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大塚恭司さん「映画『東京アディオス』が撮れたのは瞑想のおかげ」

大人気ドラマ『女王の教室』『探偵学園Q』『何曜日に生まれたの』等の演出を手がけ、『Mr.マリック超魔術』の仕掛け人としても知られる、ドラマ・映画監督の大塚恭司さん。2015年に超越瞑想(TM)を学ばれた大塚さんに、初監督映画とTMの関係についてうかがいました。

自主映画からテレビの世界へ

──映画『東京アディオス』(2019年公開)を大変興味深く拝見しました。監督の内側の深いレベルにとどまっているさまざまな映画の記憶が立ち現れるように感じられ、心を動かされる瞬間がありました。中でも一番大きな存在に感じたのは『爆裂都市 BURST CITY』(大塚さんが大学時代に制作に参加した伝説の自主映画)だったんです。

大塚さん:それはうれしいです。

──大学を卒業されてから現在に至るまで長年テレビの世界でご活躍されていますが、「いつかまた映画を」というお気持ちはおありだったのですか。

大塚さん:むしろ映画のことは一切忘れて「戻るまい」と思っていました。中途半端な気持ちで仕事はやれない、それでは成功できないと思っていました。一方で、映画一本でやり続けている以前の仲間たちには負い目を感じていました。映画に戻ってきたのは予想外のことです。

──大変な決意だったのですね。TMについて知ったのはどのようなきっかけだったのですか。

大塚さん:ずいぶん前で、高校生の頃です。僕は男子校の進学校に通っていたんですけど、同級生に非常に変わったタイプの頭の良い奴がいて。勉強もできるんだけどそれだけじゃない、一味違う頭の良い奴で、僕はそいつの考えに注目していたんですけど、大学受験が近づいてくる中でそいつが「受験に最も有効なのは瞑想だ」って言い出したんですね。そいつは高校生の頃からTMをしていたんです。それで「なんかすごいな」って思ったんですけど、でもその時は「自分もやってみよう」とは思いませんでした。

病気をきっかけにはじめた瞑想

──実際にTMをやってみようと思ったのはどんな理由だったのですか。

大塚さん:ずっと多忙だったこともあると思うのですが、50歳の時に呼吸器の病気になったんです。その頃は連続ドラマの監督をしていました。ひとつの作品を撮るのに5ヶ月くらいかかり、とてもハードな仕事が続くんですけど、それが終わるたびに倒れて1~2ヶ月肺の具合が悪くなる、という状況が7年間続きました。また、その7年間は自分のやりたい企画は全く実現しなかった時期でもあり、仕事の面でも不調を感じていました。病院に行っても原因はわからない。いろいろ治療をしても成果が上がらず、「真剣に病気と向き合わなくては死んでしまうかもしれない」と思った時に、ふとTMのことを思い出したんです。

──高校時代の記憶がよみがえったのですね。

大塚さん:それで、デヴィッド・リンチ監督がTMについての本(『大きな魚をつかまえよう』四月社刊)を書いているのを知っていたので読んでみたんです。半分は映画、半分は瞑想のことが書かれていて、すごくおもしろい本でした。その後、僕の大好きなマーティン・スコセッシ監督もTMをしていると知りました。スコセッシ監督も小さい時から肺の病気で苦しんでいたそうで、そんなに体が強くないのに今でも活躍しているのを不思議に思っていたんです。そして2015年にTMをはじめました。

──実際にTMを学ばれていかがでしたか。

大塚さん:はじめて1ヶ月くらいで病気の原因に思いあたりました。それで、実践を続けて2~3ヶ月で病気が治ったんです。同じ頃に企画も動き出しました。何本か抱えていた中で、一番実現がむずかしいと思っていた『東京アディオス』です。なので自分の中ではTMをはじめたこととこの映画の実現は直接結びついています。

撮影中、主演の横須賀歌麻呂さんと

あきらめない「地下芸人」は美しい

──とても具体的にTMの効果を感じていらっしゃるのですね。『東京アディオス』のテーマですが、長年影響力の大きなテレビ番組を作り続けていらっしゃる大塚さんが、アンダーグラウンドな活動をおこなう「地下芸人」を選ばれたということが興味深いです。

