という小説をまとめたマガジンです。

最近の記事

壊れた心は二度と…

 もう何もいらないという思いで追いかけて来たはずなのに、いざ手の届くところまで近づくと、崩れ去ってしまいそうで触れることがとても怖い。そして、いつの間にか手の届かないところまで離れて後悔する。  いつもそう。  手にしたチャンスを乗り越えられるかもしれない恐怖に怖気づき、自分の心に嘘をつきその手を離し、次こそは手放すまいと決めたのに自分が、自分自身が幸せを奪う。  ねぇ、どうして?  どうして、もっと自分の心に耳を傾けてあげないの?  心は、一度壊れちゃうともう二度ともとには

    • 最後の贈り物を君へ

      泣かないで? 君はもう大丈夫だよ。 私は…ダメだったけど、君の中でずっと見守っているから安心して。 自分じゃなくて私が助かってればよかった…? そんなこと、言わないで? 私より君のほうが若いんだから君が助かって良かったの。 それに、私と違って君には大切な家族がいるんだから、もし、君が助からなかったらみんな悲しむよ。 え?ああ、そうか…君には言ってなかったね。 私、実は君くらいのときにパパとママ、それから弟がいたんだけど、みんな死んじゃったんだ。私を置いて心中しちゃったの。 だ

      • 美しさが死ぬ前に

        ねぇ、神様? どうして人なんて作ったの? 朱里、急にどうしたんだ。 君らしくもないことを言って… だって神様… あの子達は、どの群れもしょうもないことで毎日争いを起こして、せっかくの美しい地球を汚すんだもの。 それだけでも腹立たしいのに自分すらも自らどんどん汚していくのよ? わたし、耐えられない。 まぁ、そう言うなよ。 人の子らにも考えがあるんだろう。 いつか、そういったこともなくなるさ。 はぁ… いつも甘いことばっかり言って! そんなだからあの子達は何回も、何回も同

        • 彼を死に追いやったのは…

           昔ね好きな人がいたんだけど、告白できなかったの。  人気者の彼が私のことなんて好きな訳がないと思っていたし…それに何より、彼に嫌われるのが怖かったんだ。  だから私は告白しないと決めて、それを"嫌われない為に必要なことだ"と自分にいいきかせて、本当の想いから目を背けていたんだろうね。  でも、現実は私の浅はかな考えを嘲笑って、容赦なく目を覚まさせるの。  卒業式の日に彼が手紙を残して、自室で首を吊り亡くったということを知らされたのは、翌日のまだ太陽も昇りきらない早朝のことだ

        壊れた心は二度と…

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        • 思い出したくない記憶
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        記事

          最愛の貴方へ

           拝啓 〇〇君へ  この手紙を読んでいるということは、私はもう向こう側に行っているのかな?  私がいなくなって、生活が大変だろうけど早くいい子を見つけて早く幸せになりなさい。なんて格好のいいこと私は言えないけれど、大好きな君には幸せになって欲しいと思ってるのだけど…君はいつも、無茶ばかりするから凄く心配なんだよ?  でも、私はもう君と会えないから新しく何かをしようっていう時は、この手紙のことを思い出してね。  こんな事を書いているけどさ、私は本当に死んじゃうのかな?と思ってし

          最愛の貴方へ

          あの日見た虹

           ねぇ、昔さ二人揃って雨に降られて一緒に笑ったこと覚えてる?日照りが強くなり始めた頃に一回あってさ、あの時、雨はすぐ止んだけど服が濡れちゃって、家に帰ることになったんだよね。  あの時に二人で見た虹は本当に綺麗だった…  いつか私も深い眠りに就くねむりにつくのなら、君ともう一度あの虹を見みたいよ。  私達、いつかまた逢えるかな?  もし逢えたらきっと、前みたいに喧嘩しちゃうだろうけれど、その時はあの日見た虹を思い出して仲直りしようね。  そうしたら今度は、家に帰らずにいろん

