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【小説】タシカユカシタ #13

「だいたい学校の怪談話は、《夢語り》の目撃談が元になっていることが多いんだ。でも高学年になって大人に近づくにつれて見えなくなってしまう。あの由香って子も、前は《夢語り》が見えていたんじゃないのかな。今は気配を感じるだけみたいだけど…」

「あのティラノを生み出した主人って、誰なの?」

「さあね。あいつは主人の方に見向きもしないから、分からないな」

(ティラノが巨大化して、学校を歩き回るなんてことは、誰でも考えそうなことだな)
 もともとティラノというあだ名も、そういう発想からついたあだ名だ。

「じゃあ僕は、これで」

 分身は、そう言って、片手をあげた。

「えっ」

「僕の出番は、これで終了」

「えっ、えっ、ちょっと待ってよ。どういうこと?」

「浩太が、僕を、思い出してくれたからね。これで僕は心置きなく旅に出ることが出来る。ありがとう」

「待てよ!僕を、このまま置いて行く気かよ!もとに戻してよ!」

 分身は、にっと笑って、「あ、そうだ」と、言った。

「まだやることが、残ってた」

 そう言って、分身は、まだ光り輝きながら、回り続けている円盤のところまですうっと近寄った。
 それをおもむろに右手でつかんで、振りかぶって大楠めがけて投げたのだ。
 投げられた円盤は、大楠の生い茂った緑の中に吸い込まれていった。
 大楠全体が光り輝き、大楠の内側から光の爆発が四方八方に飛び出し、学校全体が光につつまれた。
 あまりの眩しさに浩太は目をつむり腕で光をさえぎった。
 ほどなく光は、おさまって、またもとのの状態に戻った。

「これで、すべての手続きが完了した。後のことは、《宵闇》がやってくれる」

「よいやみ?」。

「大楠、つまり霊木に宿る精霊のことだ。浩太は、この世界を楽しめばいい。もう十分楽しんだなっと思ったら《宵闇》のところへ行くんだ」

「ちょっと、待ってよ。僕こんなところ楽しめないよ。もういいからもとに戻してよ」

 浩太は、もう限界だった。ティラノが出てきたりして、そっちのほうに気を取られているうちはよかったが、今こうしているだけで気が狂いそうだった。なにしろすべてが逆さまなのだ。

「はは、頭からこの世界を、拒否してるから楽しめないんだ。もともと浩太が考えたことなんだ。詩を考えたころに戻って楽しみなよ」

 いいか、とジャックは話を続けた。

「自分が十分楽しんだなっと思ったら、大楠の根元のところに大きな洞が、空いているだろう。そこに行って呪文をとなえるんだ。《宵闇》に会うための呪文だ」

「呪文?」

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