見出し画像

【小説】タシカユカシタ #15

 

さ迷う浩太


 
 浩太は途方にくれていた。すべてが逆さまの世界に置き去りにされてしまったのだ。

「なんで、こうなるんだよう」

 浩太は、その場に、へたりこんだ。何もない空間に…
 秋の心地よい日差しの中、浩太は逆さまで空をクッションがわりにして座っていた。浩太は、思い切ってその上に寝そべってみた。意外に気持ちよかった。

(そういえば、詩に書いてたな。空が、じゅうたんだって…)

 浩太は腕を枕にして寝そべりながら、考えにふけった。だいぶ落ち着いたようだ。

(空飛ぶじゅうたんなら、分かるけど、空が、じゅうたんだなんて、よく考え付くなあ)

 浩太は、自分が考えたことなのに他人事のように感心した。

(これ、どこかに境があるのかな?)

ふとそう思って起き上がり、空のじゅうたんを手で探り始めた。

(あっ)

 探り始めてすぐ、じゅうたんの端らしきものを見つけた。
 その端をたどっていくと角があり、またたどる先をと…どうやら長方形の形を、しているようだ。

(縦、一メートル、横、一・五メートルってとこか…厚みも、そんなにないな)

 普通のじゅうたんくらいだ。

(空のじゅうたんって言うより、空飛ぶ見えないじゅうたんだな、これは)

 さわった感じはつるつるしている。浩太は空のじゅうたんに顔を押し付けてみた。
 顔にそってのびるような感じだ。においはない。浩太は、その透明なじゅうたん越しに秋のおだやかな日差しを感じた。

(どうやって動かすのかな?)

 とりあえず、浩太は(動け!)と念じてみた。
 びくともしなかった。

「おい。動いてくれよ」

 空のじゅうたんを手でたたいたがやはり動かない。

「ったく…どうやるんだよ」

 浩太は、また空のじゅうたんの上に寝転がった。

(これからどうすればいいんだよう)

 空のじゅうたんは動かない。《宵闇》に会うための呪文(=パスワード)も分からない。

(あいつを、怒らすんじゃなかった)

 あいつとは、ジャックのことだ。浩太が、お前のことなんかどうでもいいと言ったので、ジャックは呪文を浩太に教えずに消えてしまった。

(そうだ!)

 浩太は、ひらめいた。

(呪文のこと、ティラノに聞けばいいんだ!)

 そう思ったときだった。浩太のまわりの景色が、さあっと動き出した。

「わあ!」

 空のじゅうたんが、動き出したのだ。

「わ、わ、なんで急にぃぃぃ」

 浩太は夢中で透明なじゅうたんに、しがみついた。
急に動き出した空のじゅうたんは、本校舎目指して一直線に進んだ。

「ぶっ、ぶつかるぅぅぅっ!!」
 

「設定Cを一時解除します」


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?