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高知の川の魅力と、命を懸けて楽しませてくれた友人の話

梅雨の隙間の強烈な日差しに夏の接近を感じる。
この時期特有のじわりとした嫌な暑さを感じると、いつも思い出す友人がいる。
彼は命を懸けて人を楽しませる、真のエンターテイナーだ。
今日はそんな話をしたい。

僕の出身は高知県である。

高知県の魅力といえば、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。

カツオのたたき
日本酒
坂本龍馬

有名どころはこんな感じだろうか。

もちろんこれらは大変に素晴らしい。
高知に訪れた際にはぜひ堪能してほしいものだ。

だが、これら以外にも高知にはたくさんの魅力がある。
そしてその魅力は県外に移住して初めて気づくことも多いのだ。

その最たる例が、「川の美しさ」である。


川で泳いだことがないのが信じられない

高知は大変に自然の豊かな県である。
海がきれいすぎて船が浮いて見えることでおなじみの柏島、石灰岩が点在しハイジみを感じられる四国カルスト、最近朝ドラで話題の牧野植物園など、見所は沢山ある。

そんななかでも僕が一番魅力に感じるのは、川の美しさだ。

高知の川といえば四万十川を思い浮かべる方が多いだろうが、高知県中部に住む僕からすると、実はあまりなじみがない。

よりなじみ深い川は、仁淀川鏡川だ。

特に仁淀川は、僕は中学高校に通うために毎日橋を渡っていたので、大変なじみ深い。

この仁淀川、実は水質が日本一と言われている。
なんと四万十川よりも水がきれいなのだ。

もうすっかり有名になってしまったが、上流の方に行くと「にこ淵」と呼ばれる滝つぼのような場所があり、そこの水の美しい青さは「仁淀ブルー」と呼ばれ人気観光地となっている。

7年前にスマホで撮影
生で見るともっと綺麗です。


しかも、上流の水がきれいなのはまあ当たり前なのだが、仁淀川の場合は下流の方でもかなりきれいだ。

僕が毎日渡っていた橋は平野の市街地付近に架かっているのだが、その辺でも水は澄み渡っている。


そしてこんなにきれいな川が近くを流れていれば、することといえば1つ。
そう、川遊びである。

夏の暑さを紛らわすため、僕らは当たり前のように川で泳ぐ。
なんなら、お盆でも正月でも関係なく川で泳ぐ。
帰省した地元民の遊び場所といえば、仁淀川の河原で決まりなのだ。


高知を出るまで、僕はこれが当たり前だと思っていた。
なので、夏になれば関西でも川で遊べるもんだと思っていた。

しかし、新たにできた友人のほとんどは川で泳いだことがないという。
あんな汚いところで泳げないよ、と。

最初僕は自分の耳が信じられなかった。
しかし、淀川を見て僕の河川観は覆された。
いくらなんでも汚すぎる。
こりゃ泳げねーわ、と。

これからのシーズン、川で泳ぎたいという方には仁淀川が大変オススメだ。
川で泳ぎたいけどラフティングはちょっと、、、という人は仁淀川に行っとけば間違いない。

川遊びは危険がいっぱい

ただし、川で遊んだことのない方には、川は危険がいっぱいということを伝えておきたい。

下流で雨が降っていなくても上流で雨が降っていれば急に水位が増して流されることがあるというのは有名な話だ。

それ以外にも、川遊びには危険が存在する。


川遊びと聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろう。
先ほど挙げた、泳ぐ、BBQ、それから釣りや水切りなどが一般的だろうか。
だが、僕たち高知県民はよく飛び込みをして遊ぶ。
これが一番楽しい川の遊び方なのだ。

ちなみに飛び込んでいたのは鏡川だ。仁淀川よりも鏡川の方が学校から近く、飛び込みスポットが多かった。

高校生の僕は、夏休みに部活が午前で終われば、そのまま友達と川へ飛び込むという日々を送っていた。

飛び込みというとプールの飛び込み台をイメージするかもしれないが、そんな生ぬるいものではない。
橋や岩、崖の上から水面に飛び込むのだ。
その高さは低くて2メートル。高いところでは10メートルほどはあったと思う。

そんな高さから飛び込むので、危険でないわけがない。
失敗すれば最悪の場合、死に至る。


あれも今日のようにじわりと肌に絡みつくような暑い日だった。

友達のN君が、飛び込みに失敗した。

N君とはそう、僕を偽善者と罵ってきたあのN君である。

彼はエピソードに事欠かない人間だった。

せっかく好きな子からバレンタインチョコをもらったのに、照れ隠しのためかそれをドブに投げ捨てその子を泣かせたり、
いじめがバレて部活を退部させられそうになるも拒み続け、「部活を辞める」と自分から言うまで顧問に平手打ちをされ続ける拷問を受けたり、
高校を卒業して急に顔が変わって誰か分からなくなったりした。

