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世界が美しい理由


梅雨明けの熱帯夜、
海沿いのアパートで暮らす20代の文学少女は、今宵ひどく落ち込んでいた。

絶望に飲み込まれないように、
真夜中に部屋を出た。


絶望の縁を歩きながら思いのままに話す彼女の独り言は、
僕の心にはとても美しく映った。


〜彼女の独り言〜



明るくなるまで歩こう、
部家に戻るには通路の電気のところに大量のカメムシがいるんだよね。
それをねくくり抜けて…
嫌だなぁ、
だから、朝になるまで戻りたくない。
近場の海沿いだけど…

そう、
私は今ここがもうすでに冒険です。


アパートの海側の道を下りると普通の道路なんだけど、
道路はやっぱり街灯があるから明るいです。

眩しいなぁ…

今の私は灯りがダメなんだけど…
でもなんか、
この嫌だ嫌だと思いながらも歩いてたら、ちょっと目が慣れる。

目が慣れるとさ、
この…
波打ち際を街灯が照らすんだよね。
それで月灯りが… 

あれ?

今日そういえば月が無いな?
今は…
2 時 53 分。
なんで月ないんだろう…
変なの。



やっぱりあれだな、
海沿いも風が無いと熱いな。


明かり全部消えてたらいいのになぁ…
星空だけあればいい。




今日はとても嫌なことがあって…

それを何とかごまかそうとしてたら、
親父が来てさ、
嘘だろう!と思ったよ。

昼間はね、
モスバーガー食べたし、
ハリーポッター観てたし…
うん、
昼間は割りと良かったんだよね…


まさかこんなことになるとは…。





「私はきっと今一人で喋っている」




私、
前は寡黙だったのに、
喋ると睨まれるからずっと黙ってた。
喋るという発想がなかった。
最近よく喋るようになったなぁ…

寡黙だと思ってたけど、
今はもう寡黙じゃないなぁ…

アイデンティティの喪失だ、
困ったなぁ…



暗い方に歩いてみるか。
広島があるのが北?
だとすると、
南側は明かりが多いから、
北の方にに行く?



〜彼女は夜道をひとりで歩き続ける〜



カエルすごいなぁ。
女みたいに囂しいな。


蚊に刺されたくないからカーディガン着て来てるから暑いな…

たまに風はあるけど、生ぬるい。

北から風吹いてんのかな?
北風日和なのかな?


こんな時さ、
自転車とかバイクあったら多分、私。
あれだね。
走りまくるだろうな。
急に隣町まで行って、飛行機とか乗って
ビューってどこか行っちゃうな。
行動的すぎるのも良くないな。

やっぱり私は車とかバイクとか持たない方がいいかも。
でも自転車で行ける距離は限られてるからなぁ。



マックのグリーンスムージーはとても美味しかった。
飲んでみたかったんだよね、
グリーンスムージー。
野菜の飲み物好きなんだよね、
野菜生活のシリーズとか…

うちは小学生の頃の飲み物は牛乳と野菜ジュースと青汁だけだったんだよ。

お水を飲む文化がなかった。
それで暮らしてたの、
あ!
それがまだ栄養だったのかな? 

栄養失調でぶっ倒れたんだよね、
中学の時に…

それが不登校の…
うん、
あれも一つの要因だったなぁ…

でも野菜ジュースは好きなんだよね。


マックの…カフェ?
マックカフェ?
じゃないか。
ドリンクかな?
濃厚なグリーンスムージーとマンゴースムージー、
あと桃のスムージーがあって、
期間限定なのかわかんないけど、
この時はマンゴースムージーを飲んだ。

