ぱずう

柄じゃないけどこういうのしか書けない。自分で上げるのは恥ずかしいと言う旦那の代わりに上げます

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最近の記事

【小説】タシカユカシタ #26

「今度は、あんたが旅に出る番だよ。もうそれしか打つ手がないんだ。これが、あんたの宿命なんだ。なんてったって、あんたは、《勇者》トクの息子なんだからね、浩太、いや《竜人》コウ!」  そう言って、アクアは、また、にたっと笑った。水泳帽とゴーグルが無かったら、魔法使いが笑っているようにしか見えなかったに違いない。  

    • 【小説】タシカユカシタ #25

      「浩太、男でしょ、びしっと、しろ!びしっと!」  それは、美幸が、よく浩太に言うセリフだった。そのセリフをしゃべったのは、なんとアクアだった。それも美幸の声で… 「浩太、さっき、言っただろ。ここは夢の中でも、ヴァーチャル・リアリティーの世界でもない。実際にある世界だって」  アクアの声に戻っていた。 「いまの、何…」  アクアは、にたっと、笑った。 「驚いたかい?私は、なんでもお見通しなんだ。お前の考えていることも、ふだん言われていることもね」 「どうして…今の

      • 【小説】タシカユカシタ #24

        「問題って?」 「さっき、女の子が、倒れただろう?そのとき見ていたプリントが、問題なのさ」  浩太は、先生がいなくなって、みんなが好き勝手に、したいことをやりだした教室のみんなの机の上に、置きっぱなしになっているプリントを見た。 「わたしも、隣のクラスで、誰かが落としたプリントを、読んだんだけどね。それには、こう書いてあったのさ。あの大楠を伐採することに決まったので、その説明会をやるってね」 「えっ」 「つまり、あの木を切るってことさ」 (大楠を…切る?)  大

        • 【小説】タシカユカシタ #23

          「ど、どういうこと?」 「ジャックは、坊やにこの世界を、思う存分楽しめと言わなかったかい?そして十分楽しんだら《宵闇》のところへ行けと…そう言わなかったかい?」  たしかにジャックは、同じようなことを言った。とにかくこの世界を、楽しめばいい。もう十分楽しんだなっと思ったら、《宵闇》のところへ、行けばいいと… 「それが、肝心なんだよ。坊や、この世界は坊やが思っているようなゲームの世界じゃない。ヴァーチャル・リアリティーの世界でもない。この世界は、生きているんだ。感情がある

          【小説】タシカユカシタ #22

           浩太が、後を追いかけようか悩んでいるときだった。教室の後ろの整理箱の付近の床が、一瞬、揺らいだように見えた。その後ぱしゃばしゃと音が聞こえたかと思うと、なんと整理箱のある後ろの壁から不思議なものが、飛び出してきたのだ。  それは、ありえないものだった。少なくとも、教室の中では… (ああ!吉崎先生!)  それは、隣のクラスの担任の吉崎という中年の女の先生だった。  吉崎先生は、父方がギリシャ系の、クオーターだった。背が高くて、黒髪で、瞳は青みがかった灰色で、鼻筋が通った鷲

          【小説】タシカユカシタ #22

          【小説】タシカユカシタ #21

           まだジャックに浩太が、『惜別の部屋』に連れてこられる前の話だ。  浩太がジャックの姿を初めて見たとき、ジャックは浩太にこう言った。 『やっと思い出したみたいだね』  その台詞が頭に直接響いてきたのだった。  その後も頭の中で声がする感じだったのが、ジャックが『惜別の部屋』体験プログラムを、起動させたとたん、普通に声が耳に届いたのだ。 (もしかしたら声が届くように強く念じれば、人間の世界にいる人に声が届くのかもしれない)  浩太は、由香が浩太をこんな目に追い込んだ張本

          【小説】タシカユカシタ #21

          【小説】タシカユカシタ #20

           天井にいる時でも、壁をすり抜けることが出来るのか確かめることも出来ず浩太は閉まっているドアめがけて突っ込んだが、難なく廊下に出られた。  ドアが開く気配がして何人か浩太を目で追ったが、かまわず浩太は廊下の天井を全速力で走った。  職員室の手前の角を曲がり、下駄箱のある玄関を、突っ切って、また角を曲がり、連絡通路の入り口を通り過ぎ、大楠の見えるB棟、一階の廊下まで来たところで、浩太は立ち止まり、ひざに手をかけ、はあはあと、荒い息を吐いた。A棟とB棟は玄関のある棟とつながってい

          【小説】タシカユカシタ #20

          【小説】タシカユカシタ #19

           浩太が真っ先に思い浮かんだのが、ヴァーチャル・リアリティーの世界だった。  ヴァーチャル・リアリティーとは、コンピューター・グラフィック(CG)で現実と全く同じ世界や、現実とは全く違うリアルな別世界を創り出し、その映像を現実と認識させるような感覚機器を取り付けて、その世界を疑似体験させる装置のことだ。  SF映画では、よくある設定だが、現在では技術も進歩し、ゲームの世界や医療現場で実際に使われ功績を上げている。  浩太は、実験室のようなところに自分が寝かされ、いろいろな器具

