地獄を四季にしたくて〜妄想の強い恋〜

即興小説トレーニング
制限時間:15分 お題「帝王の春」

 みかどはうつ伏せに寝そべり、雲の隙間から地上を覗いて、はあっとため息をついた。
「可愛い……可愛い……」
 視線の先には、清潔な紺のブレザーに身を包み、教室の窓際で憂いを帯びた表情を浮かべる、美少女がいた。
「まだ分からぬのか? 調査団はどうした」
「帝王猊下、無理をおっしゃらないでください。地獄の者を人間の世界に送り込むのは大変なのですよ。素性が割れたら地獄世界の維持するのに大変なのですから」
 地獄世界を統治する若き帝王・みかどが恋をしたのは、人間の女子高校生だった。
 膨れっ面でごろりと寝返りを打ったみかどは、そのままジタバタと足をばたつかせた。
「分かった、もう調査は良い。いますぐあのプリンセスをおぞましい悪事に誘って殺し、地獄世界へ連れてまいれ」
「無茶なこと言わないでください!」
 みかどは目をつむり、妄想にふける。
(ねえ、みかどくん……あなたに会いたくて、ウーバーイーツの配達員を襲ったの。食べ物を粗末にした挙句もみ合いになって死んで、あなたの元に来たわ)
「猊下、鼻の下が伸びてます」
「うるさい、地獄に春が来るかもしれぬのだぞ。浮かれて何が悪い」
 あの娘を妻に迎えれば、この地獄世界の三季がひとつ増える気がするのだ。
「悪いことを……悪いことをしておくれ……」
 みかどははあとため息をつき、雲に顔を擦り付けるのであった。

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