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エヴァンゲリオンが流行った理由とは|時代性・革新性・キャラ設定などから徹底分析

「『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の初日興行収入8億らしいぞ」と聞いたとき、正直「え?」とびっくりした。感動すら覚えた。コロナ下の月曜だったのに……まだこんなに愛されているのがすごいと心底尊敬したわけです。

前作から9年ぶりということもあるが、まだまだ日本でのエヴァ人気は高い。もはやオタクとかサブカルとか、そんな話ではなく、立派なメインストリームだ。アニメ放送が1995年、社会現象化したのが1997年。新劇場版までの間が10年間あったにしても、もう25年くらいずっと愛されていることになる。

そして庵野は「シン」を語りはじめ、過去作品のリブランディングもがっつりはじめている。10年後、シン・シンなんかをスタートしてモヨコが受け継いだりして……。エヴァンゲリオンの「リビルド(再構築)」というフォーマットは、その気になれば半永久的に作品をつくれるからすごい。

さて、今回はそんなエヴァンゲリオンは、いったいテレビ放送当時、なぜ流行ったのか。について考えていきたい。以前もちょろっと書いたので、以下の記事も一緒に読んでいただけると嬉しいです。嬉しすぎてマラカス振りながら使徒殲滅します。

放映当初は人気がなかったエヴァンゲリオン

エヴァンゲリオンがはじめてテレビで放映されたのは、1995年10月4日〜1996年3月27日の期間だ。テレ東の木曜夕方18:30枠で放映された。この「テレ東夕方18:30枠」はOVA(オリジナルビデオアニメーション)人気を受けて、スタートした枠なんです。

このころは「メインスポンサーの商品の宣伝をする」というのがアニメの立ち位置だった。しかし1990年代に入って、だんだんとテレビアニメ人気が下がっていたんですね。

ただ、いっぽうでビデオの売り上げは伸びてたんですね。そこで「アニメ放送したうえで、VHSを出して販売収益を得る」というビジネスモデルに転換するわけだ。そのアニメ枠こそ「テレ東18時半」だったということだ。エヴァンゲリオンがその走りだったわけでもないが、もちろんその後ビデオ販売をしている。

そんなエヴァンゲリオンだが、実は放映当初はそこまで視聴率が伸びなかった。視聴率は5〜7%台をウロウロしていた。10話で9%台まで上がり(アスカ水着回だったからかもしれん)、ジブリが制作した11話も9%と高いが、12話以降はまた下降。10%を越えたのは最終回(26話)のみとなった。

革新的な演出とわけわかんなすぎる最終回

では、なぜ最終回でハネたのか。それは簡単で「あまりに訳わかんなかったから」です。有名すぎる最終回なので、今さら言及しないが、かの有名な「怒涛のおめでとうラッシュ」ですね。

そもそもエヴァは当時、革新的なアニメだった。黒白の明朝体タイトル、哲学的で掴みどころのないストーリー、内省的な主人公、敵は悪魔ではなく使徒(天使)……。

決して男の子向けのロボットアニメではない。むしろ少女マンガのように、その主題は人の精神世界を描くことにあったわけだ。

そんなエヴァはめちゃめちゃ難しかったのである。なんてったってエヴァ放映の1クール前のアニメは「ミュータント・タートルズ」ですよ。亀が忍者になって敵を倒すという、しこたまわかりやすい話ですよ。亀のアクション見てたら、急にエヴァンゲリオンの哲学が始まったわけです。テレ東のカオスっぷりがよくわかるだろう。

そんなエヴァンゲリオンは先述した通り、最終回で哲学を極めた。その結果「なんじゃこれ」とオタクたちが話題に着火するんですね。その火種がサブカル層に波及し、先ほどまでの革新的な仕掛けを「新しいやんこれ」と、持ち上げた。