地下芸人は美しい。スポットライトも、金も、名誉も、人気も求めない。だが、あきらめない。人を笑わせる、という自らの生きる使命を、決してあきらめない。

映画『東京アディオス』パンフレット「監督からのコメント」より

大塚さん:影響力が大きいというのは「見てる人数」のことなんですよね。「何人が見たか」という、その人数だけを極端に評価されるというのがテレビの世界なんです。人間って簡単に数字に支配されてしまう。物の値段とか、内閣支持率とかもそうだし。それはどういうことなんだろう、と思う気持ちがずっとありました。じゃあ、数に支配されずに作品を作ることはできるのか、できないのか、ということをずっと考えていたんです。地下芸人たちと自分は「表現をする」ということにおいては同じフィールドにいるわけですが、彼らは10人とか20人のお客さんをターゲットに堂々と表現をしているんですよ。そのことにものすごく魅力を感じたんですね。僕はお笑いライブの主催もやっているんですけど、絶対に数に支配されることのない世界を構築しようと思っていて、だとしたらどうしたら良いかということを考えているんですね。『東京アディオス』っていうのはそういう映画のつもりで作りました。

長いスパンで劇場での上映を続けたい

──映画制作の中で瞑想の効果を感じたことはおありでしたか。

大塚さん: 映画を作る中で「今、資金を出してくれそうな会社がある」とか、「今だったらこの役者さんに出てもらえる」といったワンチャンスをつかみ取る力が必要になりますが、そういうチャンスをつかむ直感力が、TMをしていなかったらまずなかっただろうな、と思います。そして一番大きいのは「環境が味方をしてくれるようになる」ということ。これまではドラマや映画を作る際にはトラブルはつきもの、というふうに思っていました。ところがこの映画は「こんなことってあるのか」というくらい予定通りの時間で撮れて、何も悪いことが起こらない。これはすごくめずらしいことです。そういう体験をすると、心と体とか、環境、世界といったものは結びついているのだということがわかります。理屈ではなくて、本当にそうなんだと。『東京アディオス』は自分が描いていたイメージ通りの作品になりました。いや、イメージの20%増しくらいかな。

沖縄・桜坂劇場へ作品の売り込みに。結果、上映が決定!

──それはすばらしいですね。この作品は配信やDVD、Blu-ray化はおこなわず、劇場での上映のみということも興味深いです。

大塚さん:みんなが当たり前と考えていることを当たり前に捉えないで、自分の展開を考えてみたいと思っているんです。最初の公開のときは、東京の興行が終わってこれから地方の興行がはじまる、というときにコロナの影響を受けました。地方の劇場で人が入らなかったり、上映自体ができなくなったり。また、制作会社が会社の方針として映画の制作を辞めてしまい、この映画に関わっていた人たちが全員退職してしまいました。それで、残された僕一人で配給や宣伝などもやることになったんです。とても悲惨な状況でした。でも、状況を受け入れて作戦を立て直していくことができたのはTMをしていたからだと思います。今はコロナの時期に苦労したり工夫したことは良かったと思っています。

一人で上映を続けるのはとても大変でしたが、最近になってこの映画の上映をやってくれる人、味方が現れました。11/23にその人が主催の上映会があります。今年この映画が上映されるのはこの日だけ。これからも、規模は小さくても長いスパンで上映を続けていきたいです。

(取材協力:マハリシ総合教育研究所 神田オフィス)

11/23(木・祝)『東京アディオス』 上映+舞台挨拶

日時:2023年11月23日(木・祝)①13:00~ ②16:00~
会場:水戸・銀星映画劇場
料金: 前売1,000円/当日1,500円(①②通し券)
舞台挨拶:大塚恭司監督、横須賀歌麻呂、ブラボー小松、ゆきおとこ

*前売券の取り置きは、X アカウント(https://twitter.com/ok_3939_tokyo)をフォローの上、DMでご連絡ください。
*チケット購入に関する映画館へのお問い合わせはご遠慮ください。

大塚恭司(おおつか・きょうじ)
慶應義塾大学在学中に、自主映画制作集団「ダイナマイトプロ」に参加。映画『シャッフル』『爆裂都市 BURST CITY』のスタッフを務める。大学卒業後日本テレビ放送網に入社。スポーツ中継班を経て、「11PM金曜日」の演出を担当。番組内で企画した『Mr.マリック超魔術シリーズ』が大ヒットし、ゴールデンタイムに進出。以降8本のシリーズを全て構成、演出した。以後「火曜サスペンス劇場」「金曜ロードショー」等のプロデューサーを経て、2005年に『女王の教室』で初めて連続ドラマを監督。以降、連続ドラマ監督が主な仕事に。2019年に映画初監督作の『東京アディオス』が公開。2023年に日本テレビホールディングスを退社し、現在はフリー。フリー後の初監督作はABCテレビの連続ドラマ『何曜日に生まれたの』。


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