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短編小説「四葉」



 草木が朝露を蓄える早朝より、週末の時雨しぐれ明けの草木の色合いの方が美しいと感じる。普段はすすけた印象を受ける公園が妙に愛おしい。それはきっと、3歳になった息子が遊具には目もくれず、走り回っている姿が目の端に映るのも関係しているのだろう。履き慣れた青い長靴を、まるで地面に見せびらかす様に駆けている。お気に入りの茶色のダウンジャケットに袖を通し、腕は水風船をつなげた様にパンパンの綿が彼を包んでいる。子どもらしくとてもかわいらしい。




 この公園の対象年齢は幼稚園生ではない。設置されている鉄棒の高さや、滑り台の階段の高さなどで小学生以上を対象にしているのが伝わってくる。息子も公園の意図を察してか、いつもこの公園に来ると芝生の上を走る。そして、いつも疲れると私の元へ帰ってきて「もう帰る」と駄々をこねる。今日もそうなることを見越して来たのだが、私の元へ息子は来ると唐突に驚くことを話し始めた。




 「ねえママ、四葉のクローバー探したい。もし見つけたらね、明日幼稚園に持っていってね、僕を嫌いって言う女の子にあげるの」息子の言葉に健気さを感じると同時に、こんな思いやりのある息子をないがしろにしている、その女の子に少しだけ腹が立った。私は息子の気持ちを尊重してあげたいが、素直に応援できる気持ちになれず、意地悪な質問をしてしまった。




 「四葉のクローバーをその女の子にあげたからと言って、好きっていってくれるかはわからないよ?それでもあげるの?」私の質問の意味が正しく伝わらなかったのか、息子は目を輝かせて私の質問に答えた。「そんなことないよ。ぜったい好きっていってくれるよ。それは決まってるもの」




 息子の言葉を受けて私たちは四葉のクローバーを探すことにした。あまり気乗りはしなかったが、息子のやりたいという言葉を尊重することにした。公園の外周、等間隔で植えられてる銀杏の木の下にお目当てのものはあった。もともとそこにクローバーが群生してあることを息子は知っており、二人で腰を屈ませながら探した。先に四つ葉を見つけたのは息子だった。小さな手で茎の根元から小さな宝物をちぎり取り、「これで、好きって言ってくれる」と頬を少し高揚させ笑った。




 翌日、息子を幼稚園に迎えに行き、息子の帰り支度を玄関で待っていると、担任の先生が息子より早く玄関に登場した。そして、「今日は四葉のクローバーをわざわざ持って登園してくださり、ありがとうございました。息子さん優しいですね」と賛辞の言葉を私に伝えた。



 私はよく意味がわからず、「なんか、息子がどうしても四葉のクローバーを幼稚園に持っていって女の子にあげる…とか言っていたのは聞いていたのですが、なにかあったんですか?」と素直に聞いた。すると、先生は「今日は息子さんの思いやりに触れました」と話し、続けてこう答えてくれた。




 「先週の金曜日、息子さんのことが好きな女の子がのクローバーで息子さんの気持ちを花占いしたんです。『きらい、すき、きらい…』と。その後も何度かやったみたいなんですが、なんせ三つ葉ですから…。結果は変わらず。そして、その子は悲しくなって泣いちゃったんです。それを友達から聞いたのか、見てたのか、今日息子さんがその女の子に『これで花占いしなよ』って渡してくれたんです。四葉のクローバーを」その瞬間を思い出してたのか、担任の先生の表情はとてもにこやかであった。私はというと、息子のそんなキザな対応が照れ臭いやら微笑ましいやらで少し恥ずかしかった。




 「その女の子は、息子からの四葉のクローバーを貰ってちゃんと『好き』と占うことはできたんですか?」先生のにこやかな表情を避けるため私は質問した。しかし、先生のにこやかさは陰りを見せることなく、むしろ数割増しとなり答えてくれた。



 「いいえ、女の子の方は四葉のクローバーを受け取ると『これ二人の結婚式のときに頭に飾る』って言い出して、結局お持ち帰りしちゃったんです」タイミングよく先生の背後から通学リュックを背負った息子が歩いてくるのが見えた。その普段と同じ姿が何だか少し大人びて見えてしまい、私はたいへん困惑した。




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