【第25回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第25回
「あいつは山をひとりじめしようとしてるんだ!」
晶の言葉に、大橋はどう返していいかわからず、目で原じいに助けを求めた。原じいは真顔だった。しかし、すぐに穏やかな笑みを顔に浮かべ、晶に言う。
「山は誰のものでもない。みんなのものだ」
晶はしばらく原じいを睨んでいたが、やがて少し泣きそうな顔で原じいに訊ねた。
「ほんと?」
原じいは晶の問いに答えず、逆に訊く。
「空は誰かのものか?」
晶は一度空を見上げ、原じいに目を戻すと首を横に振った。
再び原じいが訊く。
「海はどうだ?」
晶はさきほどより強く、首を横に振る。
原じいが満足そうに頷く。
「山も同じだ。この世のなかのものは、誰のものでもない。みんなのものだ」
納得したのか、晶はにっこり笑った。
原じいもにっこり笑い、はげ団子が入っている紙袋を軽く掲げた。
「ほら、家に入ろう。手を洗って、お父さんとお母さんにあげたら、はげ団子を食べよう」
「うん!」
晶は元気よく返事をし、家のなかへ入っていく。原じいは大橋も家のなかへ促した。
「冷やした麦茶があるから、飲んでいかんか」
大橋はこめかみを伝ってくる汗を、首にかけていたタオルで拭きながら答えた。
「ありがたい。のどが渇いていたんだ。おじゃまします」
家にあがり、廊下の奥にある茶の間へ入ると、大橋はそのまま続きの和室に向かった。部屋の奥に、仏壇がある。その両側に、紙でできた大きな灯籠が天井からぶらさがっている。このあたりで盆灯籠と呼ばれているものだ。新盆は白、二年目は銀色、三年目は金色のものを飾る。目の前の仏壇の灯籠は、金色だった。
(つづく)
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