見出し画像

天真爛漫、君は素敵だ。|散文

貴方はとてもいい人ね、……だけど
顔が嫌い顔が嫌い、
貴方の顔が、嫌いなだけ……!

強烈な歌詞がスポットライトの中に咲き
取り巻きたちを払い除けて僕は走った
いちばん近い場所で彼女たちを観たい

中学の僕からすれば高校生の彼女は憧れ
その中でも僕のいちばんは『お恭さん』
すらりと高身長な彼女は、常にクール
近づくものに媚びることのない鋭い瞳は
もう、格好よすぎ……の一言に尽きる

金色の長髪、それは……
我こそ王者とライオンのように奮い立ち
彼女が響かせるギターは雄叫びだった

僕たちのことなんか瞳の隅っこにすら
ええ、入っちゃあいないでしょうよ……
なんせ僕たちは中学生のガキんちょです
けっ、ピーチクパーチク真似事やってら
くらいにでも知って貰えてたら、万々歳

ある日の朝っぱら、
通学路の途中にあるホームセンターの前
ライオンが目の前を横切ろうとした

……え、うぇえええ!?

そうなるでしょ? なるじゃろうもん
だって、平日の朝イチにですよ……
ライオンが進学校の制服を着てるんだよ

あっれー? あんたベースの娘ぢゃん?

なんて声をかけられてゴリ固まった、僕
知って貰えてるという喜びとか
声をかけられたという驚きなんだとか
そんなもんプッツンするほどの違和感に
僕は口をぱっくり開けたまま頷いていた

な、何かしら言葉を返さねば……
とち狂った僕のくちは
「お恭さん、何処に行くんですか」
などとアホな質問を吐きだしてしまった

制服だし、普通に学校だよね……

と答えるお恭さんは、すこぶるすこぶる
ほんに、すこぶる格好よいスマイルで
「応援してるよ」と手を振り去っていく

……放心すること、数分間

応援しています、を言いそびれた僕は
見えなくなった彼女に向かって
大好きです! 応援してます! と、
心のなかで大音量で叫びつづけていた

めちゃくちゃ格好いい……
あのスタイルは舞台用ではなかった……
彼女はどこまでも『お恭さん』であり
そんな自分に誇りを持って生きていた

僕もどこまでも僕でありたい、いや
そうあらねばならんのだ、そう思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?