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【小説】タシカユカシタ #16

突然、さっきジャックが惜別の部屋を起動した時と同じ音声が、辺りに鳴りひびいた。
本校舎は、A棟とB棟に分かれている。
 まず空のじゅうたんは、B棟をあっというまに突き抜けた。

「わあ!」

そしてA棟も同じように突き破った。

「わあ!」

広い運動場まで一気に出てしまった。
そこには、運動場をランニングするティラノの姿があった。

(ティラノだ!)

 運動場には、ティラノ以外誰もいなかった。ティラノは、もくもくと一人で、どしん、どしんと、振動を響かせながら広い運動場ぎりぎりいっぱいを、使って走っていた。それでもすぐに一周してしまう。それを何度も繰り返していた。

(そうか!行きたい場所や物を思い浮かべると、そこに行けるんだ)

 浩太は、ようやく空のじゅうたんを動かすこつが分かった。

(でも今の声はなんだ?)

 浩太がいた北校舎は、二階建てで本校舎は、A棟もB棟も三階建てなのだ。いくら北校舎の屋上で、宙に浮いている浩太でも、そのまま進めば、本校舎にぶつかってしまう。ぶつかる寸前であの合成音声が聞こえた。

(設定Cを解除?たしかそんなことを言ってた。設定Cって何だ?)

「なんか用か?小僧」


浩太の物思いを突き破るように、ティラノが大声で言った。

「わぁ!」

 浩太は驚いてティラノを見た。
浩太は寺野先生が苦手だった。いつも、ぎょろりとした目で背も高く、威圧感があるからだ。
 今それ以上に、ばかでかいティラノを前にして浩太は緊張していた。

「あ、あの、あいつから聞いたんだけど…」

「あいつ?ああ、ジャックのことか?」


「あ、はい、そのジャックから《宵闇》を呼び出す呪文のことを聞いたんだけど、呪文を聞きそびれちゃって…知ってたら教えてもらえませんか?」

「呪文?何故だ?呪文を教えなきゃ、任務は完了しない。呪文を教えずにジャックは、行ってしまったのか?」


「ぼ、僕と、けんかして…怒って、消えてしまったんです…」

「何?」

 ティラノは浩太をにらみつけるように見て、右腕にはめている多分ジャックがはめていた物と同じ腕時計のような物(ただしティラノサイズだからばかでかい)の画面を指で操作した。 

ワッハァハァー


 ティラノは、また轟音のように笑った。

「本当だ!あいつ、主人を『惜別の部屋』に置き去りにしたまま行きやがった!減点だ!大減点だ!『後悔の泉』行きだ。こりゃあ、愉快だ!ワッハァハァー」



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