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天風の剣

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右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
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2023年8月の記事一覧

【創作長編小説】天風の剣 第46話

【創作長編小説】天風の剣 第46話

第五章 最後の四聖
― 第46話 黒の紳士 ―

「キアランも、ルーイもフレヤさんも、体のほうは異常なしだ!」

 ライネが改めて、キアラン、そして囚われていたルーイとフレヤの体調を診た。
 ライネは、かがんでルーイの瞳を覗き込む。

「……おぼっちゃま。心のほうは、大丈夫か……?」

 瞳を覗くと、心が見える、そうライネは信じているかのような仕草だった。

「うん……! 大丈夫だよ!」

 ルー

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【創作長編小説】天風の剣 第47話

【創作長編小説】天風の剣 第47話

第五章 最後の四聖
― 第47話 月明かりに、高笑いが轟く ―

「そこの四聖のお二人を渡してくださったら、皆様の安全はお約束いたします」

 褐色の肌の四天王の唇が、にいっと持ち上がる。その深紅の瞳は、燃えるような光を放つ――。

 シュッ……!

 キアランの右手に、炎の剣が現れた。
 次の瞬間、キアランは宙にいた。大地を蹴り上げ、月を背にキアランが舞う。
 大きく振り上げた炎の剣、その軌道は

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【創作長編小説】天風の剣 第48話

【創作長編小説】天風の剣 第48話

第五章 最後の四聖
― 第48話 三体の姿 ―

 キアランの目の前には、ルーイとフレヤを両脇に抱えた、褐色の肌の四天王、そしてその四天王の従者たち――。
 
 ザザザザ……。

 夜の闇、黒い木々の枝が揺れる。

「貴様ら……!」

 キアランの手には、炎の剣が握られていた。
 褐色の肌の四天王を睨みつけるキアランの目、そして突風に激しく乱れる黒髪は、怒りの炎で燃えているかのようだった。

「お

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【創作長編小説】天風の剣 第49話

【創作長編小説】天風の剣 第49話

第五章 最後の四聖
― 第49話 闇の天使 ―

 月明かりの下、佇む異形の三体。
 幼い女の子の四天王、そしてその両脇を固めるようにして立つ翠と蒼井。キアランは三体の姿を見て、衝撃を受ける。
 予想外の彼らの出現は、もちろんキアランにとって大きな驚きだったが、それ以上に驚いたのは、翠と蒼井の異様な姿だった。
 キアランによって切り落とされたはずの蒼井の左腕は――、ちゃんとあった。しかし、それはど

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【創作長編小説】天風の剣 第50話

【創作長編小説】天風の剣 第50話

第五章 最後の四聖
― 第50話 また、お会いしましょう ―

「んもう! まったく、どこへ行くつもり!?」

 漆黒の四枚の翼で風を切りつつ、シトリンが叫んだ。
 同じ四天王であるアンバーを、追い続けるシトリン。シトリンとアンバーの距離は縮まらない。
 雲が、星が、流れていく。
 小さな腕と波打つ長い髪の毛を使って、キアランを抱えたシトリンは、闇の中を滑空する。
 アンバーは攻撃をしかけてこない

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【創作長編小説】天風の剣 第51話

【創作長編小説】天風の剣 第51話

第五章 最後の四聖
― 第51話 持ちかた ―

「もう一人の、四聖……」
 
 海の向こう、サントアル公国。そこに、四人目の四聖がいるのだという。
 今までルーイを抱えながら、サントアル公国の方角を眺めていた蒼井が、急にキアランのほうを振り返る。

「あの人間は、なんだ」

「え」

 この前の戦いについて、キアランが腕を斬り落としたことについて、もしくは今この瞬間も腕に抱えている四聖の一人であ

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【創作長編小説】天風の剣 第52話

【創作長編小説】天風の剣 第52話

第五章 最後の四聖
― 第52話 元気いっぱいだね ―

 アマリアさん、ライネ、ダンさん、ソフィアさん……!

