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異語り 160 捜し物

コトガタリ 160 サガシモノ

30代 女性

夏休みは実家へ顔を出した。
実家の近くには大きな湖があり、場所によっては泳ぐことができる。
なので、子どもたちは大喜びだった。
連日、私や祖父母を交代で引き連れて泳ぎまくっていた。
最近の夏はとても暑いから、水道代を気にせずに水遊びできるのはとてもありがたい。

いよいよ明日には帰るという日にも、大張り切り出かけて行った。


その日はいつもの湖ではなく、小さな滝のある沢へ連れて行ってもらったらしい。
帰ってきてからもずっと「楽しかった」とご機嫌な様子だった。


でもそんな楽しい夏休みも終わり、残暑も厳しいなか学校が始まる。


それに気がついたのは、学校が始まってからだった。

現在の我が家はリビング以外には2部屋しかなく、ふすま一枚を隔てたすぐ隣で子どもたちが眠っている。


皆が寝静まった夜中
確かに寝息が聞こえているのに

パシャンッ

と水をかけるような音がする。

別に翌日におねしょしていたりとか、布団が濡れていたりということもない。

ただ夜中に一度か二度ほど

パシャンッ

と聞こえるだけだ。


寝ぼけていたり夢うつつだったりする時ではなく、
布団に入ったばかりの比較的まだ意識がはっきりしている時に聞こえるのでとても気になってしまう。


ついに先日はパシャパシャとした水をかけるような音ではなく、

ドボンッ

と、深みに飛び込んだかのような音がして思わず襖を開けて隣を覗いてしまった。

子どもたちは眠っていた。
気持ちよさそうな小さなイビキまでかきながら。

ただその布団の間から
にゅーっと 
くの字の緑色の棒のようなものが生えているように見えた。
棒の先に団扇のような葉が付いていて、それが子どもたちの周りをペシペシと叩いている。

思わず息を飲むと、向こうもこちらに気づいたようでピタリと動きを止めた。
でもすぐに

バシャンッ

という音を残して布団の隙間へと消えてしまった。


私はすぐに部屋に入り、子どもたちを確認しました。
が、濡れている所はなく、よく眠っていました。

でもとても不安で、その夜は子どもたちの部屋で過ごしました。


朝、目を覚ました子どもたちにはびっくりされました。
でもきっと見守るだけでは駄目だと感じていました。
どこまで話そうかと迷いましたが、あんまり怖くならないように昨日までの水音の話をしました。

すると子どもたちが、
このところずっと夏休みに沢で遊んだ時の夢を見ているといいます。

ふと気になり、
「もしかして沢から何か拾ってこなかった?」
と聞いてみると、
子どもたちを顔を見合わせ宝箱の中から薄っぺらい楕円形の石を見せてくれました。

白っぽくつるつるとしたそれはなんとなく濡れているようで、
手に触れた瞬間
あの棒が探していたのはこれなんじゃないかと感じました。


すぐにでもあの沢に返しに行かなくては。
でも子どもたちは
「これは大事な想い出なの」
と代わる代わる石をなでています。

そこで私は子どもたちに、
「これはきっと河童のお皿で、お皿をなくしてしまった河童が毎晩探しに来ているんだ」と説得しました。
「お皿をなくした河童は仲間はずれにされているかもしれない。だからお皿をかえしてあげなくちゃ」

子どもたちも「それはかわいそうだね」と納得してくれ、
その石を実家へと送ることにしました。

石は父に頼んであの沢に返してもらえるようにお願いしました。



本当にあの石がカッパの皿だったのかは分かりませんが、その時はなんだか口が勝手に話していたような、
もしくはそう言わなければ
と思い込んでいたようにも思います。



石を送り返してからは水音は聞こえなくなりました。

でも子どもたちは時々夢の中で河童の子供と遊んでいるそうです。

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