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天風の剣

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右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
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#創作

【創作長編小説】天風の剣 第2話

【創作長編小説】天風の剣 第2話

第一章 運命の旅
― 第2話 旅の始まり ―

 冷たい風が吹きすさぶ。荒涼とした大地には、風の道を遮るものがなかった。
 流れる黒い雲のすき間から、時折月が顔を覗かせる。月は、果てしない荒野の中にある、男と少年――キアランとルーイ――を静かに照らしていた。
 キアランは、持っていたテントを設置していた。長年使いこまれ、すっかりくたびれてはいたが、持ち主の最低限の安全は守るという機能は果たしている

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【創作長編小説】天風の剣 第3話

【創作長編小説】天風の剣 第3話

第一章 運命の旅
― 第3話 魔法使いの少年、ルーイ ―

 キアランは、朝日に輝く雲を見ていた。それは、美しい金の色を宿していた。
 頬に当たる冷たい風が心地よい。あれほど一晩中吹き荒れていた風も、今は穏やかになっていた。

「おはよー、キアラン! 今日はいい天気になりそうだねっ」

 うん、と伸びをしながら、ルーイが隣に並ぶ。ルーイが目覚めないようにそっとテントから出たつもりだったが、起こして

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【創作長編小説】天風の剣 第4話

【創作長編小説】天風の剣 第4話

第一章 運命の旅
― 第4話 「四聖」を守護する者 ―

 闇の中にいた。
 キアランの意識は、内奥深くにあった。
 
 私は――。

 外界と繋がる表層的な部分の感覚、肉体的感覚がなかった。ひどく負傷したはずの背中の、痛みもなかった。まるで、魂だけが宙に漂っているかのようだった。
 もしかして、これが「死」というものなのか、キアランは恐怖も執着も後悔もなく――、感情を生み出すことなく、ただぼんや

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【創作長編小説】天風の剣 第7話

【創作長編小説】天風の剣 第7話

第一章 運命の旅
― 第7話 夕餉の煙 ―

『殺セ、殺セ、殺セ……!』

 地の底から響くような、不気味な声。
 そこには、数えきれないほどたくさんの異形の者たちの蠢く影が見えた。黒くざわめく影の中に、形も大きさも様々な異形の者たちの目が光る。

『殺セ、殺セ……! 四聖ヲ、ソシテソレヲ守ル者ドモヲ殺セ……!』

 異形の者たちの影は、大きくばねのように伸びあがり、縮み、それからひしゃげたり膨れ

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【創作長編小説】天風の剣 第8話

【創作長編小説】天風の剣 第8話

第一章 運命の旅
― 第8話 三つの星 ―

 傷が完全に治ったわけではないが、ルーイとアマリアの魔法による懸命な治療で、キアランの体はかなり回復していた。
 キアランは、あたためた簡素な携行食を口に運ぶ。
 携行食は保存性に優れ、栄養価が高い。そして種類も数も豊富で、安価で入手しやすい。長旅を続ける者にとって欠かせない食料だ。いつもの、食べ慣れたはずの味。

 うまいな――。

 キアランは驚く

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【創作長編小説】天風の剣 第9話

【創作長編小説】天風の剣 第9話

第一章 運命の旅
― 第9話 炎のような運命 ―

 流れ星が、濃藍の空に輝く軌跡を残していく――。

「アマリアさん! 翼を持つ一族について、教えてくれ……!」

 キアランは、息せき切ってアマリアに尋ねていた。
 幼いキアランを育ての母に預けたという「翼を持つひと」、アマリアはきっとその存在についてなにかを知っている、キアランは心急く。

「キアランさん――」

 アマリアは、キアランの瞳をし

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【創作長編小説】天風の剣 第10話

【創作長編小説】天風の剣 第10話

第二章 それは、守るために
― 第10話 渦巻きの中の人影 ―

 月明かりの荒野に、二つのテントが並ぶ。
 キアランとルーイの休むテントの上では、ルーイの「見張りの鷹」が辺りに目を光らせている。
 もう一つのテントでは、アマリアが休んでいた。そのすぐ傍に繋がれているアマリアの馬も、すでに夢の中にあった。
 ルーイは深い眠りについていたが、キアランは起きていた。
 キアランは暗がりの中、天風の剣を

