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ビリーさん集め。

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ビリーさんの書いたもので個人的に大好きなものを集める。
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2023年6月の記事一覧

連作短編「おとなりさん season2 海の見える食堂から」#8

連作短編「おとなりさん season2 海の見える食堂から」#8

第八話「夏の日 〜前編」

 七月になりました。
 梅雨明けはすぐそこだよ。
 なんて、真っ青な空を、かすめちゃうくらい、人の近くを滑空してゆく、つばめたちが噂をしている。そんな気がした。
 遠回りして、あじさい通りの商店街へ、それから、買い物を終えてたどり着いた、輝く我が名ぞ、花鳥風月。
 春を迎えようが、夏が暑かろうが、秋に黄昏れるわけでもなく、冬だからといって、特段、いつもと変わらない。太平

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【本日解散】サンキューBiSH、くそったれ、ロックンロール。

【本日解散】サンキューBiSH、くそったれ、ロックンロール。

 数年前。
 メンバーの一人、モモカンこと、モモコグミカンパニーさんが言っていた。
「(乃木坂のような)あんなキラキラした人たちには、私たちはなれない」
 それに気づいてしまった彼女らは、愚直なまでに必死に駆けることを決めた。振り返ると、その足跡には、やがてロックが宿った。
 BiSHの、彼女らの、その生き様に、ロックンロールの神が微笑んだのだ。そして、愚かしいまま散ろうと、その瞬間を狙ったのだろ

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連作短編「おとなりさん season2 海の見える食堂から」#7

連作短編「おとなりさん season2 海の見える食堂から」#7

第七話「振り返れば奴がいる」

「ありがとうございました。またのお越しを」
 お待ちしています、は、心のなかで、呪文のように唱えておく。
……呪文。それは直訳するなら呪いの文言。
 違う違う、そうじゃ、そうじゃない。それは呪いじゃない。
 おまじない。よろこびと慈しみをふりかけた、小さな魔法。頭を下げても、しっかり、にっこり。ふひひ。いひひ。ついでに、でへへ。
 たった一日でも、たくさんのお客様を

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連作短編「おとなりさん season2 海の見える食堂から」#6

連作短編「おとなりさん season2 海の見える食堂から」#6

第六話「地図にない場所」

 どうしてお腹が空くんだろう。
 膝を抱く。ダンゴムシのように、なるべく小さく体をたたんで、ただ、目を閉じておく。何も見えず、何も聞こえないように。なるべくエネルギーを使わないように、なるべく、いまより消耗してしまわないように。そして、目だけで壁の時計をちらちらと見つめて、時間が過ぎ去ってくれるのを待っていた。
 お母さん、今日は何時に帰ってくるんだろう。
 ぼくはまだ

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【写真】it is tide? come on slowlight.

【写真】it is tide? come on slowlight.

#slowlight

 先日。
 行きつけのスーパーで(って、主婦さんみたいなこと言ってますけど)。
 全身、黒。むしろ、喪服のようなご婦人が出入り口に。ご丁寧に、あれ、なんて言うのかな、メッシュみたいなのがくっついてる帽子のような。アーミッシュ的というのか、皇后陛下の正装的なあれ。
 ちなみに、僕は、天皇制の支持者です。全然、詳しくないけれど。
 で、ですね、その喪服的な、あるいは皇后陛下的な

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連載小説「超獣ギガ(仮)」#23

連載小説「超獣ギガ(仮)」#23

第二十三話「月光」

 昭和一〇〇年、一月四日。
 午前三時。神奈川県横須賀市。隠密機動部隊、その隊舎。
 
 あの日の朝と同じように、鳴り始めた、襲来警報。
 それもやはり同時多発的に、それぞれの部屋、多くの場合、寝室のサイドテーブルから、備えつけた間接照明の直下から、端末機器が騒ぎ始めた。多くの人は支給された軍用機密、その専用回線を持つスマートフォン、バエルフォンだった。
 その警報を、顔の真

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連作短編「おとなりさん season2 海の見える食堂から」#5

連作短編「おとなりさん season2 海の見える食堂から」#5

第五話「猫になりたい」

 吾輩は猫である。
 ので、どうしてもヒト科のような群れの生活には馴染むことなく、さりとて、生きている以上、やはり糧は必要である。かすかに残る狩猟本能を総動員しようとも、しかし、吾輩も既に老境、ネズミを追えば翌朝以降の筋肉痛と疲労感、それに伴う虚脱感にて灯火たる命の火種が尽き果てそうにて、昨今たるや、人様から配給される食糧品を待つ始末。
 嗚呼。小生、もはや捕食者に非ず。

