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第3章 書庫にて 第5話

第5話 アイザック・フェリウッド


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 抱きとめたレイラがしがみつくようにして、身体が小刻みに跳ねさせる。
 僕の首筋に埋めた顔から、荒い息を感じる。

 後ろから手をまわし、指先で彼女の長い髪をなぞった
 髪の間を通り抜ける感触を楽しむように

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――― 彼女の柔らかく滑らかな髪を指で梳《す》く。
――― 快楽に震える身体を、そっと抱き留める。 

 深く息を吸い込むと、汗に交じった、野草のようなさわやかな香りがした。

―――  ・・・そういえば、あの日もこの香りがした

 あの日、彼女の髪の一房、その目の煌めき、その全てが僕を魅了した。
 彼女のすべてを僕のものにしたいと、強く切望した。

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 僕は金色の街エルムハースで、人間の父とエルフの母の間に生まれた。
 エルフとしての使命を果たすため旅を続ける母に代わり、父が僕を愛情深く育ててくれた。       
 だが、商会の会頭としての職務は父に多忙な日々を強いていた。そして僕が七歳の誕生日を迎えたとき、父は僕を街から三日の距離にあるエルデン村という小さな集落に住む祖父母の元に預けると決めた。

 エルデン村――名前だけは何度か耳にしていた。
 その村には、僕と同じ、ハーフエルフの兄妹が暮らしていると父が言った。一人は僕より七つ年上のお兄さんで、もう一人は僕よりひとつ年下の女の子だ。

 自分以外のハーフエルフに出会うのはこれが初めてだった。僕は、ふと心の中で、彼らと仲良くなれたら良いな、と思った。

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 商店の扉を開くと、二人はお店の手伝いをしていた。
 母親の陰から僕の方を不思議そうに見つめる少女に対して、僕は微笑みを向けた。

「こんにちは、レイラさん。初めまして。」

 僕がそう挨拶すると、彼女はにっこりと微笑んで返事をした。
 その笑顔はまるで開花する花のようで、僕の心を満たしてくれた。

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 まだ6歳だというのに、彼女が操る精霊魔法は美しかった。
 陽の光を受けて、きらきらと輝く水しぶきの中で舞う彼女の姿は、まるでおとぎ話に出てくる水の女神アクヴリア様のよう。

 その生命力にあふれ、光り輝く美しさの前に、僕はすっかり虜になってしまっていた。

 山での遊び方、川での魚の捕まえ方。
 食べられる木の実と、食べられない木の実。
 彼女は僕に知らないことをたくさん教えてくれた。

 彼女の興味を引くために、僕は書庫で知識を蓄えた。
 森に隠されたエルフの王国、地下に秘められた失われた都市の伝説、神に至った人魚の話、、、

 書庫のソファに並んで座り、二人で様々な本を読み進めた。
 彼女の目がページをめくるたびに輝く。
 その横顔に、僕はひとり見とれていた。

――― いつか行ってみたいな・・・

 彼女の口からそっと零れた願い

――― その時は僕も一緒だよ

 彼女の緑の瞳を見つめ、そう誓った。
 君と共になら、どこへでも。君が望むなら、どこへでも。

 彼女の名はレイラ
 レイラ・モーニングデュー
 朝露のように鮮やかで、、、
 僕の恋人で、僕の初恋の人で、僕の愛しい人。


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