深夜アニメ文化のパイオニアに

その結果、1997年に劇場版(旧劇場版)「シト新生」の公開が決まる。この封切りに合わせて、深夜枠で再放送されるわけだ。

それまでの深夜アニメの視聴率は2%ほど。そもそも放送されているアニメがマニアックな作品であったことも含め、視聴率を取れなかった。いま考えるとびっくりするくらいの少なさです。エヴァ以前の深夜アニメは、1年に1、2本くらいしか放映されてなかった。

エヴァ以前の深夜アニメ

1986年
「ハートカクテル」 - 金24:50
1987年
「SLIPPY DANDY」 - 木24:30
「レモンエンジェル」 - 火 - 木25:00
1989年
「小松左京アニメ劇場」 - 水24:50
1990年
「銀河英雄伝説」 - 水25:20
1992年
「スーパーヅガン」 - 木25:10
「ヨーヨーの猫つまみ」 - 月 - 金25:05
1995年
「行け!稲中卓球部」 - 水25:10
1996年
「エルフを狩るモノたち」 - 木25:45

これがエヴァンゲリオンの再放送は5〜6%の高視聴率を記録するわけですね。本格的に社会現象化するのはこの頃だったわけだ。

深夜アニメで夕方アニメレベルの視聴率が取れたのを見て、各局は「おいおい深夜アニメいけるやん」と確信。1997年には12本の深夜アニメが放送、1998年には34本まで増える。

いまでは春夏秋冬の深夜アニメを熱心に調べるオタクたちは爆増したのはご存知の通り。そのパイオニアとなったのがエヴァンゲリオンだったわけだ。

エヴァンゲリオンが流行った理由を深掘り 〜残酷な天使のテーゼ〜

さて、エヴァンゲリオンの演出・ストーリーが当時新しかったのは先述した通りです。それが日本のアニヲタたちの厨二心に火をつけ、サブカルの「オレ周りとは違ぇから心」を燃やし、日本全国にフリークを増やしたのは間違いない。

しかしエヴァンゲリオンが爆発的に流行った理由は、この一点だけではない。例えば主題歌「残酷な天使のテーゼ」は、アニメよりもパイが広い「音楽業界」から潜在層にアプローチした。「オタク以外の人たちがエヴァに目覚めたのは、この曲があったからだ」ともいわれる。

及川眠子に作詞を依頼したプロデューサーは「哲学的な歌詞を書いてくれ」と言ったそうだ。そこで及川は近くにあった萩尾望都の「残酷な神が支配する」というマンガを見て、歌い出しとタイトルを発想した。この曲の厨二感にオタクたちはやられ、キャッチーなメロは一般人を巻き込んだ。

エヴァンゲリオンが流行った理由を深掘り 〜綾波レイというニューヒロイン像〜

さらにいうと"大きなお友だち"「綾波レイ」というニューヒロインにメロメロになった。アニメヒロイン史を振り返ったときに、綾波レイは斬新すぎたんですね。

1970年代のアニメ全盛期からエヴァ放映までのヒロイン像は、大きく分けて以下の4種類だったんです。

綾波レイ登場前のヒロイン像

・王道、ノーマル系
・お嬢様系
・男勝り系
・セクシー系

なんとなくキャラが頭に浮かぶのではないか。王道系はタッチの浅倉みなみちゃん、お嬢様はルパン三世・カリオストロの城のクラリス、男勝り系は風の谷のナウシカのナウシカ、セクシー系はキューティーハニーの如月ハニーなど。

個人的にはすでにこれに加えて「ファムファタール系」の峰不二子、ドキンちゃんなども入ると思うが、まぁ彼女らは男勝り系に含まれているんでしょうな。

その点、綾波レイの「人形のようなクールさ」はどこにも属さなかったわけだ。これを当時のアニメ雑誌は第五のヒロイン像として「無口系」という言葉で例えた。

また2000年代に入って「クーデレ(クール&デレ)と呼ばれ、フォロワーがめっちゃ出てくる。涼宮ハルヒの「長門有希」、まどマギの「暁美ほむら」などが代表格か。

この新しすぎるヒロインに、当時のオタクたちは惚れきったわけである。当時の人気投票ではぶっちぎりの1位。銀杏BOYZ「あの娘は綾波レイが好き」、BUMP OF CHICKEN「アルエ」など、アーティストも綾波レイへの愛を歌うほどだった。

