マガジンのカバー画像

積ん読note

128
あとで読もうと思ったnoteたちの保管庫。積ん読は崩してもお気に入りは再度積んでおくかも。
運営しているクリエイター

2019年7月の記事一覧

上階へ至る道

ひとりひとり個性があるように腫瘍もひとつひとつ性質が違うから、それに合わせて治療する。 患者の持つ遺伝子のバリエーションを調べ、それに合わせた薬剤を選択する。 個別医療という言葉を最近、特に耳にするようになって、耳にするたびこの流れの起源について考える。 思想的なものではなくて、どういう研究の積み重ねによって可能になったのかについて。 直接つながりのある研究をたどれば、大本は19世紀末に始まったウイルス学だと思う。 ウイルスは細胞の中でしか増えることができない。 おまけ

小説『スズメバチの黄色』は最高にサイバーパンクだ

始めに:この記事内には『スズメバチの黄色』のネタバレが含まれていますが、この小説は何回読み返しても面白いしここを覗いたところでその面白さは1ミリも減りませんがそれはそれとして早く読むんだ。早く!早く! 最初に言っておくと、『スズメバチの黄色』は最高にサイバーパンクで、ジュブナイルでヤクザな史上最高のエンターテインメントだ。小説でありながら漫画のようにどこのページから読んでもめちゃくちゃ面白く、頭から読み始めると映画のように最後まで夢中になって読み切ってしまう、凄まじいパワを

【試し読み】転生勇者が実体験をもとに異世界小説を書いてみた

数々のヒット作を生み出してきた乙一先生に、「恋愛」をテーマにした短編小説を書いていただきました。あがってきた原稿はまさかの……『異世界転生ファンタジー』でした……!! 作者プロフィール第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞した『夏と花火と私の死体』でデビュー。 『GOTH リストカット事件』(角川書店)で、第3回本格ミステリ大賞を受賞。JUMP j BOOKSからは他に『ジョジョの奇妙な冒険』の第四部ノベライズ『The Book jojo’s bizarre ad

松本人志についてのノート

(約27500字)  (注1)有料記事になる前に、投げ銭を頂いた方で、その後記事が読めなくなってしまった場合、ご連絡下さい。個別にテクストをお送りします。お手数をかけます。sssugita@hotmail.com (注2)この文章を大幅に加筆修正して、また北野武/ビートたけし論を加え、三本の対談座談を行って、一冊の本として『人志とたけし』(晶文社)を刊行しました。よければ手に取ってみてください。    1  以前、渋谷のシネコンで実写版『ジョジョの奇妙な冒険』を観たあと

¥500

イーロン・マスクとNeuralinkは脳科学をどう変えるのか(2019年版)

2019年7月17日、「脳とコンピューターをつなぐ」ことを目的にイーロン・マスクが設立した会社Neuralinkから衝撃的な発表がありました。 あまりに衝撃的な内容だったので以下のようなツイートをしたところ、多くの方から反響をいただきました。 このnoteでは、脳科学(神経科学)の現場で研究をしている私の立場からの感想を述べ、脳科学が今後向かう先について考えてみたいと思います。 (なお、本記事の構想・執筆・編集において丸山隆一さんに多大な協力をいただきました。) その前に

三体/劉慈欣

『三体』は中国の作家、劉慈欣(リウ・ツーシン)が2006年に連載し、2008年に単行本化されたSF小説。 2014年に英訳され、2015年に世界最大のSF賞といわれるヒューゴ賞長編部門を受賞。そして、今月いよいよ日本語訳が出版されたばかりの1冊で、なんとなく直感的に興味を惹かれてさっそく読んでみた。 400ページを超える作品だが、面白いので通常の読書ペースでも無理なく4日ほどで読み終えられた。 『三体』は3部作の1冊目にあたるらしく、すでに中国では3部作は完結している。 3

その表現は誰かに労力をアウトソーシングしていないだろうか?

