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フラゴナールの『ぶらんこ』とは|ロココ美術の成り立ちからディズニーとの関わりまで徹底解説

突然だが、私はアダルトメディア研究家・安田理央さんの本が大好きです。23歳くらいのときにインセクター羽蛾似の上司におすすめしたら、なんかもう「私いま苦虫を噛み潰しながら虫唾を走らせております」みたいな顔をされた記憶がある。これは私の若気の至りであり、当時の上司には酷いことをした。

なぜ安田さんの本が好きかというと、読んでいて気持ちいいんですよね。「あぁこの人、マジでAV好きなんだなぁ……。すげぇ正直だなぁ」と思う。普通はなかなか社会的に言いにくいテーマだけど、安田さんは軽々とエロを語ってみせるわけで、その開放感が爽快なんです。

著書『痴女の誕生」とか天使もえの喘ぎ声の文字起こしからスタートしますからね。安田さんは天才だし、名前が一緒ってだけで安田さんをYouTubeチャンネルに呼ぶ内田理央も相当やばい。

西洋美術史には、そんな「欲望に正直に生きる!」みたいな時代があるんです。それがフランスで18世紀から始まった「ロココ美術」。インテリアショップとかでロココ調、とかいったりしますよね。ゴッテゴテでキッラキラで、もうなんか「池田理代子の居間(勝手なイメージ)」みたいな派手なやつです。

今回はそんなロココ美術のおもしろさと、代表作の「ブランコ」という絵画について、わいわい見ていきましょうや。

ロココという「開放感MAX」の時代はなぜ到来した?

ロココの家具

ロココ美術をざっくりいうと「ルイ15世の時代に、50年くらい、主に貴族の間で大ブームになった美術様式」です。

とにかく派手で豪華絢爛であることが特徴。椅子とか机とか、もうデザイン派手すぎて余裕で使いにくい。「膝に出っ張りが食い込むんやけど……」みたいなことが頻繁に起きる。

池田理代子の「ベルばら」は、まさにこのあたりの時代なので、想像しやすいかもしれません。まさに日本人が想像する「フランス貴族」がロココです。

池田理代子『ベルサイユのばら』

絵画の世界にもロココの風は来ていました。特徴はモチーフにあって「自由奔放な男女の絡み」が多いんですね。

今でいうと「和民で催される私大テニスサークルの新歓コンパ」みたいな絵がたくさん描かれた時代です。これを「雅宴画(フェート・ギャラント)」っていいます。

アントワーヌ・ヴァトー「シテール島の巡行」

雅宴画で有名なんがヴァトーの「シテール島の巡行」です。はじめて「雅宴画」といわれた絵です。

まず、シテール島ってのが愛の女神・ヴィーナスの地元なんですね。そこでカップルがいちゃつきまってて、向かって左上くらいにキューピットが飛んでるという、もうなんか盛り上がりまくりな作品です。これが新歓コンパだとサガミオリジナルの妖精とかが飛ぶんでしょう。

ともかくこうした男女の喜びを描くのがロココの特徴で「欲望」をあくまでポジティブに捉えることで「見て!愛し合うって最高に楽しいのよ!」みたいな世界観に仕上がっています。

なぜ自由奔放なロココが流行ったのか

とは言っても、長い西洋美術史でここまで奔放な絵画作品が流行ったのは珍しいことなんですね。ロココは50年くらいのブームでしたが、これはある種の突然変異みたいな感じ。ではなぜこれが流行ったのか。

その背景には太陽王・ルイ14世がいます。

身長が160cmしかなかったのでなんか特殊なかつらを被って背伸びしていたルイ14世

ルイ14世は1643年生まれで、4歳から国王になり、76歳で死ぬまで王を続けました。これはフランス史上最長という大記録です。

「朕は国家なり」とか「我は太陽王なり」という名言を残しているんで、世間的には「ナルシストすぎてやべえ暴君」というイメージが定着しているでしょう。ただ実際、すんごく"できる人"で、フランスが「芸術の都」になったのは彼の功績が超でかい。

芸術において彼は「フランスにはじめて美大を作った」んですね。そして「展覧会(サロン)」という発表の場を設けた。これもすんごい革命的です。

それまでの芸術家は飯を食うために弟子入りするしかなかったんですが、その門戸がガーッと広がったわけです。これを書くときに毎回言ってますが「吉本にNSCができた」という状況と同じですね。ちなみにバレエ、音楽、建築の学校を作ったのもルイ14世です。

