見出し画像

três a zero

20歳の時にバイトしていた食品工場。
そこに南米各国。主にブラジルとアルゼンチンから来ている日系人の人達がいた。

当時の法律だと、日系人とその配偶者は日本での就労ビザが取得しやすかったので従業員の半分?もっと高い割合が日系人とその旦那さんか奥さんで占められていた。
当時のレートだと、日本での一か月分の給料がブラジルで働いた場合の年収を余裕で超えるので夫婦や家族で働いている人が多かった。

中にはブラジルで弁護士資格を持っているけどお金にならなくて、奥さんが日系人だから一緒に稼ぎに来たという「インテリ」に属する人もいた。

その工場は日本人のバイト・パートで10人入ってきたとして1週間後に2人残れば、

「今回は当たり」

と、社員さんに言われるまあまあキツい仕事。
そんな仕事を日系人の皆はかなり拘束時間が長いにも関わらず、愚痴も言わずに働いていた。

友達になった日系人全員、

「仕事帰りに強盗にあったり、殺される可能性がないだけ全然、楽」

と、言ってたので僕とは“ 楽 ”の基準が違った。


ある日、いつも通り出勤すると更衣室にいた日系の友達が着替えていたので挨拶すると、こっちを見て目も合ったのにシカトされて、更衣室を出て行った。

“ …俺、何かした? ”

そう思っていると、入れ替わりで別の日系の友達が入ってきたので挨拶すると、

「あ…うん…」

こっちは素っ気ない。

“ こっちも?俺、何した?昨日は普通だったのに… ”

そう思いながら着替えて工場に行くと、野太い叫び声が聞こえる。
それも1人じゃなくて複数の日系人が同じ言葉を合唱のように叫んでいる。

社員さんにどうしたのか訊いても、
「俺が聞きたいよ」
と、注意するのも諦めたような感じ。

何て言っているのか聞いてみると、

「três a zero!três a zero!」

を繰り返し言っている。

três a zero
カタカナ表記だと、トレィス ア ゼロ
ポルトガル語で“ 3-0 ”という意味。

ブラジルの公用語はポルトガル語で簡単な言葉を教えてもらっていたので、言葉の意味は分かったけど、何で皆が「3-0」と叫んでいるのか分からない。

仲の良いブラジル人に聞くと、キスされんじゃないかって距離で、
「três a zero!」
と、叫ばれたので引っ叩いたけど怒ることなく笑って、また、
「três a zero!três a zero!」
の繰り返し。

引っ叩いた人の奥さんが呆れたような顔で仕事してるので何で皆、騒いでるのか聞いたら、

「昨日の夜、コパ・リベルタドーレスでパルメイラスがボカを3-0でやっつけたの」

とのこと。

サッカー好きな知ってると思うけど、コパ・リベルタドーレス。
日本だと「リベルタドーレス杯」と表記される南米のサッカークラブナンバーワンを決める大会の準決勝か準々決勝でブラジルの名門パルメイラスとアルゼンチンの名門ボカ・ジュニアーズが対戦。

パルメイラスが3-0で快勝したことを喜び、ブラジル人の男性ほぼ全員が勝利の歌を歌い女性陣は呆れ、日本人は意味が分からずという状況。

更衣室で僕をシカトして、素っ気なかった2人はアルゼンチン国籍でボカサポーター。
負けたことが悔しくて、

「今、俺に関わるな」

ということだったらしい。
ブラジルの皆はアルゼンチン人を見つけると、僕にやったように顔を思いっきり近づけて、

「três a zero!」

を叫ぶ。
アルゼンチン人は、明らかにイラついた顔をしながら無言を貫く。
ケンカになるかもしれないからやめた方がと注意すると、

「ブラジル人とアルゼンチン人はサッカーでは友達にはなれない」

そう断言されて、また
「três a zero!」
を叫ばれた。

社員さんに理由分かった?と訊かれたので教えると、社員さんはため息をついて、

「見た目は日本人でも中身はブラジル人なんだなぁ。まあ、昼までに落ち着けばいいや」

そう言うと、

「はーい、歌ってていいから仕事してー」

ブラジル人男性陣にそう言って、持ち場につかせた。

日本人同士では、起こらないだろうと思う出来事。
一昨日の夜、寝る前にテレビのチャンネルを回したらクラブチーム世界一を決める

“ FIFAクラブワールドカップUAE2021 ”

が放送していて、南米代表チームのブラジルのパルメイラスとアフリカ代表のエジプトのアルアハリの試合が放送されていて思い出した。

ちなみに試合はパルメイラスが2-0で快勝。
日曜の深夜に行われる決勝戦でイングランドの名門チェルシーと対戦する。

あの日、
「três a zero!」
と、叫んでいた皆は観ているだろうか?
観てない訳ないか。

チームで言えばチェルシーが好きだけど、今回はパルメイラスを応援する。

ジュースが飲みたいです('ω')ノ