【第37回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第37回
晶が真剣に石職人になろうとしていることに、原じいも気づいているはずだ。まだ子供とはいえ、石職人になることがいかに大変か、そして、仕事も決して楽ではないこと――まして一般的には男性より体力や力がない女性にはかなりきついものであることを伝えた方がいいのではないか。石職人になりたい気持ちがもっと強くなってから現実を知って、あきらめざるを得ない辛さを味わうよりは、いまのうちに無理であるとわからせたほうがいいのではないか。
そう目で伝えたつもりだったが、原じいは気づいているのかいないのか、ただ微笑みながら晶の頭を撫でている。
大橋は大きくひとつ吐き、腰をあげた。
「帰るの?」
晶が訊く。
大橋は頷いた。
「もう用事は済んだから。アキちゃんがはげ団子を喜んで食べてたこと、ばあちゃんにちゃんと伝えておくからな」
原じいと晶が外まで出て、見送ってくれる。後ろを振り返ると、晶が手を振っていた。手を振り返し、前を向いて歩きだす。
晶は将来どのような人生を歩むのか、そして丁場はこれからどうなっていくのか。考えると気が重くなった。
自然に歩くスピードが速くなる。無性に、妻の夏美に会いたくなった。
(つづく)
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