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【小説】タシカユカシタ #25

「浩太、男でしょ、びしっと、しろ!びしっと!」

 それは、美幸が、よく浩太に言うセリフだった。そのセリフをしゃべったのは、なんとアクアだった。それも美幸の声で…

「浩太、さっき、言っただろ。ここは夢の中でも、ヴァーチャル・リアリティーの世界でもない。実際にある世界だって」

 アクアの声に戻っていた。

「いまの、何…」

 アクアは、にたっと、笑った。

「驚いたかい?私は、なんでもお見通しなんだ。お前の考えていることも、ふだん言われていることもね」

「どうして…今の、ママの声…」

 アクアは、愉快そうに、ぴちゃぴちゃと、バタ足をした。

「面白いだろう。こんなことも出来る。浩太、ママを頼むぞ」

 セリフの最後の部分は、今度は、徳次郎の声音だった。徳次郎が、離婚して家を出るときに、最後に言った言葉…

「どうして…」

 浩太の目に涙があふれてきた

 『もうそろそろいいだろう。早く浩太を、こちらに寄こせ』

 突然、また徳次郎の声が、響いた。
 でもアクアの口は、動いていない。ジャックが、最初に浩太に話しかけてきたときのように、頭の中に直接響いた。

「トクかい。せっかちだね。まだ説明が、全部済んじゃいないよ」

 アクアは、天井の一点を見つめながら、苦笑いして、そう言った。

『あんたは、話が長すぎる。俺たちのときもそうだった…』

 アクアは、やれやれ、といった感じで、両手を、広げた。

「浩太!トクが、呼んでいる。トクのところに行きな。今から行き方を、教えるよ」

 浩太は、気持ちが、まだ動揺していた。アクアが知らないはずの浩太の両親の口真似をしたと思ったら、今度は、本当に徳次郎本人の声、聞こえてきて、アクアと親しげに話している。

「どういうこと?今の声、本当にとくちゃんなの?」

「そうさ、トクは、昔、私と一緒に旅した仲間さ」

「えっ」

「いいかい。トクは、今、自分のアパートにいる。そこで結界を作って、浩太を待っている」

「結界?」

「そうだ。《統べる竜》使いにまで昇りつめた《竜人》だけが持つ技だ。『惜別の部屋』と同じ空間を、創り出すことが出来る」

「りゅうじんって何なの?ジャックとティラノが、そんなこと言っていたけど…」

「《竜人》は、竜の人と書く。《統べる竜》は、全ての物事を、司る竜のことさ」

 またゲームの話だ、と浩太は、ため息をついた。もう竜を巡る物語の話は、うんざりだった。

「浩太、言っただろ、これはゲームなんかじゃないって」

 アクアは、浩太を指差した。

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