当時の青年の鏡だった碇シンジ

また「ヒーロー像」という意味で、1995〜7年という時代が味方したのも間違いない。

エヴァンゲリオンの主人公・碇シンジは承知の通り、非常に冴えない奴で、マイナス思考で、めちゃめちゃ内省的。何かと自分を自分で追い詰めてパニックになっちゃう男の子である。14歳なのでね。思春期ってそんなもんだ。この超等身大なヒーロー像は、以前の記事でも書いたが、銀河鉄道999の星野鉄郎由来とされている。「どこにでもいる文化系男子」だ。

当時のメインファン層だった20〜30代のオタクたちが思春期を過ごした1980年代は「右向け右」から「個性を大事にせよ」という時代だったんです。追いつけ思考の結果、いじめ問題がめちゃ増えたんですね。政府も「個性教育が大事」と発表している。

ただこの「個性」に囚われすぎて、逆に病んじゃう世代でもあったのは確かだ。「で、自分らしさって何?」となったのである。親や先生に聞いても答えられない。なぜなら彼らは「右向け右」の世界で生きてきたからだ。

まさにシンジくんは「自分の役割」を探しているキャラクターだ。いやシンジくんだけではない。アスカもレイも加持もミサトも、みんな「自分は何をすべきか」を模索している。そしてシンジくんに関しては父・ゲンドウに悩みを打ち明けられない苦悩もある。

まさに当時の視聴者の心を代弁したヒーローだったともいえるだろう。

「新劇場版」から「シン」へ 上手すぎるリブランディング

さて、今回はエヴァンゲリオンのヒットの理由をいろんな側面から分析してみました。庵野さんはすごいですね。ここまでの作品を確立したのが、すでに天才だと思う。

ただ、本当に才能を感じるのは「リブランディングスキル」だと思うんです。

エヴァンゲリオンはアニメ版のあと1997年に劇場版として「シト転生」「Air/まごころを、君に」が公開されていったん終わる。

その10年後にまったく新しいシナリオで「リビルド(再構築)」するわけだ。2007年に「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」、2009年に「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」、2012年に「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」、そして2021年に「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇」が公開された。

「アニメ版」を観た後に「序」を体感して思ったのは「なんと新しいアニメなんだ」ということだった。映像も3DCGを使っていたし、演出もちょっと違う。でも基本ストーリーはアニメ版をさらっている。新劇場版から見た人を巻き込めるのはもちろん、元々のエヴァファンが興奮するギミックもあったんですね。

その結果「序」は公開時85館という小規模だったにも関わらず、週間興行収入は1位を獲得。10年経ってからエヴァンゲリオンは再ブームを起こしたわけだ。

庵野氏はその後「シン・ゴジラ」でゴジラのリブランディングも成功させることになる。アメリカに持っていかれそうになったゴジラが、日本に帰ってきた瞬間だった。

彼は時代をよく観ているのだろう。変える部分は思い切って新しくする。でも初期のファンは決して離さない。このバランスがとてつもなく上手い。

エヴァンゲリオンはまさにテレビアニメ、旧劇場版、新劇場版と進化し続ける作品だろう。常に新しい設定が追加されるが、もともとの哲学的でどこか掴みどころのないテーマは決してぶれていない。

そんなエヴァンゲリオンの最新作「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇。私も昨日観たが、いやー、むちゃくちゃおもしろかった。この記事を読んでいただくと、さらにあらゆる側面からエヴァンゲリオンを楽しめるのではなかろうか、と思います。

ですので、まだ観ていない人はもちろん「もう観ちゃったよ」という方も、ぜひマスク着用、手指消毒のうえで映画館に足を運んでみてくださいね。

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