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【備忘録】閑話休題withサマータライ。

【備忘録】閑話休題withサマータライ。

 すっかり高知は夏のよう。
 しかし、今年の夏も当然のように暑くなるのでしょう。げんなりしちゃう。僕は暑いのが苦手だし、汗をかくのも好きじゃないから。

 というわけで。
「おとなりさん2」の#6、#7と、「超獣ギガ(仮)」の#22を執筆していた、ある日の午後三時。

 このたらいをね、ダ○ソーで買ってきまして。水を張って、ベランダに。アウトドア用のチェアを置いて、写真のように両足を水に浸け、涼を

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連作短編「おとなりさん season2 海の見える食堂から」#4

連作短編「おとなりさん season2 海の見える食堂から」#4

第四話「恋文」

「よいしょ」
 年寄りくさいとは思いながら、だけど、とうにお年寄り扱いされる年齢になっているんだし、現実的に孫のいるおばあちゃんなんだから。
 なんて、しっかりと自分自身を自覚しながら立ち上がる。
 よいしょ。
 そんなかけ声で、いまから動かしますよ、と、自分自身に、その体に伝えておくのです。これだけで、それなりに怪我の可能性を減るというのだから、人の身体というのは案外、単純で、

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連載小説「超獣ギガ(仮)」#22

連載小説「超獣ギガ(仮)」#22

第二十二話「友達」

 昭和九十九年十二月三十一日。大晦日。
 神奈川県横須賀市。隠密機動部隊、その基地。

 日中の最高気温が三度と予想され、その冬、最も冷えた、大晦日。各観測地点には、超獣ギガ(仮)が現れるときに発生する、現時点では謎に包まれた光体現象は観測されず、特有の熱源も記録されていなかった。指令室では各観測地点のリアルタイム情報がモニタリングされていたが、変動は見られず、待機中の面々も

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連作短編「おとなりさん2 〜海の見える食堂から」#3

連作短編「おとなりさん2 〜海の見える食堂から」#3

第三話「手紙と再出発」

「微妙だなー」
 いきなり、とは思いながら、やっぱりいきなりこぼれてしまった弱音。弱音? 本音か。弱音は本音。本音は、やっぱり弱音になってしまう。
「なによブツブツ」
 カウンターの拭き掃除をしていた娘がちらりと僕を一瞥した。眉根を寄せた、その視線はなかなか厳しい。テーブルの隅に寄せられた皿はロスなく何も残らずきれいにされていた。
「あーいや」
 なんでもない。
 ことは

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【雑記】今日は、たぶん、駄文。dub-mix(←意味不明)

【雑記】今日は、たぶん、駄文。dub-mix(←意味不明)

 昨夕は北海道地方で大きな地震があったと、本当にたまたま、「孤独のグルメ」を見ようとテレビをつけたんです(BSで観ているので)。そこで知った地震の報道。
 noteで親しくなった人の安否が気がかりにもなります。
 どういうわけか、僕は不思議と北海道の人と親しくなる傾向があるんです。昨日、「おとなりさん2」のマガジンをフォローしてくださった人も道民さんだったり。
 そのうち、夏の避暑と執筆の時期にお

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連作短編「おとなりさん 〜海の見える食堂から」#2

連作短編「おとなりさん 〜海の見える食堂から」#2

第二話「看板娘」

 茹だる夏の夕、と、季節と気温以上に真夏感を感じさせてくれる歌が小さなスピーカーから届けられたのは、ある、土曜の午前十一時半。うだるって、どんな漢字だっけ。
 茹だるとまでは言わないけれど、窓から射し込む陽射しはすでに夏。床に揺れる陽だまり。
 まだ五月。まだ午前。夏でも夕でもないけれど、空調が入る前の店内清掃は充分に夏の暑さで、作務衣を着ていた私はしっかりと汗をかいていた。作

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連載小説「超獣ギガ(仮)」#21

連載小説「超獣ギガ(仮)」#21

第二十一話「宿敵」

 昭和九十九年。十二月三十日。
 午後四時二十一分。神奈川県横須賀市。
 暮れの近づく、隠密機動部隊、その秘密基地。

 市内を見下ろすことのできる小高い丘、その中央には平和公園が広がっていた。常緑樹はその最盛期よりはやや色を落としてはいたが、しかし、昨日と変わらず青々と葉を茂らせて、寒風に揺られていた。落ち葉が静かな眠りにつく歩道。時折、強く吹き上げてくる海風に、落ち葉は乾

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