美しきミニマリズム広告の世界
あらゆる装飾性や形態を取り除き、最小限の要素だけで構成された主題の表現を目指すミニマル・アートの芸術運動は、1960年代から70年代初頭のアメリカにおいて大きな発展を遂げました。(代表的な芸術家として、カール・アンドレやドナルド・ジャッドなどが挙げられます。)
広告の世界においてもこれらの動きは取り入れられ、コピーによる冗長な説明や複雑なデザインを排除した「ミニマリズム(最小限主義)」を追求する表現があらゆるブランドで見られるようになりました。
今回はそんな世界のミニマル・デザインの広告を幾つかご紹介したいと思います。
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1. McDonald's(マクドナルド)
▶︎ Advertising Agency|TBWA, San Juan, Puerto Rico
ここ数年、TBWA主導によるマクドナルドのグローバル広告はまさにミニマルデザインの限界に挑戦しているように感じられます。世界中の人々が認知しているブランドだからこそできる、ミニマリズムなアプローチの数々。とにかく洗練されたデザインが多く、どれも素晴らしいの一言です。
"Say no more."
(それ以上言わなくていい。)
▶︎ Advertising Agency|TBWA, Paris, France
「深夜営業」をここまでシンプルかつ芸術的に表現できるのは、フランスのマクドナルドだけだなぁと。
▶︎ Advertising Agency|TBWA, Paris, France
これが広告として成立してしまうのがマクドナルドの凄いところだと思います。もはや商品を写し出す必要すらないようで…。
▶︎ Advertising Agency|Cossette, Toronto, Canada
マクドナルドのロゴマーク(Golden Arches)は世界で最も有名なロゴの一つですが、カナダで実施されたこの“Follow The Arches”キャンペーンではそのシンボルをなんとマックの店舗がある方向を示す「案内標識」として活用しました。世界中で展開できるシンプルかつ効果的な素晴らしいアイデアです。
▶︎ Advertising Agency|DDB, Sydney, Australia
オーストラリアのマクドナルドが実施した“I'm Lovin' Summer”キャンペーンの広告デザイン。ビーチサンダルやシュノーケルといった夏を象徴するアイテムが、M型のロゴマーク(Golden Arches)と組み合わさって見事に表現されています。
▶︎ Advertising Agency|DDB, Dubai, United Arab Emirates
こちらはドバイにおけるマクドナルドの宅配サービスの広告。エッグマックマフィンやマックフライポテトなどのお馴染みのメニューがスピード感のある効果線で表現されていて、電話した次の瞬間に届けてくれそうな印象を与えています。
▶︎ Advertising Agency|Leo Burnett, Costa Rica
コスタリカのマクドナルドが実施した秀逸な広告。「フィレオフィッシュ」は白身魚のフライをバンズで挟んだ人気メニューの1つですが、この広告では魚のウロコを文字通りマクドナルドのロゴだけで見事に表現しています。
"100% Filet-O-Fish"
(100%のフィレオフィッシュ)
▶︎ Advertising Agency|TBWA, Zürich, Switzerland
2016年、マクドナルドがスイスで新しいスマホアプリをリリースした際に実施したシリーズ広告。フライドポテトやビッグマックなどのメニューがまるでアプリのアイコンのようにデザインされています。これが何の広告なのか一目で伝わる見事な表現ですね。
▶︎ Advertising Agency|DDB, Vienna, Austria
バンクシーの絵画シュレッダー事件が起きた2日後に広告代理店「DDB Wien」がFacebookに投稿した一枚の画像。クライアント承認も含めてこのスピード感はさすがグローバル。(2枚目はバンクシーのInstagramより元ネタ)
▶︎ Advertising Agency|DDB, Helsinki, Finland
フィンランドのマクドナルドによるハロウィン広告。ケチャップの付いたポテトがドラキュラの姿を表していて、まさにお見事の一言。
▶︎ Advertising Agency|Heye & Partner, Munich, Germany
ドイツで作られたこちらは、コピーもデザインも最高に好きです。
"More friends. Less fries."
(ポテトが減るたび、友達増えるね。)
2. Burger King(バーガーキング)
▶︎ Advertising Agency|La Despensa, Madrid, Spain
スペインのバーガーキングによる宅配サービスの広告。配達スピードの速さをハンバーガーの柄だけで表現している面白いデザイン。
3. Heinz(ハインツ)
▶︎ Advertising Agency|TAXI, Toronto, Canada
ハインツがカナダのトロントで制作したこの広告は、ケチャップを取り出すときの「容器を振る行為」をそのままビジュアルに落とし込んでいて、非常に斬新です。
4. Coca-Cola(コカ・コーラ)
▶︎ Advertising Agency|JWT, Beirut, Lebanon
中東レバノンで制作されたコカ・コーラの広告。ロゴに描かれるダイナミックリボンをキリンのシルエットに重ね合わせることで、ロング缶が発売されたことをユーモラスに伝えています。
▶︎ Advertising Agency|Publicis, Milan, Italy
コカ・コーラ社がリサイクル促進を目的として、中東欧で実施した屋外広告。同ブランドで描かれる「ダイナミックリボン」が手の形となって、近くに設置されたリサイクルボックスを指差しています。
ゴミ箱を区別しやすくしただけで分別収集が141%増加した調査事例もあるようなので、意外と効果的な施策なのかもしれませんね。
▶︎ Advertising Agency|Ogilvy & Mather, Shanghai, China
2012年、世界的広告賞カンヌライオンズのアウトドア部門でグランプリを獲得したコカ・コーラの「#COKEHANDS」キャンペーン。なんとそのデザインを考えたのは、当時19歳の香港の大学生Jonathan Makでした(史上最年少GP)。アイデアやデザインは、人種や年齢によって不当な差別を受けないのだと勇気付けられた事例です。
5. LEGO(レゴ)
▶︎ Advertising Agency|Brad, Montreal, Canada
こちらはカナダで制作されたレゴの広告なのですが、不思議とあの生物たちが頭の中に浮かび上がってきます。
▶︎ Advertising Agency|Jung von Matt/Alster, Hamburg, Germany
レゴの表現力は偉大だと思います。さらに言うと、人間の想像力って本当に偉大。これだけでもほら、ザ・シンプソンズやドナルドダック、ニンジャ・タートルズ、サウスパークに登場するキャラクターたちの姿が見えてきませんか…?
