即興小説トレーニング未完集

即興小説トレーニング14日間で、時間切れしてしまったものをまとめました。
無理だったのは以下の3つのお題。
1『男同士の春雨』
2『彼の民話』
3『強い犬』
記事の最後に、全体的なトレーニングの感想を書いています。

3/7(日)『ぼとぼとの春雨』
制限時間:15分 お題「男同士の春雨」

 僕ははっきり言って料理が下手だし、同居人は一切やらないから、料理をする=自炊で節約程度の義務的な意味合いしかない。
 頑張って作った春雨が汁を吸ってぼとぼとになったって、別に。
 時刻は夜の十一時。
 彼が『きょうは定時上がり』と言ってなでてくれたのがうれしくて張り切って作ったというわけでもなく。
 褒められたかったとか、すごいじゃんと見直されたかったとか、そういうわけでも。
 そういうわけじゃないんだけど……と思いながら、こたつに伏せる。
 もう寝てしまおうかな。
 スマホを手に取り、むなしくLINEを開こうとしたら――
「うおっ」
 間抜けな着信音が鳴って、画面にでっかく、同居人の名前が表示される。
「……もしもし」
『ごめん、連絡しなくて。先輩に捕まって飲んでた』
「いや平気」
 トイレに行くすきもなかったのかな、と、ちらりとは思ったけどね。
『飯あるんだよね? なんか作ってくれるみたいなこと言ってたから」
「ない。食った」
 とっさに嘘をついてしまった。
 未練がましくフライパンの中に封印したままのぐじゃぐじゃのあれが食べられるとは思えなかったし、そういうみっともない恥ずかしいものは見られたくないと思ったのだ。
『そっかー。すごいごめんな』
 心底申し訳なさそうだから、泣きたくなる。
 クズみたいな奴で、僕の気持ちなんて大して考えてなくて、お腹が空いたから先に食べたんだろうくらいの鈍感さでいてくれたらよかったのにな。
「電車ある?」
『あー……

(※雨が降っていて電車がないので迎えに行って、春の雨で回収しようとしました。敗因はセリフを入れすぎたこと)
3/9(火)『八月七日になったら行ってみて』
制限時間:15分 お題「彼の民話」

 五年前、僕の村の集落から出て行ってしまったお兄さんの話をしようと思う。
 お兄さん――つむぎくんは当時高校二年生で、現在の僕と同い年だ。
 僕は小六でかなり年が離れていたけれど、つむぎくんんは面倒見が良かったので、村の子供を集めてよく遊んでくれた。
 つむぎくんは僕のことを「もちたろう」と呼んだ。
 白くてほっぺたがもちみたいだからというなんとも適当な名前だったけれど、引っ込み思案の僕に特別なあだ名をつけてくれるのなんてつむぎくんだけだったから、とてもうれしかった。
 もちたろう、という甘やかな響きが、いまでも耳の中に響くこともある。
 つむぎくんは、よくサッカーを教えてくれた。
 女の子にも平等で、「男の遊び」とか「女の子がやること」とか、そういうのは違うと教えてくれた。
 という一方で、つむぎくんはレディファーストの紳士でもあって、四時半の鐘が鳴ってみんなでひとまとまりに帰るとき、女の子から順番に送っていった。
 僕はそういうところに、すごく憧れていた。

 ようやく話が本題に入る。
 僕の家はみんなで遊んでいる広場から一番遠かったので、自然と、最後はつむぎくんのふたりになった。
 当時の僕はちょっと、怪談とか不思議な話が好きで、つむぎくんは色々な話をしてくれた。
 夕焼けのなか、目を細めて優しく微笑むつむぎくんが話す「こわいはなし」は、アニメなんかよりよっぽど魅力的だった。
 ――もちたろうの家の裏の石灯籠には、人攫いの妖怪ががつけた傷跡があるよ
 気を払ったこともなかった石灯籠を見に行くと確かに傷跡があって、元々傷があるのを知っていて言ったのか、はたまた、つむぎくんが言ったから目立って見えたのか……彼が出て行ってしまったいま、真相は分からないけれど。

