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原始美術ってなに? オーリニャック、ラスコー、アルタミラなどの洞窟絵画と造形の特徴

西洋美術史なんてねぇ……そんなかしこまらなくてもいいわけれすよ。ね? こうさぁ、ぼくぁもっとさぁ、ほんねでさぁ……西洋美術史のことしゃべれたらなぁって……。ねぇ? もっとこう……フランクに! へへ。フランクにねぇ! へへへ……。そう思うでしょぅ? 

と、まぁいきなり酔っ払ってみましたが、私は真剣に「西洋美術って難しく書かれすぎじゃねぇか」と思っとりますよ。なんかもう「大谷翔平ばりにワインドアップで振りかぶって書きました!」みたいなね。重い。もうどの書籍も官僚がしゃべっているような文章で、イラストたっぷりのかわいい本でも、ちょっと小難しく見えちゃいますよね。ちいかわの横で、岸田首相がしゃべってんですよね。

この連載ではもっとおしゃべりするような感覚で、でもしっかり内容がある感じでやっていきます。「大学の講義」というよりは、屋台で聞く、みたいなテンションでご覧いただけたら幸もす。

原始美術とは

ギャートルズ

早速、初回なんですけど「原始美術」について、お伝えします。原始というと「原始人」ですよね。「ギャートルズ」ですよね。そうです。あの、布1枚で槍持って動物を追いかけまわしていた時代だ。

原始美術の定義としては「先史時代に作られた美術作品」です。たまーに歴史の教科書で「先史」って見るけど、実はいまいち意味が分かっていない人も多かろう。「先史」ってのは「文字が生まれる前の時代」。つまり広義でいうと「宇宙が誕生してから文字が生まれるまで」を指します。狭義だと「人類が誕生してから文字が生まれるまで」ってな感じどす。

つまり西洋美術史では、ビッグバンが起きて、なんか泡みたいなプランクトンが海を漂い、でかめの魚になって、ぬるっとした足が生え、陸に上がって、猿になって、ウホウホして、二足歩行を初めてウホウホして、人に近づいて、ウホウホしながら言葉でコミュニケーションをとるようになる。この期間にできた美術品を「原始美術」というんです。

人類がはじめて文字を使ったのは5000年前~3000年前のエジプトのヒエログリフ、メソポタミアの楔形文字、中国の甲骨文字。つまり西洋美術史的にはエジプト文明・メソポタミア文明だといわれるんです。けど、最近「4万円前の氷河期の洞窟から文字が見つかった」みたいなニュースもありました。

なので「先史」という言葉はマジで超絶不明瞭です。今後も考古学の研究が進むにつれて変わっていきます。

ということは西洋美術史でいう「原始美術」という言葉の枠も変わっていくのかなぁ、と。現状では「ビッグバンが起きてからメソポタミア文明ができるまで」となっています。だいたい3万年前~5000年前くらいです。マジで鬼長い。

原始美術は「旧石器」と「中石器」と「新石器」に分かれる

といっても原始美術のなかでも括りがあります。大きく分けると3つ。「旧石器」「中石器」「新石器」です。

今回は中でも「旧石器」にフォーカスして紹介したい。なぜなら、中石器と新石器はぶっちゃけあんまおもんないからです。

旧石器時代の美術 ~オーリニャック期(3万年~2万5000年前)~

じゃあ早速旧石器時代から紹介していきたいんですけど、これまた旧石器も3つに分かれているんですね。

旧石器時代の初期がオーリニャック期と呼ばれます。もうなんかバゲットがついてくるタイプの料理っぽいですが、違います。今の南フランスから北スペインあたりの文化です。このへんに「オーリニャック遺跡」ってのがあって、その辺で栄えたからオーリニャック期です。

あらためてなんですけど、この時代に活躍するアーティストは「クロマニョン人」です。2017年に福岡で開催された「ラスコー展」のときにはこんな感じで紹介されていた。

ハリウッド俳優の風格

さっきウホウホ書いたが、意外とモンキー感はない。だいぶイケメンにはされているが、骨格的にはかなり忠実なモデルなんだそうだ、こいつ。

これから出てくる作品はこういう感じの人が描いたものだと思ってくださいね。じゃあ早速なんですが、オーリニャック期の作品。たぶん有名な作品がこの「山羊」なんじゃないかしら。私的にはこれがパッと出てきます。メェ。のフランス・クニャック洞窟で発見されました。

「山羊」

「山羊」て。いや、まぁ山羊やし、もちろん作者が作品名をつけたわけじゃないんやけど、山羊て。ものすごくシンプルですが、確実に意志をもって描かれていますよね。偶然できたんじゃなく「よっしゃ、山羊描くぞ」というクロマニョン人の気持ちを感じる。

また同時期に今のスペイン・ラス・チメネアス洞窟では「鹿」が描かれています。

「鹿」

ものすごくシンプルですが、確実に「鹿」です。これらの作品は絵画史はもちろんマンガの歴史でもよく出てきます。漫画史としての出発点は「鳥獣戯画」とされることが、多いんですけど、いや確かにこのデフォルメ感、ちょっとゆるふわでユーモラスな感じ。まさしくマンガですよね。

この時代はこうした「洞窟絵画」が主流なんですが、実はそれだけでなく、既にこの時期には造形も作られている。洞窟絵画と違って持ち運びできるので「動産美術」といわれます。

例えばフランス・ブラッサンプイで出土したのが「女性頭部像」。目も鼻も髪もちゃんと掘られていて、輪郭も分かるし首も理解できる。写実レベルが高くて、マジでびっくり。すげぇな、クロマニョン人。