 思いとは裏腹に、キアランは大陸に近付いていく。
 朝日に照らされた海は、金のうねりを生み続ける。
 キアランは、シトリンが一番近い大陸の岬に降りるつもりなのかと思っていた。
 シトリンの漆黒の翼は、空を飛び続ける。

「いったい、どこに……」

 岬を越えていた。そして、まだ海の上を

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【創作長編小説】天風の剣 第53話

【創作長編小説】天風の剣 第53話

第五章 最後の四聖
― 第53話 他愛もない、かけらの輝き ―

「……事情を、説明してもらおうか」

 ため息交じりにニイロは呟く。そして、ニイロは皆に背を向けた。

「ニイロさん――」

 歩き出した、たくましいニイロの背が揺れる。そして、その背に背負われた大ぶりの弓。自らの名を名乗り、笑顔を見せたニイロだったが、自分や皆に対して強い不信感を持っているのではないか、そうキアランは危惧した。
 

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【創作長編小説】天風の剣 第54話

【創作長編小説】天風の剣 第54話

第六章 渦巻きの旋律
― 第54話 深い海の底から ―

 一つの泡が生まれる。
 そこは、日の光も届かない深い海の底だった。
 泡は海面へと向かうが、それはあまりにも遠い道のりだった。
 呼吸だった。肺の役割をする器官から吐き出された空気が、泡となり外界へと旅立つ。
 生きものの活動の証。なにかが、目覚めた兆し。
 泡を生み出した主は、瞳を開けた。
 けだるそうに、ゆっくりと上体を起こす。

 

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【創作長編小説】天風の剣 第55話

【創作長編小説】天風の剣 第55話

第六章 渦巻きの旋律
― 第55話 誰かと共に歩く未来 ―

 ニイロは、小屋の扉に手をついていた。

「ニイロ――」

 キアランの呼びかけに、ニイロが振り返る。

「……今まで世話になった家に、挨拶をしていた」

 それから、楓の木、育てていた苗、花々、空を飛ぶ小鳥、吹き渡る風――。島のすべてをニイロは見渡す。ニイロは島のすべてに、心の中で別れの挨拶をしているようだった。

「戻れるかどうかわ

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【創作長編小説】天風の剣 第56話

【創作長編小説】天風の剣 第56話

第六章 渦巻きの旋律
― 第56話 異変 ―

 遠い海は、不吉な黒い雲に覆われていた。

「四天王と高次の存在……!」

 キアランは息をのむ。

 もしかして――! それは、黒髪の四天王と、カナフさん……!?

 他の高次の存在たちの追跡から逃げていたカナフ。姿を消した黒髪の四天王。彼らがどのくらい移動したのか、あのあと黒髪の四天王がカナフの追跡をしていたのかどうかわからないが、四天王と高次の

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【創作長編小説】天風の剣 第57話

【創作長編小説】天風の剣 第57話

第六章 渦巻きの旋律
― 第57話 血の契約 ―

 暗闇の中。ずっと身動きが取れないでいた。
 いや、本当は暗闇ではないのかもしれない、そう思った。
 忌々しい、黒いもや。その中では時間の感覚、空間の感覚がない。痺れたような体の中、意識だけがはっきりとしていた。

 アンバーめ……!

 黒髪の四天王は、アンバーの封印の鎖に縛られたままだった。
 
 くそう……!

 様々な抵抗、攻撃を試みた。

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【創作長編小説】天風の剣 第58話

【創作長編小説】天風の剣 第58話

第六章 渦巻きの旋律
― 第58話 王者の責任 ―

「あっ! 忘れてた!」

 キアランを抱えて空を飛んでいたシトリンだったが、突然なにかを思い出したのか、短く叫んでその場に停止した。

「翠―っ! 蒼井―っ!」

 キアランの耳をつんざくばかりのシトリンの大声。名を呼ばれた翠と蒼井が、こちらに近付いて来る。

「これ! お願いねーっ!」

 いつの間にか、シトリンの髪に二つのなにかが絡みついて

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【創作長編小説】天風の剣 第59話

【創作長編小説】天風の剣 第59話

第六章 渦巻きの旋律
― 第59話 意義や役割を超えるもの ―

 限りなく空に近い流麗な山があった。
 高山に咲く可憐な野の花に囲まれ、その身を隠すようにひっそりと佇む屋敷。
 屋敷の周囲一面には、淡い虹色の結界が張られていた。

「カナフ……!」

「ヴァロさん……!」

「どうやってここまで……!」

 突然部屋の中に入ってきたヴァロの姿に、カナフは驚く。
 そのうえヴァロの背後には、カナフ

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