マンゴープリンとか、
マンゴー食べたくてマンゴーの何かしらをずっと探してて。 

そう、
マックにマンゴースムージーがあったからそれ飲んだ。

ついこないだの話。


美味しいけど少し甘かった。
多分、あれは果物のマンゴーじゃなくて、きっとマンゴーピューレとかだね。
甘かった。

美味しかったけどね。


暑いなぁ。
でも半袖になると蚊に刺されるからなぁ…


わぁ、
本当に満天だね。
でも北欧とかの満天を知らないから、
満天じゃないのかもしれない。
雲ひとつないけど…
何か広島の方は少し雲あるけど。



はぁ、
飲み物ないときついな。
お財布、持ってくれば良かったな。


指洗いたい…
私は少し潔癖症。


あ、
海のお水でチロチロと洗えばよくね?
そうしよう。

でもこれどこ何処から降りたらいいんだろう。
私、砂浜の砂が入らないみたいな靴履いてないけど…



着物着たいなぁ…


夏の着物は見るだけなら大好きなんだけど、
暑いからなぁ…
冷房効いたところで着る夏の絽の着物は最高なんだけど…。



あ!
海満ちてる!
とても激しいな。

これ、
指洗ったら足濡れるな?


困ったなぁ…




諦めよう。
靴が濡れるのは嫌だ。



お家帰ろうかなぁ…
公園…なぁ…
虫がたくさん居るんだよね〜


井戸とか無いしなぁ…
この辺り、
水道が無いなぁ…



ん?
サイレン?

遠くの方で…何だろう?



あれ?
この路は…
あ、
お家の方に帰ってきちゃった。


通り過ぎて向こうに…

あ、
でもうちの向こうはお墓だから、
お墓行くと蚊がいる。 

う〜ん、
悩ましきこと。


もうちょっと歩きたいのにな。
でも汗かいた。
シャワー浴びないとなぁ。

めんどくさい。


どうしようかなぁ…
困ったなぁ…
でも公園の方に行くと街灯が虫だらけ。
灯りなんて点けなければいいのになぁ。

歩きながらぶつぶつ呟いてたら、何かだんだん落ち着いてきたかもしれない。

やはり行動することは偉大だな。
今後そうしよう。



〜彼女は自宅アパートの前に着いた〜



どうしようかな…
私キャラメルラテ飲みたいな。

お家で作る時は氷ガンガンするからお兄ちゃん起きちゃう。


シリコンのアイスメーカーってないのかなぁ?

どっから見てもカメムシが群がってる。

カンカン音が…
蛍光灯にぶつかってカンカン鳴ってる…
何であそこ電気つけるんだろう。


うーん…

どうしようかな?



困ったなぁ。


お金持って…
お金とムヒ持って、
鞄を抱えて…
いや、
現実的じゃないな…




まいったなぁ、
どうしようかなぁ。


指洗いたい。
のど乾いた。


決まらない…


キャラメルラテ…
指洗う…
暑い…

よし、行くか!
女は度胸!



〜彼女は虫の群れを潜り抜け部屋へ〜



ミッションコンプリート!
私はできる子!




そうだよ、
君はできる子!

ねぇ、
君は気付いてる?
君がどれだけ美しいか。
君の存在がどれだけの人を支えて居るのか。

君はね、
心が本当に美しいんだ。

探しても見つからないくらいにピュアで素直で穢れを知らない、
今時そうは居ない稀有な人。

「時よ止まれ、君は美しい」

君と話してると、いつもそんなセリフが頭に浮かんでくるよ。


君が何者かなんて関係ない。

君という人間そのものが素晴らしいし、美しいんだから。



僕はね、
君が君で在るために残りの人生を費やしてもいいと思うくらいだよ。

解る?

僕は君に救われた。
止まりそうだった鼓動を呼吸を、
君が動かしてくれたんだ。

僕は今の命を君にもらった。

だから、
この命は君が居なきゃ存在する必要が無くなる。

大丈夫。
君のことは必ず守る。


だから、
この手に触れてみて。
ほら、
君の手とひとつなるよ。




ねぇ、
君の隣に座っていい?


ずっと君をひとりぼっちにさせないから、
君の隣に居させて下さい。








これは愛の告白ではない。
君を恋人にしたいとか婚約だとか…
そういう類の俗的な欲望とは別。
まして色慾などという低俗な欲望とは全く無縁。

僕はただ無欲に君の近くに居たいだけ。
君を守りたいだけ。
君が居ないと生きる価値を見出だせないだけ。

それだけ。

ただ、
それだけ。





つまり、
君は其程までに美しい人間であると云うこと。




だから、
世界は美しい。







ハロー、
今君に素晴らしい世界見えますか…。










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