「女性頭部像」

ぶっちゃけ女性かどうかはわかりませんが「女性頭部像」です。個人的には「この頭、WWEのスコット・スタイナーかな?」と思ってました。

スコット・スタイナー

そのほかでいうと、この時代には「スティアトパイグス型」と呼ばれるタイプの石偶も出てきています。「スティアトパイグス型」ってのは乳房や臀部がやけに強調された女性像のことです。例えばこの「ヴィレンドルフのヴィーナス」とか有名。

ヴィレンドルフのヴィーナス

「どこがヴィーナスやねん。菜々緒みたいなん出せよおい」と突っ込みたくなる方もいるかもしれませんが、いやもうこれが「生命」のためには理想像なわけです。クロマニョン人にとってのヴィーナスはこの子なんですね。内股が、トイレ限界の人みたいでかわいいですよねこの子。

そんな彫刻も次々につくられているのがこの時代なんですが、なかでも今見つかっているなかで人類最古といわれるのがシュターデル洞窟(ドイツ)の「獅子頭の小立像」です。まさかのこれ。

「獅子頭の小立像」

なにこれ、マジでかわいい。なにこれ。あの、チャイハネとかに置いてある動物が座ってる置物あるじゃないですか。高円寺辺りに住んでる女性の家のダイニングカウンターに無の顔でたたずんでるあいつら。あいつらは「獅子頭の小立像」の子孫だと思ってます。

チャイハネで無の顔かましてるこいつら

ちょっと前までは雌ライオンの顔に男性の体と思われてたんで「ライオンマン」と呼ばれていたんですが、最近「女性の体なんじゃね?」っていう説が濃厚になってきてるんで「獅子頭の小立像」っていう、ジェンダーレスな呼ばれ方をするようになりました。

これおもしろいのは、こんだけ写実的なのにマジ何でつくられたのかがわかってないんですよ。有名な民俗学とか考古学の学者がうんうん唸りながら研究しているが「神とした崇拝した説」も「仲間の弔いにした説」もいまいち決め手に欠ける。てか「クマ」なんじゃないか。わからん。なんやこいつは……。って大人が悩んでるなか、この顔でたたずんでるわけです。ドイツの博物館で。

そしてこの顔である

ともかく約3万年前のクロマニョン人は既に、このレベルの彫像を作れる技術力を持っていた。そして何らかの意図によって、作品として残した。という謎が深すぎるミステリーがあるわけですよ。世界不思議発見できず、もうこんなもんボッシュートですよ。

旧石器時代の美術 ~ソリュトレ期・マドレーヌ期(2万5000年~1万年前)~

で、それから旧石器時代のなかでもソリュトレ期・マドレーヌ期に入ります。時間の感覚おかしくなりそうですが、この間にだいたい1万5000年くらい経っている。寿命が80年としても190回転生するレベル。竜宮城200往復分の時間が経っています。たいもひらめも過労死でっせ。

すると、もちろん洞窟絵画も進化するわけです。特にラスコー・アルタミラの洞窟絵画が有名です。

ラスコー洞窟絵画「野牛」
アルタミラ洞窟絵画「バイソン」

まず、写実のレベルが上がっている。ちょっと立体的になっていますよね。あと体毛がきちんと濃淡を使って描かれているのもポイント。いや、シンプルに写実レベルが高まっているわけです。

また「構図」という点でもおもしろい。ラスコーもアルタミラも「身体は基本横向きに描かれているが蹄は正面からの視点」なんですよね。実はむっちゃ変なんですよ。

これは「歪曲描法」と呼ばれる描き方です。獲物の特徴を最もよく把握するため、身体は横に、でも蹄は前から書いています。蹄は前から見たほうが「ひづめ感」が伝わりやすいもんね。

ちなみに最近になって「獲物の特徴を教えるってか、星座を描いたっぽいよ」という説がでてきました。時間を測るために動物を描いていた、という可能性もあるっぽいです。

ちなみに、この「同じモチーフでも、横面や正面などで視点を変える」ってのは、19世紀後半になってピカソが「キュビスム」に取り入れました。輪郭はななめからなのに、目は正面から。みたいなね。「ゲルニカ」に代表される、変態紳士・ピカソの代名詞です。この話は連載の後半でしましょう。

「なんで描いたのか」はいまだ明確になっていない、という面白さ

さて、第一回は「原始美術」についてご紹介しました。「先史」ってのは言葉が生まれていない。イコール「確固たる情報が少ない」わけです。これがおもろいっすよね。みんな少ない情報から必死に想像して「なんでこんなん描いたんや……」ってのを考えているわけです。

クロマニョン人って今みたいに「ウーバーイーツ頼んでさくっとメシ食える」とか、そんなわけない。毎日槍を片手に「ヤーッ!」つって荒野を走り回りながら、その日のメシを獲るわけです。いやほんと毎日が戦いで。ごはんがいちばん大事なこと。だから動物をいっぱい描いたのは「ごはんたべられますように」って思ってたんじゃないか。とか、原始美術はそういうことを想像する余地が多いのがおもろい。

友だちとかでしゃべったらマジで盛り上がる。ぜひ「原始人が美術を描いた理由」で山手線ゲームやってほしい。(パンパン)「飯食えるようにおまじない!」(パンパン)「暇だったから!」(パンパン)「えーっと……う~んと……あぁ~!わからーん!」「はーい!罰ゲーム!」みたいなね。どんな答えも否定できないからおもろいですよね。こーゆーのは。

ちなみに、以下の記事でも、ちょっとばかし原始美術について喋ってますので、こちらもどうぞ。

次回は文字が完成したメソポタミア文明・エジプト文明について。だんだんと人間の思想が反映された美術作品が出てきておもしろい時代ですので、ぜひぜひご覧いただけましたら、興奮のあまり鼻血出しながら泣いて喜びます。

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