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定期的な1on1について考える

一時ほどではないかもしれないけど、1on1のブームが続いています。全社的に導入するといった話もよく聞きますが、それが大成功したという話はあまり聞きません。まあ、それは当然かもなあとも思います。このあたりについての私見を今日は整理してみます。

まず最初に整理が必要なのは、もはや1on1という言葉が一般化し過ぎて、それが様々な意味で使われているという点です。カタカナ人事用語の怖い点です。本質的な1on1自体にいろいろな流派が生まれていると考えると、分類は多岐に渡るのですが、ここでは大きく2つに整理します。1つは部下の内省を深め、行動変容を促す人材育成手法のつとしての1on1、そしてもう1つは定期的に上司と部下が対話の場を持つという、コミュニケーション施策としての1on1です。こちらはコミュニケーション施策として整理したいればまだよいのですが、下手すると形式化してしまうケースも少なくないのではないかと思います。そして、言うまでもなく本来の1on1は前者ですので、ここでは前者に絞って考えていきます。 

内省を深め、部下の行動変容を促すとなると、自己理解を深め、行動化を促進させることが定義に組み込まれているカウンセリングに、やり方はかなり近いものであることがわかります。細かいスキル面では、カウンセリングのスキルが間違いなく流用できますが、1on1は、経験学習サイクルをより強く意識した方がうまく行きやすいという実感はなんとなくあります。内省、リフレクションです。

定期的な1on1がなかなかうまく行かない点は、主に。3つだと思います。1つ目は往々にして部下は、内省と行動変容より前に今ここの問題の解決を望んでいます。忙しくてなかなか相談できない上司との折角の時間なので、業務相談や指導を求めたいのです。2つ目は、多くの人は定期的には内省や行動変容など求めていない点でです。ルーティン化するのではないのでしょう。あさ、最後の3つ目ですが、そもそもやる方もやられる方も、正しく1on1を理解していないことです。まあ、3番目は人事の努力で何とかなりますが、1番目と2番目はちょっときついですね。

私は今、3人の管理職の部下と週次の面談をしています。これらはすべて部下側からの要望に基づくことです。私の人材育成上の基本ポリシーの1つは「喉が乾いているときに飲む水が一番美味しく感じ、身体の隅々まで染み渡る」です。逆にいえば、喉も乾いていないときに、どんなに効果で美味しいドリンクをもらってもねえ、ということです。だから、私は制度で求められた目標設定面談などを除いて、定期的な面談を部下にこちらから求めることはありません。逆に不定期な部員全員面談、ゲリラ的なスポット面談は意味があると思っているのでやります。そして、相手から求められれば、当然それには対応します。喜んで。ただ、内容は必ずしも1on1になりません。相手のニーズに寄り添います。だいたいは業務打ち合わせですが、その中に時折、1on1のエッセンスを入れたりもします。その日その日で構成は変わります。

「喉が乾いているときに飲む水が一番美味しく感じ、身体の隅々まで染み渡る」というのは、研修でもまったく同じです。はやり基本は希望者の手上げ式研修です。必修研修は必要最低限にしています。いやいや受講する研修ほど生産性の低いものはありません。だからこそ、たまに実施することになる各種必修研修の企画は、もう真剣勝負です。いやいやの人まで含めて、前のめりにさせないといけないわけですから、並大抵の準備ではいけません。学ぶのってまんざらではないな、と多くの人に感じてもらうことが大切なのです。

1on1に話を戻しますが、結論からいうと1on1は目的であるはずなどなく、単なる1つの人材育成ツールです。なので、1on1実施率100%を目指すみたいな馬鹿なことになっては意味がありません。本末転倒です。ただ、ある程度の頻度で一対一で対話することの重要性は間違いなくあります。何せ「いつでも相談してくれ」という上司の投げかけほど意味のない言葉はありませんから。設定された場がないとなかなか相談できない部下は多いのです。そんな対話の場を何でもかんでも流行りに乗じて、1on1などと言い始めるから面倒なことになるのです。

1on1をツールだと割り切ると、ツールの用法で大切なのは、2つだけです。1つは「正しい使用法」を学び、習得することです。感覚的に使えるものでしたらよいですが、1on1はそんなに平易なものではありません。日常のビジネスモードから、まずスタンスを変えなければいけません。そして、もう1つは「正しい場面」で使うことです。ハンマーでネジは締められないし、ドライバーで釘は打てません。

前者については、まずは正しい1on1の研修は必須です。さらに運用が始まったら、少人数での事例共有会みたいのをできるといいですね。人事担当者がスーパーバイザー的に入れると良いです。1on1のスーパービジョンです。

後者を考えると、定期的に毎週1on1というのの難しさがわかります。定期的な毎週の対話をする場合、その内容には、①業務打合せ、②相談、③指導、④1on1、⑤雑談の5つがありえます。相手のニーズと状況に合わせてこれを随時組み合わせばいいんだと思います。今日は業務打合せに徹すると言う日があってもいいし、1on1徹底的にやってみようかという日があってもいい。実際、うまくいっている1on1って、この組み合わせの中で上手にやってるんだと思います。

相手のニーズに合わせてと書きましたが、実はすべてが相手任せではうまくいきません。組み合わせの主導権はあくまでも上司側です。プロジェクトが終わった、結構まずい失敗をしてしまった、という場合は、きっちりと1on1をやってから業務打ち合わせをした方がいいでしょう。部下が緊急案件を抱えて火を噴いているのでしたら、徹底的に解決志向の業務打ち合わせをしてあげた方が意味がある時間になります。子供が生まれたばかりの部下であれば、雑談をしていろいろと思いを聞いてあげることも大切です。そして、この雑談というのは、うまくいくとよい1on1へのフックになることもあります。時には今日はわざわざ対話の時間をとる必要がないなという判断すらあってもいいと思います。上司は、目の前の部下の成長と幸せを願って、今日の対話の時間をどうデザインするかをちゃんと考えて、対話に臨むのです。そうすれば、きっと双方にとって良い時間が送れると思います。

※写真は、2022年11月の青森。また、行きたいです。

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