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2023年5月の記事一覧
「遠雷」
あまりに僕は無力に過ぎず、
呆けたように見上げる天、
気晴らし程度の軽い雨やら遠雷と、
手向けた花なら暇な鴉が持ち去った、
慈しみを持ち寄って、
どうにか優しくあろうとするも、
横目に欠伸の猫がゆく、
「雷鳴」
埃を被った瓶詰めの葡萄酒を、
吐き出しながら飲んだ日のこと、
噛みつき合いの無駄話、浅薄なる戯言や、
走る羊の数え歌、滑らかなる肌を探した、
忘れようとも思えずに、
喉の奥で転がしている、
狼狽えながら過ぎたあの日を、
「雨晒し」
古い猫は雨を待たずに空を見る、
風は路を撫でて泣いてた、
忘れたいことだけ憶えてしまう、
そのとき君は、そのとき僕は、
昨日よりもあまりに儚い、
風に揺られる砂の粒、
それなのに、
昨日今日明日、祈り続けることをやめない、
「荒野」
独りで在るということに、
慣れずに生きることはできない、
雨のなか、風の隙間を縫うよう走った、
子供はもうここにはいない、
激しさも、静けさも、
諦めすらも背負う他ない、
私たちはあまりに独り、
心を荒野に置くしかない、
「残響」
淋しさに慣れるほど、僕らは歳を取ったんだろう、
痛みを忘れたふりするくらい、
記憶を辿れど知った日のこと思い出せない、
幸福さという幻を、呪いにして背を撫でる、
海鳥鳴いて潮風切った、
初夏の日は、残響みたいに過ぎてゆく、
生きゆく四季は絹雨みたいに過ぎてゆく、
連載小説「超獣ギガ(仮)」#19
第十九話「進化」
十二月二十八日、午後二十時五分。
東京都千代田区。国会議事堂八階。機密ホール。
それは議論や会議と呼ぶべきではなかった。内閣総理大臣である蓬莱ハルコと、政府関係者、例えば、内閣総理大臣補佐官や内閣官房長官も出席していたが、しかし、その内実について、ほとんど誰にも知らされていなかった。同様に、空自、海自、陸自の各自衛隊幹部、警察庁の責任者や研究者たちにしても、壇上の文月の
【写真】届くだろう、やがて訪れる光が。
#slowlight
学生のころ、西村良太という友達がいた。
ラーメン屋のまかないで食い繋いでいる良太の好物は吉野家の牛丼だった。
良太は毎日のように、ときには三食、牛丼を胃に送り込んでいた。大量に紅しょうがを載せて紅しょうが丼にし、それを食べ終わると大量の七味を投入して、甘辛い牛丼にするのだ。
「よくそんなに食えるなあ」
誰もが呆れた顔で良太に声をかけていた。
「あっさりしとるからね」
連載小説「超獣ギガ(仮)」#18
第十八話「兵器」
昭和九十九年十二月二十八日。
東京都千代田区。国会議事堂。
その八階は円形のホールになっている。中心には槍を思わせる螺旋階段が八階の上の頂上階まで貫いて、周囲は磨りガラスが張り巡らされていた。二重構造になっているのか、外からの光はぼんやりとしか届かない。壁がぼんやりと発光しているようにも見える。
見上げれば円形の天井。ホール中央に螺旋階段。採光のための小窓。どこか円盤
【備忘録】旅は道連れ世は情け。
「このあたりの地理に詳しいですか」
背後から訊ねられたのは昨日のこと。場所はある、お寺さん。その参道。ウォーキングを兼ねてよく参拝している、札所。振り返ると、竹笠に白い衣装。お遍路さん。
僕はその問いに自らを振り返る。この町に一年以上暮らしている、このお寺には頻繁に通ってもいる。しかし、詳しいだろうか。例えば、歩いてきたのが県道なのか国道なのか知らない。うん。詳しくない。
「詳しくはないです
【備忘録】風のように。
夢を見た。
僕はまだ小さかった。小さな手で母の背を追いかけていた。振り向いてはくれなかった。
「他に好きな人がいるから」
そう言って、置いて行かれた。泣き叫んだような気がした。おそらく、青い顔で目覚めて、僕は自分の手を確認した。暗がりで裏表を何度か凝視した。小さな子供の手ではなかった。見慣れた、大人の、すでに、若いころを過ぎた、日焼けて乾燥した肌の、男の手だった。
良かった。僕はもう子供じ
連載小説「超獣ギガ(仮)」#17
第十七話「発射」
昭和九十九年十二月二十八日。
東京都千代田区。旧明治神宮野球場、その跡地。
「星屑8号はこのまま離陸します。離れてください」
マイクに乗る高崎要の声。風貌に合った、やや高く、しかし、優しみのある声。一同はその出所を見上げ、左右し、そして、振り返った。緩やかな坂道に続く、地下。その大空洞が吐き出す銀色の砲身。暗がりから伸びて地上に現れ、そして、急速にカーブを描いて高く、屋