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【創作長編小説】天風の剣 第11話

【創作長編小説】天風の剣 第11話

第二章 それは、守るために
― 第11話 青白い剣身が、映し出す ―

 木の葉が、渦を描く。不吉な音を奏でながら――。
 銀の髪の男の、笑い声が響く。

「四聖、そしてそれを守護する者ども、私がまとめて葬り去ってくれよう……!」 

「魔の者め……!」

 キアランは天風の剣を構え、木の葉の作るトンネルの中を駆け出そうとした。

「キアランさん! そこは、魔の者の作った空間です! 自ら飛び込むの

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【創作長編小説】天風の剣 第12話

【創作長編小説】天風の剣 第12話

第二章 それは、守るために
― 第12話 願いに近い、思い ―

 森を抜けた。風の向こうに、町が見える。

「キアラン……。大丈夫?」

 心配そうに見上げるルーイに、キアランは微笑みで答えた。

「大丈夫だ。あれからなんの異常もない」

 使い魔という得体の知れないものを体に――おそらく体内に――つけられてしまったキアラン。気にならないかといえば嘘になるが、それがもう逃れられない事実なのであれ

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【創作長編小説】天風の剣 第13話

【創作長編小説】天風の剣 第13話

第二章 それは、守るために
― 第13話 双頭の怪物 ―

「私は、大丈夫だ」

 そうでもなかった。が、キアランは自分の体調が悪くないと言い張っていた。
 しかし、アマリアとルーイは、この町の病院で治療を受けること、そして出発はこの町で宿泊してキアランの体の様子を見てからにしよう、そう提案し続けた。

「お昼を食べた後、ちょうど午後の診療時間になると思います」

「いや、医者にかからなくても大丈

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【創作長編小説】天風の剣 第14話

【創作長編小説】天風の剣 第14話

第二章 それは、守るために
― 第14話 人間の強み ―

 冷たい雨が、深い森の緑を、そして倒れたキアランの体を打ち付ける。

「キアランさんっ……!」

 ルーイとアマリアが、キアランのもとへ駆けよった。

「大丈夫だ……。骨や内臓は、異常ないようだ」

 大木に激突する寸前、とっさに衝撃を和らげる動作をしていたようで、深刻なダメージは受けていない、そうキアランは判断していた。
 キアランは痛

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【創作長編小説】天風の剣 第15話

【創作長編小説】天風の剣 第15話

第二章 それは、守るために
― 第15話 黒い森へ ―

「あっ、あそこに食堂があるよ!」

 村に入ってすぐ、食堂の看板が目に入る。
 先ほど果物を食べたばかりだが、遅めの昼食をそこでとることにした。

「この村でも、お医者様にかかったほうがいいんじゃないかなあ?」

 ルーイが心配そうな顔をしながら、キアランに提案する。

「昨日町で診てもらったばかりだし、薬ももらってあるから大丈夫だ」

 

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【創作長編小説】天風の剣 第16話

【創作長編小説】天風の剣 第16話

第二章 それは、守るために
― 第16話 血 ―

 静かな深い森、わずかに舞い降りる月の光。
 弧を描く鋭い閃光、金属音が響き渡る。

「ははは! いいぞ、いいぞ! キアラン……!」

 魔の者シルガーとキアランが、それぞれの剣をぶつけ合っていた。
 木の根に、草葉に、むき出しの岩に、キアランは足をとられそうになる。
 防戦一方だった。シルガーの炎の剣の勢いに、天風の剣は押されていた。
 金属音

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【創作長編小説】天風の剣 第17話

【創作長編小説】天風の剣 第17話

第二章 それは、守るために
― 第17話 まっとうな、人間 ―

 虫の声で埋め尽くされた森の中、キアランは抜け殻のように立ち尽くす――。

「キアランッ!」

 ルーイはキアランの姿を認めると、わき目もふらずキアランのもとへ駆けよった。

「ルーイ――」

「キアランさんっ!」

 アマリアとライネは息をのんだ。キアランを間近で見て、なにかを感じ取ったようだった。

「キアラン! あんた――」

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