これが「アカデミスム絵画」といわれるようになるのですが、それは以下の記事で紹介しています。

ただ、それでもやっぱ超絶王様気質で傲慢だったのは間違いない。いや、そりゃそうよ。4歳から王様で周りみんな召使いで媚び売ってくるわけですよ。そりゃもう呪われまっせ。だからルイ14世は大人になっても、イエスマンばかり登用した人でした。

しかも鬼のようにずーっと戦争をし続けました。完全にバーサーカーです。フランス国内のあらゆるものは、ぜんぶ軍事費用に消えていくわけで、国全体がハンパなく困窮するわけです。

で、腹が減った国民はマジギレですよ。「なんやあの頭はゴーゴーカレーのスプーンかおい」「ハイヒール脱げやアホ」とキレるんですけど、ルイ14世はそんなこと無視して戦争しまくるんですね。

そんな生活が数十年続くわけですから、これは相当なことです。ルイ14世の最期は1715年、15世に「俺みたいになるなよ」と言いながら死んでいきました。

一方で地獄から解放された国民はもうお祭りで「やったー!やっと死んだぞー!」と。「フゥ! 祭りじゃ祭りじゃー!」と。超絶不謹慎ですが鳥籠から解き放たれた状態で大盛り上がりするんですね。

そこで「ロココ美術」が出てくるってわけだ。ルイ14世の治世から解放された世間の「自由って最高」「もう我慢しなくていいんや我ら」的なムードを反映したものなんです。

そしてロココ美術の主役はあくまで貴族。この時代の貴族ってのはラッキーとしか言いようがない集団で「遺産のおかげで生まれた瞬間に生涯金持ちコース確定」なのだ。、

それまでルイ14世のもとで我慢してきた貴族にとっては「よっしゃ!あとは死ぬまで伸び伸びと遊ぶだけやで! フゥ!」っていうね。

貴族がやたら豪華絢爛なインテリア作ったり、画家に欲望大爆発の発注かけるのはそのためなんですね。

ロココ美術の大傑作! フラゴナールのぶらんこ

そんなロココ美術の大傑作といえるのが、ジャン・オノレ・フラゴナールの『ぶらんこ』という作品。美術好きなら皆さん知ってる大傑作である。かわいいよなこれ。

ジャン・オノレ・フラゴナール「ぶらんこ」

もう私はこれが大好きでございまして、創作秘話を含めて「これぞロココ!」という感じ。では、この作品がどうやって描かれたのか、からがっつりバラしていきましょう。

この絵を発注したのはサン=ジュリアン男爵という官僚でした。発注内容がやばくて「愛人をブランコに乗せてほしくて……あっ、ぶらんこを揺らすのは司祭でお願いしたくて……で、私が下から愛人の足を覗いている感じで…‥デュフ」と、マジで完成品そのまんまで依頼したそうです。

勝手に恥ずかしがりながら2ショットチェキ撮るオタク風に書いちゃいましたが、実際はたぶん胸を張って「私が嬉々としてセクハラしてる絵をよろしく!」と爽やかに依頼したんでしょう。なんせ官僚なんでね。

最初に依頼されたのはガブリエル・フランソワ・ドワイアンという画家なんですけど「いや、普通に下品だわ。無理」と断ります。と書きましたが、ぶっちゃけ断った理由は判明していません。

ドワイアン「うん、無理」

ただ、この画家、のちにアカデミー(美大)の先生になってます。アカデミーは「古き良き絵を描け」ってのが信条で、ロココを徹底的に否定していたわけですから、まぁ相手が悪かったんでしょう。

で、白羽の矢がたったのが、ジャン・オノレ・フラゴナールだったわけです。フラゴナールは、こんなに赤裸々な依頼だったのにも関わらず「ええで」と快諾します。

フラゴナール「ええで」

その結果、描かれたのが「ぶらんこ」なんですね。まさに発注通り。ブランコに愛人が乗っており、男爵がもう職人並みの完璧な位置で脚を覗いています。

ミュールがスポーンと飛んでってますが、男爵の目線はあくまで脚。で、ゆでダコくらい頬が赤い。いやどんだけ興奮してんのこいつっていう。

で、依頼では「ぶらんこを揺らす役を司祭にしてくれ」とあったはずですが、ここでフラゴナールの謎すぎるサービス精神が爆発。なんと愛人の夫に似せて描くことで背徳感を演出するんです(諸説あり)。