          【小説】タシカユカシタ #19

          【小説】タシカユカシタ #18

          浩太は、すうぅっと、なめらかに空中を逆さまに動いていった。 大楠まで行くには本校舎を迂回して端を通っていけば簡単だったが、浩太は、ちょっと気になることがあった。 それはジャックが、ティラノが本校舎の中へ溶け込んで消えていったと時に言った言葉。 『一、二年生の中には、まだ僕たちを見ることのできる魂を持った子がいるんだ。そういう子が、あいつを見てさわぐのが面白いのさ、あいつは』  実際は、ティラノは、運動場へトレーニングに行っただけなのだが…  浩太は、実際に浩太に気付く子が

          【小説】タシカユカシタ #18

          【小説】タシカユカシタ #17

           ティラノは、しゃがみこんでひくひくしながら、しばらく笑っていた。 「後悔の泉?」 「小僧、悪いがお前に呪文を教えることは出来ん」 「えっ?何故ですか?」 「俺の知ってる呪文は、俺の主人専用のものだ。お前に教えても、お前は使えない」 「えつ、そんな…じゃあ、僕は、どうすれば…」 「さあな…悪いが、小僧」  ティラノは、すっと、立ち上がった。 「お前の境遇には同情するが、俺も時間が無いんだ。お前にかまっているひまはない」 「そ、そんな…」 「俺は、ジャックと

          【小説】タシカユカシタ #17

          【小説】タシカユカシタ #16

          突然、さっきジャックが惜別の部屋を起動した時と同じ音声が、辺りに鳴りひびいた。 本校舎は、A棟とB棟に分かれている。  まず空のじゅうたんは、B棟をあっというまに突き抜けた。 「わあ!」 そしてA棟も同じように突き破った。 「わあ!」 広い運動場まで一気に出てしまった。 そこには、運動場をランニングするティラノの姿があった。 (ティラノだ!)  運動場には、ティラノ以外誰もいなかった。ティラノは、もくもくと一人で、どしん、どしんと、振動を響かせながら広い運動場ぎり

          【小説】タシカユカシタ #16

          【小説】タシカユカシタ #15

            さ迷う浩太    浩太は途方にくれていた。すべてが逆さまの世界に置き去りにされてしまったのだ。 「なんで、こうなるんだよう」  浩太は、その場に、へたりこんだ。何もない空間に…  秋の心地よい日差しの中、浩太は逆さまで空をクッションがわりにして座っていた。浩太は、思い切ってその上に寝そべってみた。意外に気持ちよかった。 (そういえば、詩に書いてたな。空が、じゅうたんだって…)  浩太は腕を枕にして寝そべりながら、考えにふけった。だいぶ落ち着いたようだ。 (空飛

          【小説】タシカユカシタ #15

          【小説】タシカユカシタ #14

          「そうだ。『タシカユカシタ』みたいな、うその呪文じゃない本当の呪文だ。それを今から教える。今の時代に合わせればパスワードかな?」 「ちょっと待った。いま『タシカユカシタ』は、うその呪文って言った?」 「言ったけど?だってあれは、とくちゃんが考えて浩太がそれを詩に書いただけのものだろ?言ったって、実際に何か起こるわけじゃないじゃん」 「じゃあなんで、さっき僕が呪文を言ったから、それをかなえてやるなんて言ったんだよ」 「はは、だってそうでも言って無理にでもかなえてやらなか

          【小説】タシカユカシタ #14

          【小説】タシカユカシタ #13

          「だいたい学校の怪談話は、《夢語り》の目撃談が元になっていることが多いんだ。でも高学年になって大人に近づくにつれて見えなくなってしまう。あの由香って子も、前は《夢語り》が見えていたんじゃないのかな。今は気配を感じるだけみたいだけど…」 「あのティラノを生み出した主人って、誰なの?」 「さあね。あいつは主人の方に見向きもしないから、分からないな」 (ティラノが巨大化して、学校を歩き回るなんてことは、誰でも考えそうなことだな)  もともとティラノというあだ名も、そういう発想

          【小説】タシカユカシタ #13

          【小説】タシカユカシタ #12

           ひっくりかえるようにして見上げたところには、校舎の屋上の薄汚れたコンクリートの床があって、そのむこうに、やはり逆さまの大楠の生い茂った緑が見えた。 「わあ!」 「願いがかなったんだから、もっと喜んでよ」 見下ろしているジャックを浩太はにらみつけて、文句をつけようとした。 ワッハァハァー ものすごい轟音が、辺りにひびいた。 「わあ!」  今度は浩太とジャックがそろって、おどろきの声を上げた。 「まんまとジャックの手にひっかかったな。小僧」 「ちっ」 分身は

          【小説】タシカユカシタ #12

          【小説】タシカユカシタ #11

          「天井が床か。おもしろいこと考えるなあ」 「ねえ、とくちゃん」 「なんだ」 「なんかじゅもん、ないかな。てんじょうが、ゆかになるじゅもん」 「呪文かあ」  徳次郎は、しばらく腕を組んで考え込んだ。 「ああ、こんなのどうだ」  徳次郎は、浩太の持っていたペンを取り上げて、別のチラシの裏にこう書いた。  タシカユカシタ 「タシカユカシタ?」 「そうだ。いいか、普通だいたい床は下にあるものだ。確か床は下のはず。そうだろう?」 「うん」 「ところがだ。これを、

          【小説】タシカユカシタ #11