 つむぎくんが出て行ったのは、突然だった。
 高校二年生のある夏の日、全員を送って行ったあと、つむぎくんは僕にだけこっそり、あした村を出ていくのだと言った。
 僕はショックのあまり何も言えなくて、さよならも、駄々をこねたり泣くことすらできなかった。
 唖然とする僕の頭を撫でて、つむぎくんは言った。
 ――もちたろうが僕と同い年になった年のきょう、八月七日に、鯉ヶ池の奥の洞窟へ行ってごらん。理由が分かるよ 僕はひとり、汗を拭いながら、ゴツゴツとした岩肌

(※大風呂敷を広げ過ぎた&世界観説明に割きすぎて配分をミスりました。自分でも続きが気になりすぎます。)
3/11(木)『殺されるならそれでもかまわないと思った』
制限時間:15分 お題「強い犬」

「うわ、痛いっ、やめっ! うわあああ!」
 僕はなぎ倒された。
 さっきまで床暖房の効いたフローリングでコロコロ転がって遊んでいたはずの愛犬シロが、突然大きくなって、ムキムキになってしまった。
 そして、仁王立ちで前足で僕を殴ったのだ。
 シロは蔑むような目で僕を見下ろし、鉄球のように硬くなった肉球で、ぐりぐりと僕の肋骨を砕こうとしてくる。
「……う、どうして……しろ……」
 何に怒っているのだろう。
 僕の思考は、シロが大きくなってしまった驚きよりも、どうしてそんなことをするのかというショックで埋め尽くされていた。
 シロが我が家に来て一年。
 僕たちは、仲が良かったと思う。
 散歩は欠かさなかったし、毎晩一緒の布団で寝ていたし、夏にはスイカを分け合って食べたりした。
 コロナが明けたらどこかへ旅行に行きたいな、なんて夢も膨らませていた。
 でも、そんな風に思っていたのは、僕だけだったのだろうか?
 ミシミシと、体が悲鳴を上げる。
 痛みと悲しみで、涙が出てくる。
 急に大きくなってしまっても、可愛くなくなろうと、僕にとってシロは、大切なシロなのに。
「シロ、痛いよ、やめてよ……」
 僕は力の入らない手を伸ばし、猛々しく盛り上がった足の付け根をさすろうとした。
 でも、シロは僕の手を払いのける。
 その拍子に、体ごと吹っ飛んだ。
 ドンと壁に叩きつけられ、一瞬呼吸を忘れる。
「……っ、ぅう」
 涙目でシロを見上げると――
「あ、あれは……」
 シロのお腹のあたりに、五センチほどの小さな手裏剣が刺さっていた。
 きっとあれが、何かの悪さをしているに違いない。
「シロ、いま助けるから……!」
 僕は床に手をついて無理やり体を起こし、シロの足元へ這って行った。
 シロは凶悪な目でこちらを威嚇して、グルルルルルとうなり声をあげている。
「大丈夫、

(※変なお題でしたがカオス設定なら力技でいけると思ったのですけど、普通に無理でした)

2週間、毎日15分やった結果は

平均執筆速度:時速3496文字
最高執筆速度:時速4444文字
平均文字数:874字/15分

執筆以前に、タイピング速度が問われる競技っぽさがあります。
得られるものは、瞬発的にアイデアを出す力と、思いつきだけで筆を進める度胸、振り返らずに書く潔さ、こじつけでぶん投げて終わらせる開き直り……って感じです。

この練習で、美しい文が書けるようになったり秀逸なストーリーを生み出せるようになったりはしないと思うのですが、単純に、何度も読み直してタイムロスする癖が矯正されて長編執筆が効率よくなる感じはしました。

遊び感覚でたまにやったら面白いかもね。
おわり。

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