いや、ゲスい。ゲスすぎて最高。もうこのエピソードで「絶対ニヤニヤしながら描いてるでしょ」ってなりますよね。

で、向かって左にはロココお馴染みのキューピッドが人差し指を唇に当てています。「シーっ」ですね。「実の旦那にぶらんこ揺らせといて何がシーっだこの野郎」と突っ込みたくなるやつですが、そこはアレゴリーとして描いてます。

で、そんなフラゴナールの遊び心たっぷりなこの絵に男爵は大興奮でした。ちなみに古き良きルネサンスを理想形とするアカデミー(美大)は「おいおいおいエロ本やないか。なめとんなこれ」とキレ散らかします。

ただ、おもしろいのは「貴族や庶民には大好評」だったんですね。版画になって売られるくらいウケたってのが、ロココ時代の自由奔放さを表していると思います。

「ぶらんこ」はディズニーも大好き!

この「ぶらんこ」という絵はディズニー作品にもよーく出てきます。

例えば『塔の上のラプンツェル』。塔に幽閉されたあまり髪が伸びまくった女の子が、塔を抜け出して、なんやかんやあっていい感じのイケメンとくっつく話です。これが手塚治虫であれば『奇子』なんですが、さすがディズニー、ハッピーエンドである。

ラプンツェルのビジュアルイメージではぶらんこが採用されているんですね。

『塔の上のラプンツェル』ビジュアルイメージ

肝心の男爵ポジがいないんですけどね。これはロココでいうルイ14世が、ラプンツェルでいう「塔」だった。そこから解放されて「わしゃ自由に生きるぞい」という心境が似ているゆえに比喩として使われてるんでしょう。

もしくは「相手といちゃつきまくるぜ」というラプンツェルの奔放さを暗喩しているのかもですね。男の名前"フリン"ライダーですしね(ゲス顔)。

また『アナと雪の女王』の「生まれ〜て〜はぁじめ〜て〜」の曲でもぶらんこが登場します。下のMVの2分2秒くらいのとこです。

ここでも男爵ポジはいないですが、アナが愛人と自分を重ねるわけです。この後にアナは姉の戴冠式に出かけてハンスと恋に落ちる。もうこの時点で「運命の人にも会えるかも」なんて言ってるのが、ほんとにかわいい。戴冠式そっちのけすぎて草なんですよね。

「ぶらんこ」の男爵くらいポジティブな自己肯定で生きるべし

歴史上最高のぶらんこ

さて今回はロココ美術の傑作「ぶらんこ」について紹介しました。ロココはいいですね〜。この、変にかしこまってない感じが大好きです。「たった50年の運動」とよく書かれますか、私は逆に「こんなアホみたいなお祭り状態がよく50年も続いたな」と思いますよ。

結局、貴族が遊びすぎて庶民の金がなくなり、鬱憤がたまってフランス革命が起きます。パンがなければケーキ食っとけ、のアレですね。それで人生楽勝モードだったはずの貴族が没落してロココは終焉を迎えるわけです。

しかし逆に私はこのころの貴族の「浮かれすぎて恥も外聞もない感じ」を見習いたいな、と。「スカートのなか覗く絵を描いてくれ」とか、常人なら絶対言えないでしょ。社会的死でしょコレ。

それを一回断られても諦めきれず、別の画家に依頼するわけですよ。だって欲しいんだもん。アホならではの鋼鉄メンタルなわけだ。私は男爵のポジティブな自己愛がもう大好きです。ロココ時代の貴族はみんなこういった「包み隠さない精神」ですからね。だから社会的にも死なない。だって周りみんなアホだから。最高。

だから私はロココ美術を見るたびに「恥ずかしいとか嫌われるとか無視して、やりたいことを開けっぴろげに宣言しこう」なんて思います。それこそがストレスレスな生活への第一歩ですよね。するとおもろいことに周りの人がみんなアホになっていきますからね。そしたらもう勝ちです。

ただやりすぎ注意なのも確かで、没落しちゃうってことは覚えておいてください。フラゴナールもロココ人気が終わるとともに、住み込みでルーヴル美術館の管理を任され、最終的にはルーヴルからも追い出されるという、けっこう悲惨な末路をたどりました。

だからまぁ……なんだ、あの……こういい感じにね。いい感じに節度を守りつつね……。こう……たま〜にアホな自分を大事にしてみてください。

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