そんなN君を含め、6,7人の集団で僕はよく一緒に川に飛び込みにいっていた。

行きつけの飛び込みスポットは、川沿いの崖の上の道路である。
田舎の川沿いを車で走ったことのある方はイメージしやすいだろうが、車2台がギリギリ離合できるくらいの細い道で、ガードレールの先は崖になっている。
水面まで10m近くはあっただろうか。結構な高さがあった。
そして、真下には大きな岩があるので、1mほどは前方に飛ばないと飛び込んだ際に岩に激突してしまう。
10mの高さから岩に激突すれば、確実に死ぬ。

現場イメージ

地元では有名な飛び込みスポットだったが、そんな危険な場所を行政が見過ごすはずはなく、定期的にパトカーが見回りにきて注意をしていた。
だが高校生の僕らにはそんなスリルが適度なスパイスとなり、警察の目を盗んで飛び込みを楽しんでいたのである。


そんな飛び込みスポットで、お調子者のN君はよくいろんな飛び込み方を披露してくれた。
とはいえ、彼にそんな高度な飛び込み技術などなく、横に1回転しながら飛び込んだり、後ろ向きのまま飛び込んだりと、その程度だ。
実際にそこで立ってみればわかるが、普通に飛び降りるだけでめちゃくちゃ怖いし、着水を少しでもミスればケツ穴が破裂するほど痛いので、頭から着水しようなどと常人は絶対に思わないのだ。

その日もN君は変わった飛び込みをしようとしていた。
N君は助走をつけてガードレールを踏み台にしてそのまま飛び込むと言い出した。

たしかに、そうすればかなり高く遠くまで飛べて気持ち良いだろう。
しかし、前述の通り川はガードレールの向こうにある。
助走をつけて飛ぶということは、川が見えない状態で飛ぶということだ。
相当危険だし、相当の勇気がいる。
皆が心配と尊敬と興味の入り混じった複雑な目でN君の挑戦を見守った。

ここで一つ、冷静なバカがいた。
飛び込むときは基本的に裸足なのだが、ガードレールの上面は意外と薄く、裸足で飛び乗るとめちゃくちゃ痛そうだというのだ。
確かにそうだが、心配するところはそこか?
なんやかんやでその主張は取り入れられ、N君はその場の誰かが履いていたクロックスを借りて履いた。
まさかこれが命取りとなるとは。。。


さあ!いざ飛ばん!享楽の彼方へ!

勢いよく助走をつけてガードレールに飛び乗ったN君。
ガードレールを踏みしめて大空へと羽ばたいた!

と思ったその時!
なんとN君はガードレールの上で足を滑らせた!
あろうことか、借り物のクロックスは川遊びで使っていたのでびちょびちょだったのだ。

そのままN君は、腹を下にして手足を曲げた"片"の字のようないびつな体勢で崖の下へと落ちていった。

前述の通り、崖を真下に落ちればそこには岩がある。
10mの高さから岩に打ち付けられれば生きては帰れまい。

あ、死んだ

そう思うのが早いか、僕はガードレールに駆け寄り、身を乗り出してN君の行方を見つめていた。

じわりとした嫌な汗が暑さとともに体に絡みつく。
N君は"片"の字のまま落ちてゆく。

その時ほど時間が凝縮された経験は今までにない。

あんなに僕にひどいことをしたN君だが、さすがに今死ぬのはかわいそうだ。
N君にも家族がいる。こんなに若くして死んだとあらば、その悲しみは計り知れないだろうな。

そんな思考がすごいスピードで頭を巡った。


ここで、奇跡が起こる。
一か所だけ岩が窪んでいるところがあり、N君はそこに吸い込まれるように落ちていったのだ。

奇跡的な窪み

「まじで走馬灯見えた。」
N君は後にそう語る。

生還したとはいえ、いびつな体勢で落ちたため全身が水に打ち付けられ、かなり痛かったはずである。
死にかけたうえに全身強打。そんなトラウマがあればもう凝りて飛び込みなんてやめるものだが、N君はそのあともいろんな飛び方で僕たちを楽しませ続けた。

彼は生粋のエンターテイナーだと思った。

僕を偽善者呼ばわりしたN君だが、その場その場を命を懸けて楽しもうとするN君から見れば、そこまで本気になれない僕は、すかしたイキり野郎に見えていたのかもしれない。

その日から僕は、自分が怠けてしまっていると感じたときには彼のことを思い出し、自分を鼓舞している。
あんなにいがみ合っていたN君だが、なんやかんやで僕の人生に最も影響を与えた1人なのである。


そんな高知県の川は最高なので、皆さんもぜひ遊びに来てみてほしい。

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