地獄の不況と少年少女開発

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題「東京の教室」

 六本木エリアにある超高層ホテルの一室で、件の脳力開発教室は行われていた。
 喪服を着た少年少女たちが十人ほど集められ、豪華なシャンデリアにぶら下がったり、じゅうたんの模様に沿ってマカロンを転がす競馬など、なんの効果があるのかさっぱり分からない『プログラム』に励んでいる。
 僕は警視庁の秘密の秘密裏にある怪異事件専門部署に所属する新米刑事で、「脳力開発に興味があり、脱サラして教室の運営に携わりたい」という名目で、研修生のていで潜入している。
 マークしているのは、塾長。
 これが怪異――要するにおばけ――ではないかという匿名のタレコミがあり、少し捜査してみたところ、不審な点がいくつかあった。
 僕の予想では、この塾長は、喪服の少年少女たちに地獄送りの手伝いをさせたいのではないかと思っている。
 最近は人間のマナー教室が活発すぎて、地獄に落ちるような失礼なひとが減ってしまい、地獄界から修羅界あたりまでが大不況なのだと聞いた。
 それで、怪異が活発になっているのである。
 ……にしても、僕は一体全体どうして、こんなことに付き合わねばならないのか。
「お兄さん間違えたー! それ、右足薬指の爪だよ!」
 分からんよ、ネイルチップ七並べなんて。
 きらりと小粒の石でデコレーションされたそれを、何気なく裏返すと。
「……!?」
 地獄のマークが刻印されていた。
 潜入して一週間。僕はようやく、有力な証拠を掴んだのだった。

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