【小説】タシカユカシタ #24
「問題って?」
「さっき、女の子が、倒れただろう?そのとき見ていたプリントが、問題なのさ」
浩太は、先生がいなくなって、みんなが好き勝手に、したいことをやりだした教室のみんなの机の上に、置きっぱなしになっているプリントを見た。
「わたしも、隣のクラスで、誰かが落としたプリントを、読んだんだけどね。それには、こう書いてあったのさ。あの大楠を伐採することに決まったので、その説明会をやるってね」
「えっ」
「つまり、あの木を切るってことさ」
(大楠を…切る?)
大楠を切ることが、何故そんなに問題なのか?
(あ!!)
浩太は、ジャックの言葉を、思い出した。
ジャックは、この『惜別の部屋』は、大楠を、基点にして創られた世界だと言った。その基点である大楠を切ってしまったら、この世界は、どうなる?
大楠には、精霊である《宵闇》も棲んでいる。『惜別の部屋』体験プログラムを、終了させてくれるはずの《宵闇》も消えてしまうのか?なにより浩太は、どうなる?
「え、ぼ、僕どうなっちゃうの?あの木を切っちゃたら…」
アクアは、浩太を見上げながら、少し寂しげな表情をした。
「みんな、一緒に消えて無くなっちゃうのさ、私も、《宵闇》も…この『惜別の部屋』自体が、消えて無くなる…つまりぼうや、あんたも消えてしまうのさ。跡形もなくね」
自分が、消えて無くなる…
浩太は、それがどういうことか理解できなかった。事故で亡くなったりとか、病死の場合は、亡骸も残るし、周りの人にも、その人が亡くなったと認識される。では、消えて無くなるとは…パソコンや、テレビの電源を切るみたいに、ぷっつっと消えてしまうのか。ゲームを、リセットするみたいに…
「リセット…」
「えっ、なんだい?」
「リセット…そうだ、リセットだ!僕、リセットされちゃうんだ!そうでしょ、やっぱり、これ、ゲームなんだ。僕、選択を間違えたんだね。だからこんな結末なんだ。これでゲーム・オーバーなんだ…」
「ぼうや、落ち着きな」
「ねえ、僕、どこかで眠らされてるんでしょ。そこで器具つけられてるんだよね。リセットしたら、目が覚めるんだよね。ね、そうでしょ」
「浩太!しっかりしなさい!」
突然、浩太の母、美幸の声が響いた。
浩太は、びくっとした。
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