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振り返るな、書け

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ランダムお題を制限時間内に書く、即興小説です
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2021年3月の記事一覧

僕の冒険初日はひどくあっけなく、笑ってしまうほど美しかった

お題:自己主張 制限時間:1時間

 愛犬・ジャックが虹の橋を渡って、まもなく二十年になる。
 十歳の僕とジャックの、みずみずしい冒険譚。
 いまでも、いくらでも、鮮やかに思い描ける。
 永遠に続くと思っていた――終わりがあるなんて思いもしなかった――あの麗しい日々の『最初の一日』を、振り返ってみようと思う。



 僕は生まれつき体が弱くて、雨が降れば熱を出すような子供だった。
 週に三日学校

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即興小説トレーニング未完集

即興小説トレーニング14日間で、時間切れしてしまったものをまとめました。
無理だったのは以下の3つのお題。
1『男同士の春雨』
2『彼の民話』
3『強い犬』
記事の最後に、全体的なトレーニングの感想を書いています。

3/7(日)『ぼとぼとの春雨』
制限時間:15分 お題「男同士の春雨」

 僕ははっきり言って料理が下手だし、同居人は一切やらないから、料理をする=自炊で節約程度の義務的な意味合いし

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生贄の館

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題「うへへ、手」

 気づいたら、僕の両手は真っ赤に染まっていた。
 足元に転がる変わり果てた恋人を見下ろし思わず笑い声が漏れてしまった自分は、やはりおかしいのだろう。
 両脇の下から手を差し込んで、てこの原理でひょいと起き上がらせる。
 首がごてんと力なく斜めになって、ああ、死んだのだなと思った。
 僕は彼女をビニールシートで包んで、後部座席に横たえた。

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地獄の不況と少年少女開発

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題「東京の教室」

 六本木エリアにある超高層ホテルの一室で、件の脳力開発教室は行われていた。
 喪服を着た少年少女たちが十人ほど集められ、豪華なシャンデリアにぶら下がったり、じゅうたんの模様に沿ってマカロンを転がす競馬など、なんの効果があるのかさっぱり分からない『プログラム』に励んでいる。
 僕は警視庁の秘密の秘密裏にある怪異事件専門部署に所属する新米刑

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ぷつりと皮膚を破る想像が

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題「やわらかい14歳」

 僕は、中学二年生の夏に、自分を置いてきてしまったと思っている。
 あの夏、自分が心の底から納得できる選択をしていれば、いまこんな風にうだうだ悩んでいなかったんじゃないかな……という後悔の湖の底へ、ぶくぶくと沈みつつあるのである。

 中学三年間、僕は文芸部だった。
 小説の真似ごとのようなものを書いたり、演劇部に脚本のタネのタネ

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気配に包まれた

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題「めっちゃ君」

 付き合って二ヶ月。はじめて部屋に呼ばれた。
 お茶とお菓子をとってくると言って、彼女は僕を部屋に残し、階下へ降りていく。
 トントンと遠ざかる階段の足音を聞きながら、僕はそっと、ベッドに倒れ込んだ。
 めっちゃ、君の匂いがする。
 別に、そういうやましい意味でそう思ったわけじゃない。
 全部が君という存在に抱擁されているような、とてつ

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トイレに流すだけの簡単な家事

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題「名前も知らない家事」

 僕は代々受け継がれている神社の跡取り息子で、子供の頃から「お前はいつか宮司になるんだから」と言い聞かされて育ってきた。
 別にそれに対して文句とかはないし、不満を持ったこともない。
 子供の頃は、自分にとっての常識がよその家では違ったりすることがあって、少し生きづらかった。
 だけど、中三になったいまはそれすらもなく、受験戦争

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僕の大好きな神様

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題「春の神様」

 僕がたんぽぽを摘んで帰ると、神様は少しだけ僕をとがめた。
「いけませんよ、無駄な殺生は」
「ごめんなさい。花だからいいと思いました」
「口のきけない植物でも、神の子と同じ生き物です」
 僕がしょんぼりすると、神様は眉根を寄せてふふっと笑ったあと、僕の頬を片手でそっと包んだ。
「それで、どうしてあなたはそのたんぽぽを私のところへ持ってきた

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地獄を四季にしたくて〜妄想の強い恋〜

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題「帝王の春」

 みかどはうつ伏せに寝そべり、雲の隙間から地上を覗いて、はあっとため息をついた。
「可愛い……可愛い……」
 視線の先には、清潔な紺のブレザーに身を包み、教室の窓際で憂いを帯びた表情を浮かべる、美少女がいた。
「まだ分からぬのか? 調査団はどうした」
「帝王猊下、無理をおっしゃらないでください。地獄の者を人間の世界に送り込むのは大変なので

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廃屋と少年

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題「小さな部屋」

 放課後になるといつも僕は、雑木林の中にある廃屋へ向かう。
 いつから放置されているか分からない――少なくとも僕が生まれた頃からは誰も住んでいなさそうな――ボロボロの木造家屋。
 ランドセルをその辺に放り投げ、毎日の作業に励む。
 毎日少しずつ、入り口の戸の木を剥がして、穴を大きくしているのだ。
 急にドアを壊して入ったら怒られそうだけ

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天国に出向する父

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題:急な父

 きょう、父が天国へ行った。
 と言っても亡くなったわけではなく、急に部署替えで、天国に出向になったのだ。
 おそらく、地上での栄転を前に、数年天国を立て直してこい……ということなのだと思う。

 先日、急に天国行きになった父のために親族一同が集まって、宴のようなものが開かれたときには、僕は少しうんざりしてしまった。
 僕は、場所が地上だろう

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ウィンドラボの風盗難事件

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題:100の風

 誰も知らないと信じているけれど、この惑星に吹く風には分類がある。
 ウィンドラボと呼ばれる無菌状態の研究施設に、風の種が厳重に保管されている。
 今朝はいつもどおり出勤して、ちょっとぶかぶかの白衣を羽織って、部屋に入った。
 透明なボトルが百本。
 春夏秋冬・風の強さや湿気のレベルごとに、きちんとラベリングされて並んでいる……はずだった

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手のひらサイズの彼女の瞳に月面を透かす

『即興小説トレーニング』というサイトで書きました。
制限時間:15分 お題「ちっちゃな恋人」
15分だと、小説の腕より、タイピングの速さを問われるような(?)

 僕には秘密がある。
 二年前、中学三年のときから、内緒で付き合っている恋人がいるのだ。
 名前は更紗(さらさ)。
 手のひらサイズの女の子で、透き通る白い肌に黒目がちな大きな瞳。桃色の唇。
 つやつやの黒髪が胸のあたりまですとんと落ちて

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