坪田清氏による『世界の不動産経済の潮流』は、2015年から2023年にかけてのグローバル不動産市場の変動を多角的に分析した一冊です。以下、簡単にまとめます。
1.はじめに
筆者は、序章でグローバル不動産経済の複雑性を挙げています。
2.気候変動・パリ協定採択 2015年6月→12月
CHAPTER1では、2015年に採択されたパリ協定とそれに伴う気候変動が不動産市場に与える影響、ニューヨークの超高額マンション取引、ヨーロッパの主要都市への海外投資の動向等が取り上げられています。以下に引用例を挙げます。
また、ヨーロッパではイギリスが海外投資の受け入れ先として突出しており、ロンドンに世界中から投資資金が集まっています。
3.ブレグジットの国民投票 2016年1月→12月
CHPTER2では、ブレグジットがもたらした影響を中心に、中国の資本流出とヨーロッパの不動産市場への影響を考察しています。特に、中国のデベロッパーが直面する課題や投資手法について深く掘り下げています。
中国の富裕層がさまざまな手法を駆使して外貨を取得し、海外不動産に投資する様子が詳細に述べられています。これには「為替両替所」の利用や「地下銀行」の活用など、非公式な手段が含まれているようです。これらからイギリスやスペインなどの不動産市場への中国からの投資が急増しているようです。
4.トランプ大統領が誕生 2017年1月→12月
CHAPTER3.では、トランプ大統領の政策がアメリカの不動産市場に与えた影響を分析しています。ニューヨークやサンフランシスコでのオフィスビル市場の変遷や、プール付きマンションの人気についても触れています。
アメリカのオフィスビル市場では、主要テナントを確保してから着工するのが一般的であり、未確定のうちに着工することは「スペキュラティブ・インベストメント」としてリスクが高いとされています。特に、ニューヨークのワンワールドトレードセンターのように竣工後も空室が多い事例が紹介されています。
5.習近平国家主席、終身化へ道 2018年1月→12月
CHAPTER5では、習近平国家主席の終身化とそれが中国の不動産市場に及ぼした影響を考察しています。中国のデベロッパーの動向や地方政府の土地売却に関する課題について述べています。
中国のマンション市場では、販売価格の急落により既購入者からの反発が生じており、地方政府の財政も土地売却収入の減少で逼迫しています。これにより、中国の不動産市場の不安定さが浮き彫りにされてきています。
6.平成から令和へ 2019年1月→12月
CHAPTER5では、平成から令和への移行期における日本の不動産市場の特異性について議論しています。オリンピック開催を契機とした都市インフラの更新や、不動産市場への中長期的な影響について詳述しています。
7.新型コロナウイルスが世界中で蔓延 2020年1月→12月
CHAPTER6では、新型コロナウイルスのパンデミックが世界中の不動産市場に与えた影響を述べています。マンハッタンからの「エクソダス」や、サンフランシスコのリモートワークによる空室率の増加などの事例が紹介されています。
パンデミックによるリモートワークの普及で、都市部から郊外への移住が増加し、不動産市場に大きな影響を与えています。特に、ニューヨークのハンプトンズやウエストチェスターの住宅市場が活況を呈していることが取り上げられています。
8.東京でオリンピック・パラリンピック開催 2021年1月→12月
CHAPTER7では、2021年の東京オリンピック・パラリンピックが日本の不動産市場に与えた影響を評価し、リモートワークの普及が不動産市場に与える長期的な影響についても考察しています。
9.ウクライナ戦争勃発 2022年1月→12月
CHAPTER8では、2022年のウクライナ戦争勃発後の市場の変化を追っています。特に、エネルギー市場への影響とそれが不動産市場に与える波及効果について掘り下げています。ウクライナ戦争の影響でエネルギー価格が高騰し、それが不動産市場に与える影響について記されているのですが、特に中国の地方政府が土地売却収入に依存していることが課題として浮き彫りになっています。
10.イスラエル・ガザ紛争再発 2023年1月→7月
最終CHAPTERでは、2023年のイスラエル・ガザ紛争再発に伴う不動産市場の動向を分析しています。また、シンガポール等の最新の市場動向を述べています。シンガポールの地理的優位性が東南アジアのハブとしての役割、地位が高まっています。
11.おわりに
筆者は、本書の締めくくりとして、不動産という概念自体が西洋にはないことを述べ、日本の不動産市場を理解するためには世界の視点から俯瞰することも重要であると改めて説いています。
以上、本書は、筆者の分析や豊富な事例の提示により、グローバルな不動産市場が近年どのように流れてきたのかを理解する上で大変参考になる一冊です。