 幼児向けの乗り物の絵本に20ページ中6ページにわたって自衛隊の車両が掲載されていることが問題視され、当該書籍の増刷が中止されるという事件があった。 https://this.kiji.is/526697181804217441  そもそもの前提として出版社にはこういった書籍を出版する自由があり、消費者には抗議する自由がある。結果として増刷の中止という判断を出版社側が下すのもまた自由……というかこれは経営の裁量の範囲であろうから、実のところ、この件について特に付け加えることは

この国の不寛容の果てにー相模原事件と私たちの時代(1)神戸金史×雨宮処凛

あす7月26日で、相模原市の「津久井やまゆり園」で障害者19人が殺害された事件から3年。「障害者は不幸しか作らない」とした被告の主張は、日本社会に衝撃を与えました。 「生産性」で人の生死を決めるかのような価値観。実は、それはこの事件だけでなく、日本社会全体を覆う「空気」ではないのか。そんな問いを出発点に、作家・雨宮処凛さんが6人の識者と対話を重ねました。第1回は、ご自身も自閉症のお子さんを持つ、RKB毎日放送の神戸金史さんです。 記者として、障害を持つ子の父親として雨宮 神

美しきミニマリズム広告の世界

あらゆる装飾性や形態を取り除き、最小限の要素だけで構成された主題の表現を目指すミニマル・アートの芸術運動は、1960年代から70年代初頭のアメリカにおいて大きな発展を遂げました。(代表的な芸術家として、カール・アンドレやドナルド・ジャッドなどが挙げられます。) 広告の世界においてもこれらの動きは取り入れられ、コピーによる冗長な説明や複雑なデザインを排除した「ミニマリズム(最小限主義)」を追求する表現があらゆるブランドで見られるようになりました。 今回はそんな世界のミニマル

飲食物デザインの難しさ

思わぬ苦戦があるなと思う。SENREIドキュメント松倉サイド3回目。 デザイナーまえけんと今、進めているのはパッケージデザイン。 これまでも同じタッグでプロダクトデザインをやったことがあるが、僕にとって「飲食物」のパッケージデザインは初めてだなと気づく。 例えば、プロトタイプ01はこんなデザインだった。 同じ商品銘柄でもお茶にはグレードがある。 やはり一番茶は美味しいし、二番茶と連なっていく。 なんなら白茶だってある。テストされているものを飲んだがべらぼうにうまい。僕でも

「自分の機嫌を自分で取る方法」と「ご機嫌に過ごせる習慣」について考える。

「自分の機嫌は自分で取る」 いつだったか、テレビ『世界の果てまでイッテQ』で、みやぞん(ANZEN漫才)が口にしていた言葉だ。 (大元は違うところにあるのかもしれないが、割愛) 私はこの言葉にいたく感動した。 と同時に、「自分は自分の機嫌を取れているか?」と考える。 すると、なんとも言えないモヤっとした気持ちに…。 私は未だに”自分の機嫌を取れない大人”をやっている気がするからだ。 最近、Twitterでもちょくちょくこの話題を目にする。 「大人だったら自分の機嫌くら

喫茶店の入り口に漂う「入っていかない?」フェロモンはなんなのだろうか

関西に引っ越してきて、よく遭遇するのが「昭和からつづいてるんだろうな~」と思うような、すこし鄙びた、喫茶店。 同じくコーヒーが飲めるという機能面の意味では、おしゃれなカフェやコーヒーショップも存在するが、喫茶店のあの独特な雰囲気は、決してカフェとは呼べない何かを纏っているように思う。 いつも先を急いで歩いている道で見かけては、「ああ、これから予定なければ、いまここで入っていきたいのになあ・・・」と後ろ髪をひかれつつ、急ぎ足で仕事に向かう。 うちの父は、店番しながらずっと

TOEIC915点をとって私が得たものは、点数じゃなかった

しばらく、これを書こうか書くまいか、迷っていた。 私はマウンティングのようなものが大嫌いだ。自分はこんなに出来るんだぞ、こんなに良いものを手に入れているんだぞ、というような、ネットでも現実の世界でもよくある、マウンティングが。だから、客観的に少しでも「マウンティング」のように受け止められかねないことはあまり書きたくなかったし、そうして優しい読者の方が遠のいてしまうことは、私にとってはとても悲しいことだった。けれど今回は、なんとなく、私にとって大事な出来事だったような気がして

自分で決めていることなど、実はそれほどないのかもしれないけれど。

帰り道、ほろ酔いで隅田川を歩いていると、なんてことのない階段でつまづき、こけてしまった。こけたのは、私が不注意だったからという理由はもちろんあるけれど、そこに「階段があったから」、こけたのだった。 同じように帰り道、気づいたら無意識的に、道路にある白い線(車道外側線というらしい)の上を歩いていた。これは、私がほろ酔いだったという理由はもちろんあるけれど、そこに「白い線があったから」、私はその上を歩いていたのだった。 そのときに、私は以前読んだ『ごめんなさい、もしあなたがち