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『僕が出会った風景、そして人々』①


記憶の引き出しを開けてみた。

お話の前に、そもそもなぜ僕がここ(note)に記事を載せ始めたのか、というところから始めたい。

二ヶ月ほど前、僕は久しぶりに書斎の掃除をしていて、ふと、本棚の上に置かれたボール紙の箱に目がとまった。
 それは、学生時代にせっせと書きためた小説(っぽい文章)や、(強いて言うなら)詩、そして創作ノートを兼ねていた分厚い日記帳、当時友人とやり取りした手紙などが入った箱だった。
 以前から、ごくたまに気が向くと中を開けて、当時のことを懐かしく思い出したりしていたのだが、今回はちょっと様子が違った。僕の心境がいつの間にか変化していたのかもしれない。
 箱の中身を全部取り出して確認し、作品ごとに原稿用紙の束を整理したり、種類別に分けたりして半日過ごした。

小説は、もう少しで完成しそうなモノもあれば、大まかな筋書きだけで終わっていたり、数枚書き始めたところで投げ出しているモノ、終わりの部分だけしか書いていないモノなど、いろいろあった。一編だけ、最後まで書き上げて原稿用紙に清書し、ある文芸賞に応募した作品もあったが、今読むと、「よくこんなの出したな」と半ば呆れるような内容だった。よく言えば“心の奥深くまで沈潜し、人間の苦悩を描いた作品”であり、悪く言えば“独りよがりで陳腐な物語”なのだ。
 さて、こんなふうに、原稿用紙やノートの切れ端、チラシの裏に書かれた作品を整理して眺めていたら、なんだかムラムラと創作意欲が湧いてきた。それらの作品にじっくり目を通しているうちに、当時の僕と今の僕の気持ちがリンクしたのだろう、きっと。

書きかけの作品の中で、「おいおい、結構いいじゃないの。このまま埋もれさせるのは勿体ないぞ。」と思うものがいくつかあった。

そうこうしているうちに、僕は次第に、これらの文章をなんとかして、世間の人々に読んでもらえる方法がないだろうかと考え始めた。もう、文学賞に応募してどうのこうのという、色気はほとんどなかった。


そして、たどり着いたのが「note」だった。

北海道から東京へ
北海道生まれの僕は大学受験に失敗し、東京に出て浪人生活を始めた。

ちょうどこの頃、梶井基次郎の『檸檬』を読んで感動していたので、僕は御茶ノ水の「丸善」で分厚い日記帳を購入した。『檸檬』の主人公がレモン爆弾を置いてきたのは京都の丸善だったが。

僕はその頃すでに、東京の風にあたって強い刺激を受けていたようで、いきなり最初のページに、「僕は神に味方するより悪魔に味方したいね。少なくとも今は。」という、思わず赤面してしまうようなセリフを書いていた。

(ああ恥ずかしい。noteに載せるの、やめたい・・・。)

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そろそろ本題に入ろう。

舎人の思い出
僕は学生時代を、東京都足立区の舎人(とねり)というところで過ごした。僕と同様、大学受験に失敗して上京した悪友たちと共同で、舎人にあった一軒家を借り、自由気ままな浪人生活を始めたのだ。

僕が舎人に住むようになって、まず驚いたのは、水道の水が臭いことと、でかいゴキブリを生まれて初めて目撃したことだ。

水道水の異臭は、その頃、東京都が多摩川水系に加えて利根川水系の水を利用し始めたためだった。当時の浄水能力からして仕方ないことだったが、それにしてもひどかった。台所の蛇口をひねった途端、見た目は綺麗な水なのにドブ臭く、しかもなんとなく生ぬるいのでびっくりした。
 ゴキブリとの遭遇は衝撃的だった。夕方、台所の窓を開け放っていたら、何か黒いものが「バサバサ」と音を立てて飛び込んできたのだ。
 僕はてっきり、クワガタかカブト虫が飛んできたのだと思い、捕まえようとして手で払った。するとそいつは偶然、台所の流し台に着地したかと思うと、今度はものすごい早さで「シャカシャカ」走り回った。こげ茶色でギドギドした体、トゲトゲの生えた足!僕は驚きと恐怖で思わず「ギャー!」と悲鳴を上げた。

その時、僕より1週間ほど早く下宿に住み始めていた友人のUが、台所にあったママレモンを、そいつの体にぶっかけた。なんということだ!そいつは流し台の隅っこで、あっさり昇天してしまった。

「ゴキブリにはママレモンが一番いいのさ。」Uは、そう言ってニヤリと笑った・・・。

あと、びっくりしたのは、夕方になると蝙蝠が飛び交うこと。これにも驚いた。ここは本当に東京なのだろうかと思った。
 当時は舎人ライナーも舎人公園もなく、古い宿場町の佇まいから新興住宅地へ移行しつつある、そんな状況だったと思う。

舎人公園③

舎人で過ごした5年間は、僕にとって青春そのものだった。そこで知り合った人たち、舎人での思い出の数々は、僕にとって大切な宝物として、記憶の引き出しの中にしまってある。

                              (続く)





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