▶︎ Advertising Agency|Geometry Global, Hong Kong
モナ・リザやゴッホの自画像、マグリットの代表作をレゴだけで表現したレゴの広告。シンプルなブロックの組み合わせだけで何の作品かすぐにわかるところが、レゴの表現力の高さを示していますね。
6. Netflix(ネットフリックス)
▶︎ Advertising Agency|DDB, Canada
あえて作品に関する説明を一切省き、シンプルかつミニマルなイラストだけで構成されたカナダのNetflixの広告。「これらの作品が何なのか知るためにNetflixに加入しよう」というメッセージが秀逸です。
7. Toronto Jewish Film Festival(トロント・ユダヤ映画祭)
▶︎ Advertising Agency|BBDO, Toronto, Canada
トロント・ユダヤ映画祭の広告。ユダヤ教の超正統派の人々は旧約聖書・レビ記19章にある一節「あなたがたのびんの毛を切ってはならない。」の教えにより生涯もみあげを切らずに伸ばし続けるようで、この広告では映画フィルムを彼らの長いもみあげに見立てて表現しています。
8. MTV(エムティービー)
▶︎ Advertising Agency|BBDO, Düsseldorf, Germany
音楽チャンネルのMTV・ドイツがマイケル・ジャクソンの訃報を受けて制作した追悼広告。「哀悼の意」の象徴であるブラックリボンを用いたスタイリッシュな表現は、MTVからマイケルに対する最大のトリビュートだったのかもしれません。
9. Hut Weber(ハット・ウェーバー)
▶︎ Advertising Agency|Serviceplan Hamburg / München, Germany
ドイツの帽子メーカー「Hut Weber」の広告。2つのシンプルなイラストが描かれており、向かって左側がヒトラー、右側がチャップリンを表しています。帽子があるだけでこれだけ印象が変わりますよ、というメッセージを伝える秀逸な広告でした。
"It's the hat."
(これが帽子なのだ。)
10. Moleskine(モレスキン)
▶︎ Advertising Agency|Leo Burnett, Milan, Italy
イタリアのモレスキン社は、モレスキンブランドの手帳・ノートの製造で世界的に有名ですが、ミラノを中心とした一部の地域に「モレスキンカフェ」というカフェも展開しています。この広告では、手帳のスピン(栞紐)がコーヒーやその湯気に見えるよう表現されています。
11. Veet(ヴィート)
▶︎ Advertising Agency|EURO RSCG, Spain
除毛・脱毛ブランドのVeet(ヴィート)がスペインで実施した広告。誰しも一度は「石鹸に毛が付くこと」を煩わしく感じたことがあると思いますが、その感情をインサイトとして捉え、とてもシンプルに表現しています。
"No hair is better."
(毛はない方が良い。)
12. ORION(オリオン)
▶︎ Advertising Agency|Nikotin, Pune, India
Orionによる防音窓ガラスの広告。同製品の防音効果をシンプルなイラストだけで見事に表現しています。
"Cuts the unwanted sound."
(騒音を遮断しよう。)
13. NORI(ノリ)
▶︎ Advertising Agency|Markus Reklambyrå, Linköping, Sweden
海外サイトで絶賛されていたスウェーデンの日本食レストランの広告。日の丸を連想させる盆の上に「11時開店」を意味すべくお箸が置かれています。単純そうに見えてなかなか思いつかないアイデアです。
"Japanese food, served from 11 a.m."
(和食料理屋、午前11時より営業開始。)
14. Nescafé(ネスカフェ)
▶︎ Advertising Agency|Casanova//McCann, California, USA
米ネスカフェの広告。コーヒーの表面上にビッグバンの様子が浮かび上がっています。ブランドスローガンの"It all starts with a NESCAFÉ(始まりはネスカフェから)"を主題とした引き込まれるクリエイティブです。
15. WWF(世界自然保護基金)
南アフリカで制作された環境保護団体WWFの啓蒙広告。地球温暖化による海面上昇をイギリスやフランス、韓国などの国旗の「青面積」を広げることで、温暖化が世界的な問題ではなく、国家単位での局所的な問題であることを訴えました。
"Global warming is a local problem."
(地球温暖化は地域が抱える問題なのだ。)
最後までご覧いただきありがとうございました。