          あの日見た虹

          もう味わうことのできない笑顔

           おはよう。  君が覚めることのない、眠りに就いて今日で7年経ちました。  一人暮らしをするのは久しぶりで、君が眠りについた当初は本当に大変だったな。  だけど不思議なもので、不意に優しい視線を感じることがあってさ、そんな時は「君が見守ってくれているのかな?」と暖かい気持ちになるね。  君は昔から私を見ては微笑んでいることがよくあって、その笑顔が本当に大好きだったのだけれど、君が眠ったままのこの世界では、そんな至福の一時を味わうこともできなくってどこか寂しい。  だから、叶う

          もう味わうことのできない笑顔

          大好きな君へ

          久しぶり、大きくなったね。 あれから十年だもん、そりゃあ大きくなるか。 なぁに泣いてるのよ? せっかくの可愛いお顔が台無しだぞ。 全く、二十歳になるっていうのに泣き虫なのは変わらないままだね。 わたし? わたしは別にな〜んにも変わって無いよ。 君とわたしじゃ生きる時間が違うからね。 ほら、泣かない泣かない。 あの時は仕方なかったでしょ? だって君かわたしか、もしかしたらどっちも死んじゃってたんだからさ。 言っとくけど、わたしの命は高いんだぞ! それに君のこと好きだったんだよ?

          大好きな君へ

          信じていたのは

          私さ、少し前まで「自信がある」と胸を張って言えるとまではいかなくてもそれなりに自信はあると思っていたんだ。 けれど、前の休日に何もせずぼけっとしていたときにふと思ったの。 本当に自分自身のことを信じてあげられているのかな?って。毎日、毎日なにも考えずに同じルーティンを繰り返して、自分のことを考えることもないのにね… それでね、どんなことが信じれてるのかなって考えてみたの。でも、信じれることなんて一つもなかったの。 なんかさ、悲しいし切ないよね。信じていたはずの自分が、何気ない

          信じていたのは

          生きる意味

           生きる意味なんて、考える様になってしまったのはいつからだろう。  人生に意味など無いということはとっくに知っていたはずなのに、いつも、いつも追い掛けてしまう。  学生の頃は友人と共に生活を送り、充実した毎日だったからかそんなことは考える由もなかったけれど、今となってはそんな友なんていなくなってしまった。  あの時の様な毎日笑ったり、新しいことに挑戦するような日々は私にはもう訪れないのだろうか…  こんなことばかり考えていると、まるで真冬の湖を見ているようにどこか色褪せたよう

          生きる意味

          意志を持つ

          人にはいつも、運命が付き纏う。 しかし相反する様に人の一部にはそれから逃れようとする者たちが現れる。 けれど、運命は残酷で人々を決して見逃しはしない。 そんな強大な運命にもたった一つだけ打ち勝つための術がある。 意志 それを持つ者は少ない。だが、必ずいつの世にも存在する。 きっと、運命に抗う定めを持った彼らは自身の…そして大切な人の未来に思いを馳せ、重厚な門扉を押し開く。そんな彼らでも、老いは必ず訪れ永遠の眠りにつく。 そして、そう遠くない将来に新たな意志を持つ者が現れ新たな

          生きること、生きないということ。そして…

          世間では「夢を持て」、「若いうちに色んな経験をするべきだ」などと言われるが、今の世の中はミスが許されず、その「夢」や「経験」を得ることが難しい世の中なのだ。  何か過ちを犯せばたちまちSNSで晒され、再び歩みを進めることができなくなる。  そんな世の中で夢など持てる訳がない。持てたとしてもすぐに潰され、本当に夢のままで終わってしまう。  経験だってそうだ。  失敗あってこその経験なのに、その「失敗」が許されないのだから経験もなにもあったじゃない。  私はこのジレンマに耐えられ

          生きること、生きないということ。そして…