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忘れられない言葉たち

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強く共感したもの。心を突き動かされたもの。また読みたいとふいに思い出す素敵なnoteを入れさせてもらいました。やわらかな言葉に、切なさに、激しさに、もう一度スキを。
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#短編小説

バーチャルな恋が、リアルな愛に変わるとき

──── Grrrrrrrrrrr! 遠くに聞こえたその咆哮は、声だけで大物なことが分かった。全速で森…

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ハイライト

 前の日の雨で桜の花はほとんど落ち、路面や水たまりに散らばっている。泥にまみれた花びらを…

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本当に来るはずだったのとは別の朝

 朝、目覚めると、それが本当に来るはずだったのとは別の朝であることに気づいた。  ぼくら…

羨しま not alone

 「うちのおとんもおかんも、なんや知らん間にめちゃ若がえってるねん。おとんはなんや、YouT…

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波よせる場所

海へ向かう道を車で走らせる。窓を開ける。7月終わりの晴れた午後。乾いた風が髪を揺らす。フ…

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【小説】愛のカツカレー

「ねえ、おぼえてる?」  なげかけた言葉は白い冷蔵庫のドアにさえぎられ、力なくフローリン…

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二塁を廻れ

晩夏の夜の雨。秋雨にはまだ早い時期だが、この間まで街を包んでいた熱気が嘘のように肌寒い。足を運んだチェーン店の居酒屋。平日という事もあり、客は少ない。 席を案内しようとする店員を制して彼を探す。すぐに分かった。 「元気?」 「まあ、そう言われたら、まあな、ぐらいで返すしかないよな」 テーブルを見るとまだお通ししかない。 「何年振りだっけ」 「卒業した後に一度野球部のOB会で集まったから4年振りぐらいか」 「俺それ行ってないから卒業以来だな」 店の中は冷房が効きすぎて少し寒

君ノ声

 昔、付き合っていたガールフレンドがしてくれた話だ。  とても暑い夜だった。その当時、貧…

短編小説 「桜の降る日は」

ドアは、いつも目の前で閉まる。 たとえば電車に乗り込もうとすると、必ず目の前でドアが閉ま…

西平麻依
3年前
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【小説】 歴史

「はい、これ、恵梨香にお土産。ホテルの売店で買ったの」  そういってママが差し出したのは…

坂 るいす
3年前
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kiss & Crush

愛されたがりの結末なんてとっくの昔に知っていたけど、それを認めるのはいつも怖い。今度こそ…

七屋 糸
3年前
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寺が燃える

寺が燃えている。 炎が寺の全てを包み込む、大きな火柱となっている。 一報を帰宅途中に、妻…

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「さよなら」には三日いる #お気に入りの音楽で言葉を綴ろう

二年付き合った彼女に別れを切り出したら「三日だけ待って」と言われた。 大事な話があるとメ…

七屋 糸
3年前
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今年も夏がうそをついた #また乾杯しよう

蝉が、死んでいた。 小さい頃の思い出だ。家の玄関前だったか、通っていた幼稚園の園庭だったか、正確な場所はよく覚えていない。しかし確かにわたしはひとりで、薄い羽のついた茶色いものがひっくり返っているのを見ていた。 夏真っ盛りの青空が手に届くほど近く、どれほど背伸びをしても雲ひとつ見つからない炎天下。ネコかイヌかの耳がついた麦わら帽子の下から汗が流れ落ちてくる。わたしはふくふくとした小さな手でほっぺたを掻いた。 今でも虫が苦手なわたしはとても触ってみる気にはなれなかったが、